Gastronomic City Hanoi*
アジアの美食新興都市として脚光を浴びるベトナム・ハノイ。
今、アジアの美食シーンで最も注目されている街のひとつがハノイである。ローカル食だけでなく、近年は世界のフーディを唸らせる店が続々と誕生。なかでも、ハノイ旧市街にオープンした〈チャプター(CHAPTER)〉はその火つけ役である。
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ハノイ郊外の森をイメージした一皿。オイスターマッシュルームの煮込み、シメジの酢漬け、シイタケのソテー、エノキ茸の天ぷらなど5種類の茸を5種類の調理法で仕上げる
今夏、久しぶりにベトナム・ハノイのレストランを巡って驚いた。数年前までには存在しなかった、ガストロノミー系のレストランが誕生しているからだ。そもそも、ハノイは食の多彩な街である。豊かな食材や食文化を背景にしたローカルフードの屋台は街の風物詩。つけ麺の「ブンチャー」や白身魚の揚げ焼きを使った「チャーカー」、フランス統治の影響をうけたフランスパンのサンドイッチ「バインミー」などの名物料理は、筆者も大好きだ。
ところが、アフターコロナで8%を超える経済成長の好景気を背景に、食のシーンも変貌しつつある。2023年にミシュラン初となるベトナム版が出来たこともあり、多様なスタイルの高級店が登場している。その筆頭の店が、今回ご紹介する〈チャプター(CHAPTER)〉だ。
この店は、ハノイ出身のクアン ドゥン(Quang Dung)シェフが、ハノイ旧市街に2021年に立ち上げた。クアン氏は英国の大学で学び銀行家としてキャリアをスタートさせたエリートだが、食の世界に魅せられシェフに転身。’23年のミシュランガイドでセレクトされ一躍脚光を浴びている。まず店そのものの雰囲気が面白い。ハノイ旧市街の中心地の雑然とした街並みの中に、まるで隠れ家のようにひっそり佇むが、中は別世界。オープンキッチンのある1階は薪台が鎮座し、薪火焼きの香ばしい匂いでゲストを誘う。2階3階はまるでギャラリーのような雰囲気のダイニングで味わう趣向である。
料理は十数皿のコースで構成され、ハノイ近郊に伝わるローカルな食文化を再解釈した、ユニークかつモダンな料理の数々が供される。特筆すべきは、調理法にプリミティブな薪火焼きをメインとしていることだ。クアン氏は、ベトナムの少数民族の村々を訪ねては、伝統的な調理法にそのヒントを得たというが、薪火で焼いたサンドイッチロールや竹串焼きや竹筒焼き、あるいは素材を土で覆う、蓮やバナナの葉で包み焼くなど、ユニークなバリエーションで調理する。そこにベトナムらしいハーブや調味料の風味が重なりエキゾチックでありながら、どこか懐かしい旨さを引き出すのだ。
食材は、ハノイ周辺の伝統のものを中心に、キジや鳩やアヒルなども登場し、食マニアを唸らせる。それでいて、どこかヨーロッパ的なモダンな風味に仕上がるのは、クアン氏が学生時代に過ごした英国の影響もあるのだろう。いずれにせよ、この店でしか体感できない独自の風味を是非味わってみてほしい。
和牛をタイの伝統料理「トラウ・ガック・ベップ」の調味料でマリネし、日本のたたき技法で仕上げた前菜
トラウトをバナナの葉で包み、薪火で蒸し焼きにソースで仕上げた定番料理
ハノイ旧市街の喧騒の中とは思えないモダンなダイニング
今ハノイで最も注目される若手シェフ、クアン ドゥン氏
店の1階は薪火のオープンキッチン
中村孝則 美食評論家
1964年神奈川県葉山生まれ。ファッションからカルチャー、美食などをテーマに新聞や雑誌、テレビで活動中。主な著書に『名店レシピの巡礼修業』(世界文化社)がある。2013年より『世界ベストレストラン50』の日本評議委員長も務める。’22年春、JR九州が運行する「ななつ星in九州」の車内誌の編集長に就任。
●CHAPTERDATA[ チャプター ]
住所:12C Chan Cam Street, Hang Trong Ward,Hoan Kiem District, Hanoi, Vietnam
TEL:+84-333-201-221
URL:https://chapterhanoi.com
『Urban Safari』Vol.45 P33掲載
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