映画『ビヨンド・ユートピア 脱北』は脱出の全行程を追った緊迫のドキュメンタリー!
- SERIES:
- 今週末は、この映画に胸アツ!
- TAGS:
- 今週末は、この映画に胸アツ! Culture Cinema
各国で起こっていることは、メディアのニュースですぐに知ることができるのが、今の世の中の常識。しかし、メディアでもなかなか報じることができない“真実”を伝えてくれるものもある。それがドキュメンタリーで、この作品はセンセーショナルな事実を突きつけてくる意味で必見の一本になっている!
北朝鮮を脱出し、韓国などで生活する“脱北者”の存在は、われわれ日本人も知っている。韓国映画には、たまに彼らが重要なキャラクターとして登場したりもする。しかし北朝鮮の現状を考えれば、容易に国を出るなんてとんでもないことも、周知の事実。この映画は、北朝鮮から逃れようとする一家を中心に、脱北者と彼らの支援者の現実を追っていくのだが、異常なレベルの過酷さに、観た人の多くが全身を硬直させてしまうだろう。ブローカーの手引きで一家(両親と2人の幼い娘、80代の祖母)は中国との国境をやっと越えられたのも束の間、そこから北朝鮮の手の届かない場所までの道は、さらに長い……。監督、プロデューサーら制作陣はアメリカ人だ。
何より驚くのは、脱北する一家の運命が細かく記録されている点。安全を考えれば、彼らの姿を撮影することはほぼ不可能だが、本作のスタッフが同行できない場所では、スマートフォンのカメラなどでこっそり撮影。その際に録音された音声には、命の危機が迫る一家の悲痛な叫びも入っていたりして、ひたすら生々しい。特に80代の祖母には、あまりに辛い道のりなのが、手に取るようにわかる。
そんな緊迫感満点の脱北劇の合間に、北朝鮮における戦慄の現実(脱北失敗者の運命、マスゲームの秘密など)が紹介されるし、脱北者を助ける牧師の献身的行動、自分だけ韓国に逃れ、残った息子を決死の思いで脱北させようとする母の苦闘と、全編、息つくヒマを与えない。こんな映画を世界に広めてしまい、制作陣に危険が及ばないかと心配になるほどの衝撃作。今年のアカデミー賞での長編ドキュメンタリー部門へのノミネート、そして受賞への期待も高まっている。
『ビヨンド・ユートピア 脱北』1月12日公開
製作/ジャナ・エデルバウム、レイチェル・コーエン、スー・ミ・テリー 監督/マドレーヌ・ギャヴィン 配給/トランスフォーマー
2023年/アメリカ/上映時間115分
© TGW7N, LLC 2023 All Rights Reserved