『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』(2023年)
MCUへの加入とCGアニメ化!
“マルチバース”を駆使して進化する世界観。
トビー・マグワイア、アンドリュー・ガーフィールドと受け継がれたスパイダーマン役。新たに任されたのは、トム・ホランドだった。
『アメイジング・スパイダーマン2』の公開翌年となる2015年、ソニー・ピクチャーズとマーベル・スタジオの新たな契約によって、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)にもスパイダーマンが登場できることになり、『インポッシブル』などの名演技が評価されたトム・ホランドが大抜擢された。このときトムは19歳。過去の2人に比べ、圧倒的に若いピーター・パーカー/スパイダーマンの誕生である。
『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年)
トムのスパイダーマンが初めてスクリーンに登場したのは、翌2016年公開の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』。このときの出番は短めで“ゲスト出演”的な扱いだった。トニー・スターク(アイアンマン)にスカウトされたスパイダーマンが、アベンジャーズの空港での一大バトルに参加する。
そして2017年、トム・ホランドの主演で公開されたのが『スパイダーマン:ホームカミング』。監督を務めたのは、ジョン・ワッツ。こちらも大抜擢だった。
『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年)
このトム&ワッツ版のスパイダーマンが、過去の2シリーズと大きく違うのは、基本設定が描かれない点。クモに噛まれて特殊能力を身につけたり、育ての親である伯父さんが目の前で死んだりしない。一方でピーターが子供時代にアイアンマンに遭遇し、彼に憧れてアベンジャーズ入りを目指していたという“裏設定”も考え出された。すでにNYでスパイダーマンとして自警活動をしていたピーターが、『シビル・ウォー』の戦いに呼ばれ、その後の物語が『ホームカミング』で展開していく。
『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年)
NYのクイーンズに住む15歳の高校生ピーターが、トニー・スタークからもらったスーツを着て、スパイダーマンとして活動。兵器を密売し、怪人バルチャーと化すトゥームスに立ち向かう。ピーターとクラスメイトたちのドラマも描かれ、1980年代のジョン・ヒュース監督作へのオマージュなど、前シリーズ以上に青春映画のノリも濃厚。暴走気味で失敗することも多いピーター/スパイダーマンに、トム・ホランドの個性がぴったりで、彼は一躍人気スターとなる。舞台ミュージカルの経験もあるトムは、アクション場面でその身体能力を大いに発揮した。
そこからトム・ホランドのスパイダーマンはMCU作品に登場。2018年の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』、2019年の『アベンジャーズ/エンドゲーム』でアベンジャーズの一員として戦いに加わった。そして『エンドゲーム』の直後に、再び単独作品とし『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』が公開。同作では、時系列から『エンドゲーム』をふまえた物語が描かれた。スクリーンでスパイダーマンの活躍を観られる頻度が急上昇したと言っていい。
「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」(2019年)
この頃になるとMCUでも“マルチバース”の世界観が多用されるようになり、『ファー・フロム・ホーム』でも、別のバースから来たミステリオが敵となる。このマルチバースは、続く2021年(日本は2022年)公開の3作目『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』で、映画ファンが歓喜する奇跡を導くことになる。それは3人のスパイダーマンの共演だ。
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021年)
この『ノー・ウェイ・ホーム』ではアベンジャーズの仲間であるドクター・ストレンジのパワーにも助けられ、ほかのバースの扉が開くことによって、トビー・マグワイアとアンドリュー・ガーフィールドのキャラクターが、トム・ホランドの目の前に現れる。つまり彼らは別々のバースで、それぞれスパイダーマンとして活躍していた……ということ。さらに過去の宿敵たちも登場し、2002年からはじまったスパイダーマン映画の集大成と言ってもいい世界が展開された。
こうしてアップデートされ続けるスパイダーマン映画だが、トム・ホランド主演による4作目も2023年の現時点で待機中。詳細は明らかにされていないが、過去の例からすれば、次でトムのスパイダーマンも最後になる可能性はあるだろう。その意味で、劇的なストーリーに期待が高まる。
『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018年)
またスパイダーマン映画ということでは、2018年(日本は2019年)公開のCGアニメ『スパイダーマン:スパイダーバース』が、新たな人気を獲得。実写版の主人公、ピーター・パーカーが亡くなったという衝撃の設定の下、ブルックリンに住むアフリカ系の高校生、マイルス・モラレスがクモに噛まれてスパイダーマンとなる物語。ここでもマルチバースが効果的に使われ、さまざまな次元で活動するスパイダーマンが登場する。この作品は大絶賛され、アカデミー賞で長編アニメーション賞を受賞。ここから2部作となる続編が作られ、その前編である『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』が2023年6月に公開され、大ヒットを記録している。
『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』(2023年)
このアニメシリーズは、「大いなる力には、大いなる責任が伴う」というスパイダーマンのスピリットがみなぎっているうえに、次元によってアニメのタッチが変化するなど、新たな面白さを提供。次々と登場するスパイダーマンキャラの中で、スパイダーウーマンを主人公にしたスピンオフが構想されるなど、その世界観はさらに広がっていきそうだ。もしかしたら、この『スパイダーバース』と実写の『スパイダーマン』も、いつの日かリンクするのでは……などと想像もふくらむ。スパイダーマンの世界は今後も無限に進化していくことだろう。(前編、中編はこちら)
『スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース』公開中
監督/ホアキン・ドス・サントス、ケンプ・パワーズ、ジャスティン・K・トンプソン 脚本/フィル・ロード、クリストファー・ミラー、デヴィッド・キャラハン 声の出演/シャメイク・ムーア、ヘイリー・スタインフェルド、ブライアン・タイリー・ヘンリー 配給/ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2023年/アメリカ/上映時間140分
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Photo by AFLO