『シューマッハ』
製作年/2021年 監督/ハンス=ブルーノ・カマトゥンズ、ヴァネッサ・ノッカー、ミヒャエル・ヴェッヒ 出演/ミハエル・シューマッハ 配信/ネットフリックス
伝説のF1ドライバーの秘蔵映像が満載!
F1の最多優勝(91回)、チャンピオン7回など数々の記録を打ち立てたシューマッハのドキュメンタリーが完成した。シューマッハといえば、歴代のF1レーサーの中でも、その精密なドライビングテクニックが際立っていた。要するに”天才”である。本作は、その天才がどうやってヒーローになっていったかを、きっちり時系列に沿って振り返るので、改めて偉業を実感できる。F1を描いた映画ではよく目にするが、この映画で使われるのは“本物”。接触やクラッシュの瞬間は、観ているこちらも最速時の恐怖を体感してしまう。
F1の歴史を知る人には、アイルトン・セナが急成長してきたシューマッハにどんな態度をとったのか貴重な映像に感動し、長年のライバルになるはずだった両者が迎える運命に、改めて果てしない衝撃を受けるはず。一方で、フェラーリで勝利を獲得する鈴鹿サーキットがじっくり再現されたり、感無量のシーンも豊富。
『ラッシュ プライドと友情』
製作年/2013年 製作・監督/ロン・ハワード 出演/クリス・ヘムズワース、ダニエル・ブリュール
雨の中のレース場面がスリリング!
近年のカーレース映画の中で、多くの人が“傑作”と讃えるのが、この作品。1976年、F1世界選手権での、ジェームス・ハントとニキ・ラウダという2大天才ドライバーの闘いを描く。豪放な性格で、直感型のハントと、冷静で頭脳派、すべて論理的に向き合うラウダ。絵に描いたように対照的な2人のキャラクターが、それぞれ共感を誘い、ライバル対決と、静かに育まれる絆がドラマチックに迫ってくる作り。演じるキャストもハマリ役で、とくにマーベル映画のソー役でおなじみのクリス・ヘムズワースは、ハントと一体化したような演技をみせてくれる。
もちろんクライマックスの最終戦が見せ場になるのだが、中盤のドイツGPが、尋常ではないレースの過酷さに加え、そこで起こる事故も衝撃的。雨の中の加速は、ほかのカーレース映画にはないスリリングなスピード感を味わうことができる。クラッシュの瞬間には背筋が凍るはずだ。
『栄光のル・マン』
製作年/1971年 監督/リー・H・カッツィン 出演/スティーブ・マックィーン
短すぎる車間距離にハラハラ!
2019年度のアカデミー賞作品賞候補になった『フォードvsフェラーリ』と同じく、ル・マンの24時間耐久レースを背景にした作品。前年のレースで大事故に見舞われ、相手のドライバーが亡くなる悲劇を経験したマイケルが、再びル・マンに挑む姿を描く。マイケル役を演じたスティーヴ・マックィーンは、バイクやレースカーに夢中だったことで有名。カーアクション映画の金字塔である『ブリット』でも、多くのシーンで自らハンドルを握り、見事なドライビングテクを見せつけていた。そんな彼の念願のプロジェクトとして完成したのが今作だ。
映画用に撮影されたシーンに、1970年のル・マンの実際の映像が組み合わされ、本物のレースを観ている錯覚もおぼえる。マイケルが先行車を追うファイナルラップでは、その車間距離が信じがたいほど短くなったりして、追突しそうなスリルも味わえるはず。5年前の作品『グラン・プリ』と同じくマルチ分割スクリーンも効果的に使用。製作舞台裏を描いたドキュメンタリー『スティーヴ・マックィーン その男とル・マン』も合わせて観れば完璧だ。
『デイズ・オブ・サンダー』
製作年/1990年 監督/トニー・スコット 出演/トム・クルーズ、ニコール・キッドマン
ドライバー視点が興奮を呼ぶ!
世界3大レースはモナコ、ル・マン、インディ500だが、アメリカでモータースポーツといえば“ナスカー”。この映画の主人公、コール・トリクルはインディでの勝利をめざしながらも挫折。ナスカーのドライバーとして、デイトナ500での栄冠に挑む。ハリウッド作品らしい、苦闘&サクセスストーリーだ。主演のトム・クルーズは、この4年前、『トップガン』での戦闘機F-14のパイロットが大好評で、その流れを今作はモータースポーツの世界にアップデート。トムの当たり役の系統が受け継がれた作品でもある。
大観衆の前を通過するナスカーのストックカー。その目にも止まらぬ速さが圧巻だが、ライバルのクルマの真横に並び、サイドボディ同士が接触。そこから相手のクルマがスピンするなど、ギリギリの駆け引きで手に汗握るシーンが満載。別のクルマがクラッシュし、そこから吹き上がる白煙の中をコールのクルマが通過する映像などは、ドライバーでしか味わえない未知の領域を体感させる。F1とは一味違うドラフティングの最高級テクニックに、随所で興奮させる仕上がりだ。
『グラン・プリ』
製作年/1966年 監督/ジョン・フランケンハイマー 出演/ジェームズ・ガーナー、イブ・モンタン、三船敏郎
ドライバーが吹っ飛ぶ衝撃クラッシュ!
