周囲を惹きつけ続けるマリブのカリスマ
マリブの有名ローカルサーファー、チャド・マーシャル。幼少期からマリブのサーフコミュニティで育ち腕を磨いた、レジェンドからも一目置かれている存在。サーフィン以外にも常に斬新なプロジェクトに取り組み、周囲を巻きこむ影響力はまさにカリスマ。今回はそんなサーフシーンになくてはならない存在である彼のヒストリーを追いかけた。
●今月のサーファー
チャド・マーシャル[CHAD MARSHALL]
サーフィンの聖地と称されるマリブ。なかでもピア脇のサーフライダービーチは、多くのレジェンドが集まる歴史ある名所。そんな場所で幼少から父の手ほどきを受け、兄トレースと一緒にスキルを磨いてきたのがチャドだ。
「週末になると父、兄と一緒に海に出かけては一日中サーフィンしていたよ。ストイックに波乗りしているというより、ビーチで楽しいことを見つけて夢中になって遊んでいた感じだね」
まるで大自然を自由に駆け回るように海の中で無邪気にはしゃぐ兄弟。波を思うままにトリムしていく様はレジェンドからも一目置かれるようになり、やがてマーシャル・ブラザーズと称され、その名が知られるようになる。
そんな恵まれたサーフ環境で育ち、年齢を重ねていくにつれますますサーフィンの腕を上げていったチャド。やがて〈アンダーソンサーフボード〉にスポンサードされ、ロングボードの大会に出場するようになる。彼がまだ10代半ば、ネオンカラーのボードが全盛の頃だった。多くの大会で上位の成績をコンスタントに収めるようになった彼は、ジョエル・チューダーがはじめたロングボードの大会“ヴァンズ・ダクトテープ・インビテーショナル”の常連ライダーに。タイラー・ウォーレン、アレックス・ノスト、ライアン・バーチらとともに美しいライディングを披露し話題を呼んだ。
まるで海の中でステップを踏みながらフリーダンスしているようだ、とマリブの名サーファーが彼のライディングをたとえたように、ノーズライディングもまるで軽快なダンスの一部。そんな彼のパフォーマンスは、巨匠ジャック・マッコイが製作した映画『ディーパー・シェイド・ブルー』にも登場し、注目を集めた。
自身の美しいライディングでどんどんその名を広めていったチャド。その伸び伸びと軽やかなスタイルは、まさにマリブの空気感が生んだといっても過言ではないかもしれない。
とはいえ、彼がローカルのサーフシーンに必要不可欠な存在となったのは、決してその波乗りのスキルだけが理由ではない。周囲の人を惹きつける手腕とセンスも大きな理由。実は彼、優秀なショップマネージャーでもあるのだ。
オルタナ系サーフショップの先駆けとして有名な〈モラスク・サーフショップ〉。本店のサンフランシスコの次に誕生したヴェニス店は、その流れを汲みつつも、南カリフォルニアらしいレイドバックした雰囲気。その独特な空気を築いたのが、まさに1年半前まで店長を務めていたチャドなのだ。彼が店にいる日は、プロサーファー、シェイパー、サーフアーティスト、ミュージシャンからハリウッドセレブまで来店。定期のストアイベントやサーフムービーの上映会には、大勢のゲストが押しかけ深夜までパーティが行われていた。“モラスク”という場所を介して彼が核となり、新しいサーフコミュニティがヴェニスに生まれていたのだ。
そのほぼ同時期に、兄のトレースは彼ら兄弟のブランド〈ブラザーズ・マーシャル〉を展開。’80 sテイストなブランドロゴや遊び心あふれるメッセージを綴ったTシャツなど、そのアパレルは“モラスク”でも販売。異色なビーチウエアブランドとして注目されている。このブランドはチャドをスポンサードしているサーフブランド“アンダーソン”とのコラボボードなども製作。多くのサーファーが誇らしげに彼らのボードを楽しむ姿は、マリブやヴェニスで当たり前の光景となっている。
“モラスク”を通じヴェニスで新しいコミュニティを築いたチャドだったが、約1年半前、突然“モラスク”を離れた。というのも、マリブに新しくできた〈クイックシルバー〉が経営する新ショップ〈ボードライダーズ・マリブ〉の店長に抜擢されたのだ。オンザビーチにそびえる大型ショップは、チャドのセンスでオーガナイズ。天井からボードを吊るしたディスプレイなどは、最近流行りの手法。海に面して設置されたカウンターバーはストアで行われるパーティのときに活躍。去年行われたサーフムービーの上映会では多くのゲストでごった返した。
「“モラスク”もこの店も同じくらい愛しているけれど、今の店は規模も大きく、それなりに責任も大きい。それだけにもっと面白いイベントを仕掛けられる可能性に満ちているね」
幼少からサーフィン中心のライフスタイルを送ってきたチャドはマリブを拠点に多くの波乗り仲間と戯れてきた。その顔ぶれは、サーフ界のレジェンドである名シェイパーや人気アーティストなどビッグネームばかり。その中の1人に映画『ビッグ・ウェンズデー』の監督、ジョン・ミリアスも。数年前に彼は「いつかチャドと兄トレースを題材にした映画を作りたい」と言っていたとか。「実はまだシークレットだからあまり詳しいことは言えないな」と、チャドは茶目っけたっぷりにはぐらかしていたが、意外と実現する日は近いのかもしれない。また、’80年代にサーフ業界に革命を起こした名シェイパーでありパフォーマンスアーティストのピーター・シュロフ。実はチャドと兄のトレースの大先輩であり彼らに大きな影響を与えた存在なのだが、今ではすっかりマーシャル兄弟のファンであり、チャドのライディングを絶賛している。さらに意外なところでは、ヒップホップの名レーベル“デフ・ジャム”を築いたリック・ルービンも〝モラスク〞でチャドに出会って以来、交友を深めている。
兄トレースに支えられ、自身の求心力と人脈の広さを生かしてきたチャド。いつもエネルギッシュで前向きな彼の人柄が周囲を惹きつけることは間違いないが、その力の源は兄弟や家族との絆にあると語る。現在は3人の愛娘と妻に囲まれファミリーの大切さを今まで以上に強く感じているのだとか。
「今はこの店をより発展させ家族ともっといい時間を過ごしていきたい。そして将来は兄とのブランド〈ブラザーズ・マーシャル〉のショップも持てたら……とも考えているんだ」
ホームポイントはココ!
ファーストポイント[FIRST POINT]
マリブピアの西側に位置するポイント。ピアのすぐ脇がファースト、その隣がセカンド、さらに隣がサードとなる。ファーストはライトのリーフブレイクでロング向き。波が安定して立ち、ロングライドができることで人気の場所だ
雑誌『Safari』10月号P248・249掲載
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photo : Hayato Masuda text : Momo Takahashi(Volition & Hope)