映画は、主人公の気分になってその世界に入り込むもの。そして入り込んだ世界がどこか非日常的だったり、不穏な空気が漂っていたりすると、観ているこちらも前のめりになっていく。そんなパターンが好きな人に最適なのが、この『ドント・ウォーリー・ダーリン』だ。
この作品、強いてジャンルを示すなら“ユートピア・スリラー”。一見、すべてが満ち足りたような場所で、何か恐ろしい秘密が進行していると感じさせる。都会から離れた美しい街、ビクトリーで暮らすアリス。自宅はおしゃれで広く、愛する夫とも幸せな生活を送っている。家事の合間には近所づきあいや、ダンスのレッスンを受け、満たされた日々だ。しかしビクトリーには謎のルールがある。妻は専業主婦でいる。夫の仕事を知ってはいけない。決して街の外へ出てはならない……などなど。やがてアリスの日常に奇妙な事件が起こりはじめる。料理に使う卵がちょっとおかしかったり、現実と幻覚が入り乱れたりしながら、些細な謎が積み重なっていく感覚がスリリング!
よく似たムードなのが、日本でもヒットした『ミッドサマー』。ユートピアのような世界が悪夢と化した同作で主演を務めたフローレンス・ピューが、本作でもアリス役を熱演。街の秘密に感づきそうになった彼女が、周囲から精神的に追い詰められる姿は痛々しいが、一方で夫役のハリー・スタイルズとは大胆なラヴシーンにも挑み、いまハリウッドを代表する若手スターの実力を満喫させてくれる。ビクトリーの真実が見えてくる中盤からは、大スケールのアクション場面も用意され、劇的なクライマックスへと一直線。そして何より、1950〜60年代のアメリカを意識したインテリアや衣装などプロダクションデザインが細部まで必見で、遊び心満点の映像もあちこちに仕掛けられ、“目で楽しむ”一作になっている。
『ドント・ウォーリー・ダーリン』
製作年/2022年 原案・製作・脚本/ケイティ・シルバーマン 製作・監督・出演/オリビア・ワイルド 出演/フローレンス・ピュー、ハリー・スタイルズ、ジェンマ・チャン、クリス・パイン 配給/ワーナー・ブラザース映画
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