モンテカルロなどヨーロッパ各地のカーレース、そしてF1グランプリに命をかけた男たちを描く、レース映画の“古典”ともいえる一作。ジェームズ・ガーナー(アメリカ)、イブ・モンタン(フランス)、三船敏郎(日本)など各国のスターが集結したことも話題になったうえ、世界的トップレーサーも撮影に協力した。ドライバーの目線も多用したレースシーンの映像は、1966年当時、画期的だった。迫力とスリルを伝えるため、スクリーンを分割するなど、時代を先取りした演出は今観ても古くささを感じない。
コースから飛び出したクルマが、そのまま崖の斜面を滑り上がるなど、実写とは思えないアクシンデントの瞬間が多発。ガードレールにぶつかってドライバーが車外に放り出されるシーンもあるが、これは当時のF1ではシートベルトや肩のハーネスを装着していなかったから。そんな“時代”を感じられる映像が、思わぬスリルで迫ってくるのも今作の持ち味だ。長さは3時間という大作で人間ドラマの部分も多いが、現在の映画に見劣りしないカーアクションを堪能できる。
『ニード・フォー・スピード』
製作年/2014年 監督/スコット・ウォー 出演/アーロン・ポール、ドミニク・クーパー
実写にこだわったスピード感が凄い!
同名の人気レースゲームを原案に作られた、この映画。スーパーカーによる公道レースが描かれるので、『ワイルド・スピード』シリーズの初期作品にも近いが、よりカーアクションを“見せる”姿勢に徹底している。主人公のトビーは、カー・エンジニアとしても、ドライバーとしても超一級のテクニックの持ち主。それだけでカーアクション映画としての期待を高めてくれるうえ、サーキットではなく、非合法のストリート・レースなので、ぶっとんだ映像でアドレナリンを上昇させるのだ。
「レースは芸術だ」と言い切るトビーの愛車、〈フォード〉マスタング シェルビーGT500のほか、〈ブガッティ〉ヴェイロン、〈ランボルギーニ〉セスト エレメントなど、スーパーカーのマニアにはたまらない車種が次々と登場。しかもCGは極力使わず、実写にこだわって撮影されたので、スピード感はもちろん、クラッシュや、その後、クルマが吹っ飛んで回転するシーンなど、とことんリアルに伝わってくるのが、本作の魅力。崖から飛び出し、落下するクルマをヘリコプターが釣り上げて助けるアクションもCGナシ。奇跡の映像を目撃したい!
『フォードvsフェラーリ』
製作年/2020年 製作総指揮/マイケル・マン 製作・監督/ジェームズ・マンゴールド 出演/マット・デイモン、クリスチャン・ベール
臨場感ある迫真のレースシーンにボルテージMAX!
主人公は2人。元レーサーで、心臓の病気のためにカーデザイナーとなったキャロル・シェルビー(その名は“シェルビー・マスタング”などで有名)と、イギリス出身の最速を誇るレーサー、ケン・マイルズ。ともに天才型だが、性格はまったく逆。
論理的で冷静なシェルビーに対し、直情型で、信念を絶対に曲げないマイルズ。観ているこちらも、どちらかに感情移入するのは確実だろう。ときには子供のようにケンカをしながらも、同じ目標を見据えて友情を育んでいく2人。彼らの姿に、心が揺さぶられない人はいないはずだ。
1960年代のモータースポーツ界が再現される本作は、工場からサーキットのシーンまで、当時のレースカーが大量に登場。クラシカルだが、今見てもかっこいいデザインの数々に目を奪われっぱなし。もちろんレースシーンのスピード感、臨場感も満点。全編、抜かりのない仕上がりにも感動。余計な小細工や、妙な新しさを避けて、どこか古きよきハリウッドの風格を保った“男の映画”の魅力に浸ってほしい!
【番外編】『ワイルド・スピード』
製作年/2001年 監督/ロブ・コーエン 出演/ヴィン・ディーゼル、ポール・ウォーカー
ストリートでのレースといえばこちら!
カリスマ犯罪者ドミニク(ヴィン・ディーゼル)率いるスピード狂の無法者チームが、世界を股にかけて活躍する大ヒットシリーズ『ワイルド・スピード』。しかし2001年公開のシリーズ第1作では、まだドミニクはストリートレースを取り仕切る地元LAのチンピラだった。ドミニク率いる強盗団も、盗んでいたのはビデオデッキとかテレビデオ(もはや死語?)と、実にかわいらしいスケール感だったのだ。
この1作めはLAのご当地映画であり、シリーズで1番LAライフが味わえるといっていい。実際にLAの公道を封鎖してストリートレースを撮影したのはもちろん、ドミニクが生まれ育ったラテン系コミュニティとして、ダウンタウンからほど近いエコーパーク界隈でロケをしている。マリオン・パークという広場に行くと、ドミニクが妹のミアと経営していたカフェの建物が(実際は雑貨屋)、坂を少し上がるとシリーズでも重要な場所であるドミニクとミアの家がそのまま建っている。
もうひとりの主人公ブライアンが改造車の試し乗りをしていたドジャーズスタジアムの駐車場も目と鼻の先だし、坂から見えるダウンタウンの摩天楼の遠景もいい。観光地とはひと味違うラテン料理屋や個人経営のショップが多いエリアだが、スタッフはLAならではのこの抜けのいい景色に惚れこんで、映画の舞台に選んだのではないだろうか。
photo by AFLO