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CULTURE カルチャー

2021.12.29

『タクシードライバー』が映画界に残したものとは?
ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~Vol.6

 

 
ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~Vol.6

もし映画史上の“問題作ランキング”を作成するなら、21世紀部門でトップに立つのは『ジョーカー』(2019年/監督:トッド・フィリップス)ではなかろうか。おそらくは現在、多感な中学生や高校生が「この映画に心から感動しました」と学校で発言したら、親と一緒に職員室に呼ばれるくらいの勢いがある。 

 
 

 
ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~Vol.6

本作で名優ホアキン・フェニックス(アカデミー賞主演男優賞を受賞)が演じた、悪の権化ジョーカーに覚醒していく道化師の青年アーサー・フレックは、格差社会の分断や闇を表象する究極のアンチヒーローである。そもそも先行の『ダークナイト』(2008年/監督:クリストファー・ノーラン)で今は亡きヒース・レジャーがジョーカーを爆演してから、映画に触発された模倣犯たちの事件が多発していたのだが(2012年、コロラド州の映画館で起きた“オーロラ銃乱射事件”など)、『ジョーカー』公開後はついに日本でも、無差別襲撃事件が発生した。
もちろん現実に負の影響を与えるほどの問題作は、同時に相応のパワーを備えた傑作でもある。ただし『ジョーカー』(並びに『ダークナイト』)の場合、“持たざる者”を反社会的な動乱へと突き動かす煽動性が極めて強い側面がある――というのは、実社会に刻まれた暗黒の事実からも認めざるを得ないところだろう。
 

 
ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~Vol.6

そしてこの『ジョーカー』の最大の元ネタになったのが、カンヌ国際映画祭パルム・ドール(最高賞)も受賞した1976年の名作、マーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ主演の『タクシードライバー』である。

本作でデ・ニーロが演じる主人公トラヴィス・ビックルは、大都会NYの夜を徘徊する孤独なタクシー運転手だ。彼はヴェトナム戦争からの帰還兵で精神を激しく病んでおり、不眠症に悩まされている。当然カネもコネもなく、ドブネズミの巣のようなボロアパートに住んでいる。社会の底辺で蠢きながら憤怒と鬱屈を溜めに溜めて、やがてとんでもない形でブチ切れる驚愕の展開などが、まさにアーサー・フレック=ジョーカーと共通する。『ジョーカー』の舞台となる架空の都市ゴッサム・シティは、治安が悪かった頃のNYがモデルだ。そして『ジョーカー』には、社会に阻害された青年アーサーをコケにする芸能人役としてデ・ニーロが登場するのである! 

 
 

 
ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~Vol.6

しかし正直なところ、『タクシードライバー』がヤバい映画であることは間違いないのだが、筆者は長らく邪悪な問題作というより、単に“かっこいい映画”と認識していた。変だな、と思って久々に本作を観返してみると、確かにトラヴィスという男は盛大に狂っている。「ああ、花の匂いでムカムカする。胃が痛い。俺はガンなのか。死ぬ前にせめて人並みの暮らしがしたい」とヤツアタリのような呪詛的日記を書き、せっかくナンパした女性(シビル・シェパード)を最初のデートで行きつけのポルノ映画館に誘い、速攻でフラれる。ますます「この世は堕落し、汚れきっている!」と間違った正義感を募らせ、ついには闇のルートで手に入れた4挺の拳銃を体にベルトを巻いて仕込み、モヒカン刈りで街頭演説の現場に出向いて大統領候補を暗殺しようとする――。
 

 
ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~Vol.6

だがやはり、こういう露骨な危険人物をつい“かっこいい”と思わせてしまう力が、『タクシードライバー』という映画にはあるのだ。それはヴィジュアルが大きい。トラヴィスが着用している軍用フィールドジャケット、“M-65”のセカンドタイプがめっちゃ素敵なのだ。しかも気合いの入れたモヒカン頭&サングラスと合わせたコーデが痺れるほどキマっているのである。
 

 
ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~Vol.6

実際、この映画のトラヴィスの影響で"M-65"のジャケットタイプはファッションアイテムとして瞬く間に広まっていき、45年経った現在でも色んなブランドがレプリカ品を発売し続けている(ちなみに"M-65"のコートタイプが通称"モッズコート"と呼ばれるものである)。実は1973年の『セルピコ』(監督:シドニー・ルメット)でもNY市警の麻薬課刑事を演じたアル・パチーノが同じ"M-65"のセカンドタイプを着ており、そちらも結構有名なのだが、同アイテムをアイコニックなレベルにまで高めた映画のキャラクターは、やはりデ・ニーロのトラヴィスに尽きるのではないかと思う。
ちなみに細かいことを言うと、“M-65”は寒冷地用。トラヴィスはヴェトナム帰りなので、熱帯用の“ジャングルファティーグ”を着ていたほうが自然ではないかとも思えるのだが、生地の厚さなど防寒性を考えると、“M-65”でないと特に冬のNYの夜などは厳しいからだろうと筆者は解釈&納得している。
 

 
 

 
ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~Vol.6

“解釈”という問題でいうと、当時13歳のジョディ・フォスターが演じた少女娼婦アイリス(役柄の設定は12歳!)を裏社会から救い出そうとする後半の展開は、トラヴィスの妄想だとする説も多い。筆者もそのほうが腑に落ちるのだが、そこは観る人それぞれの視点と気持ちに任せられている、ということだろう。

『タクシードライバー』の人気は日本でも高く、例えば塚本晋也監督の『バレット・バレエ』(1999年)や、武正晴監督の『銃』(2018年)などに、映画作家同士のバトンリレーのような良質の“映画的影響”を見ることができる。だが一方、『ジョーカー』同様に模倣犯の事件も生み、当時25歳のジョン・ヒンクリー・ジュニアという米国の青年が、『タクシードライバー』のジョディ・フォスターにガチで恋してストーキングを行い、1981年3月30日、ロナルド・レーガン大統領の暗殺未遂という怪事件を起こした。くれぐれも現実で真似するのはファッション程度で留めておきたい。

『タクシードライバー』
監督/マーティン・スコセッシ 脚本/ポール・シュレイダー 出演/ロバート・デ・ニーロ、ジョディ・フォスター、アルバート・ブルックス、ハーベイ・カイテル、シビル・シェパード
世界興収/2857万902ドル(Box Office Mojo調べ) 

 
 

 

 
文=森直人 text:Naoto Mori
photo by AFLO
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