スイスメイドでありながら比較的手頃な価格で高品質なタイムピースを提供する〈レイモンド ウェイル〉。好事家の間では知られた存在だったが、より多くの人々に向けてその名が轟いたのが、権威ある「ジュネーブ ウォッチメイキング グランプリ(GPHG) 2023」においてミレジムコレクションがチャレンジウォッチ賞を受賞したことだった。
「同業者や時計ジャーナリストなど、多くの方から温かいコメントをいただきました。私たちが大切にしてきたウォッチメイキングの取り組みを評価していただき、とてもうれしく感じています」と、〈レイモンド ウェイル〉の3代目CEOであるエリー・ベルンハイム氏は語る。
フランス語でヴィンテージを意味するミレジムコレクションは、2023年11月に誕生したばかり。伝統継承と技術革新の融合によるヴィンテージの現代的解釈「ネオ・ヴィンテージ」を打ち出し、1930年代に流行したセクターダイアルやボックス型などの古典的なディテールに現代の技術を組み合わせ、魅力的な新スタイルを生み出している。
「新型コロナウイルス感染症によって世界中の動きが止まってしまったとき、改めて自分たちを振り返る機会を得ました。熟練の時計師たちと意見交換を重ねた末、セクターダイヤルなどヴィンテージのエッセンスを現代によみがえらせたいという想いが募ったのです。視認性を高めるために針の先端部分を曲げたり、文字盤の外周がわずかに下がったボンベダイヤルにしたりと、ディテールの仕上げにも強く意識しています」
その鮮烈なデビューを経て今年、ミレジムの世界をさらに広げるような多数の新作がお目見えする。
左:“ミレジム スモールセコンド”。ケース径39.5㎜、自動巻き、SSケース、カーフレザーストラップ、50m防水。34万1000円 右:“ミレジム ムーンフェイズ”。ケース径39.5㎜、自動巻き、ステンレススティール(ローズゴールドPVD)、カーフレザーストラップ、50m防水。39万6000円(以上レイモンド ウェイル/ジーエムインターナショナル)
スタンダードなスモールセコンドモデルには、2つの新色を追加。西海岸の香りが漂いそうなデニムブルーと、クラシックカーのような趣きのあるブリティッシュレーシンググリーンがそうで、よりトレンドを意識した着用を可能にした。
また、ヴィンテージなエッセンスを強化するムーンフェイズモデルも登場。「このモデルのために新しくデザインされたムーンで、にこやかに微笑んだ“ハッピースマイルムーンフェイズ”なのです」とベルンハイム氏が述べるように、ネオ・ヴィンテージのコンセプトにふさわしい表現がなされている。
さらにセンターセコンドとムーンフェイズについては、39.5㎜に加え35㎜の小径モデルも展開していることも話題に。このほか、横目の3カウンタークロノグラフモデルもラインナップに加わっている。
「機能や用途を変え、より多くの顧客の関心を向けていただけるラインナップへと拡充しました。小径モデルは期待する声が昨年から寄せられており、昨今のトレンドとしても外せないモデルだと考えています」
精巧な機械式ムーブメントが鼓動を打ち、移ろう時の流れを刻んでいく。正確なリズムに空間との調和。そう考えてみると、腕時計を語るには、同じ“芸術”にカテゴライズされる音楽の世界と共通した言葉が散らばっている。〈レイモンド ウェイル〉は、そんな音楽から無限のインスピレーションを受け、イノベーションの触媒としていることも特徴だ。ベルンハイム氏自身、ピアニストだったという母の手引きを受け、幼い頃からピアノやチェロを嗜んできたという。
「創業者である祖父は演奏者ではありませんでしたが、音楽をこよなく愛してきました。静謐な空間で奏でられる音楽の世界は私たちのウォッチメイキングの礎となりましたし、また著名な音楽家とのコラボレーションも数多く実施しました。異業種間での協業が盛んになった時代、競技スポーツやモータースポーツと手を組むブランドが数多く現れても、私たちはコンサートでクラシックやオペラを鑑賞してアーティストたちと身近な存在で居続けるほうが信条に適っていたのです」
また経営活動が多様化する現代において、1976年にスイスのジュネーブで設立して以来ファミリー経営を貫いているのも、今となっては希少だ。
「幼少期より、真面目に時計作りに取り組む祖父の姿を見てきました。創業当時は、クオーツショックがスイスの時計産業を直撃した時代です。その時期にあえて機械式時計製造の道を進んだ祖父の開拓者精神を、常に学ばなければならないと考えています。父は1982年から、私は2014年から事業を継ぎました。CEOとなって10年が経ちますが、私としてはあっという間で、これからも情熱を持って信じる道を進んでいきたいですね。スイスでも数少ない独立系ウォッチメゾンであることは誇りですし、この一族の下に生まれてチャンスに恵まれたと思っています」
家族経営だからこそ関係者間での密なコミュニケーションを重視しており、小さな部品ひとつから話し合うことも多いという。〈レイモンド ウェイル〉はスイスメイドでありながらも、製品価格はおよそ1000から4000スイスフランという抑制的な価格を貫けているのも、そうした努力の賜物なのだ。
時刻を確認する術は街中にあふれているし、スマートウォッチという新機軸も登場した昨今でも、伝統的な腕時計の役割は消え去らないとベルンハイム氏は自信をのぞかせる。
「私自身スマートウォッチを使っていますが、ドレス感のある時計を着けたいシチュエーションもあります。飲み物も一緒です。水で喉を潤せばいいときもあれば、ワインの味わいを堪能したいときもあるでしょう。たくさんのバリエーションが用意され、その中から好みを選べるということが大切なのです。そうした選択肢の中に、私たちだけのポジションも必ずあると信じています」
居心地のいいスタイルを希求する『Safari』読者にとっても、〈レイモンド ウェイル〉はユニークな価値を提供できるという。
「ネオ・ヴィンテージをコンセプトとしたミレジムコレクションが特にそうなのですが、フォーマルなシーンはもちろんカジュアルな装いにもフィットするようデザインしています。最近、私はミレジムのデニムブルーモデルを愛用しているのですが、スーツでも、デニムにTシャツというカジュアルなスタイルにも合うのです。是非コーディネートを楽しんでもらえればと思います」
2026年には創業50周年を迎えることとなり、今から特別なプロジェクトを計画していると話すベルンハイム氏。〈レイモンド ウェイル〉のさらなる躍進に期待したい。Profile
エリー・ベルンハイム
〈レイモンド ウェイル〉CEO。創業者レイモンド ウェイル氏の孫。時計製造、マーケティング、ビジネスマネジメントに堪能で、グローバル戦略の開発強化を担当してきた音楽愛好家で、ピアノやチェロの奏者でもある。
●ジーエムインターナショナル
TEL:03-5828-9080
text:Hiroyuki Yokoyama