9月23日公開される映画『クーリエ:最高機密の運び屋』は、実話に基づくスパイスリラー。舞台は1962年のキューバ危機。ソ連がキューバに核を装備したミサイルを設置したことで、米ソの緊張が急激に高まる。実直なイギリスのビジネスマン、グレヴィル・ウィンはMI-6とCIA捜査官に依頼され、ソ連の幹部オレグ・ペンコフスキーと接触。核戦争の阻止とキューバミサイル危機の回避のために、機密情報を西側へと運ぶ役を務めることになるのだが……。ベネディクト・カンバーバッチは、本作で主人公グレヴィル・ウィンに扮している。
実話を基にしている作品だが、その予備知識を備えてはいなかったと語るカンバーバッチ。「可能な限り文献を読んだよ、当時の暮らしがわかる文献を中心にね。当時のソ連とイギリスの文化の違いや気温の差さえも調べて、グレヴィルの心境を理解しようと思ったんだ」
そのおかげでグレヴィルの人柄にも魅力を感じ、「ユーモアのセンスや根気、予想外の強さに惹かれたんだ」と役にのめりこんでいった理由を明かした。さらに「ほとんど字が読めない失語症を抱えたごく普通のビジネスマンが、重要な機密情報を入手するためのパイプ役へと変身したんだ」と、その勇敢さを称えた。
『007』シリーズを生み出した英国出身のカンバーバッチにとって、スパイ作品は特別に感じていたという。「役者にとってスパイは興味深いごちそうだよ。本性を隠して他人になりすます場面が必ずあって、しかもその転換が素早く、突然だからね」
主人公のグレヴィル・ウィンは、東欧諸国に工業製品を卸すセールスマン。その彼に依頼された任務は、販路拡大と称してモスクワへ行き、世界平和のために祖国を裏切ったペンコフスキーからソ連の機密情報を受け取り、持ち帰ること。あまりにも危険な任務に、一度は拒否をするものの、ペンコフスキーに説得され、やむなく引き受けることになる。つまり、単なるセールスマンだったのが、突如スパイとして活動することになったというわけだ。
実在のグレヴィルはその後、ペンコフスキーの亡命に手を貸そうと再びモスクワへわたったところで、KGBによって1963年5月11日に逮捕されてしまう。
「そこから、ロシアのグラグ(収容所)で、ごく普通の男の忍耐が心身ともに限界まで試されるという悲劇がはじまるんだ」と、カンバーバッチは語る。続けて「彼らはあらゆる拷問を行なった。体罰や精神的拷問。シャワーをお湯にしたり水にしたり。そういう直接的な形で人間を壊しにくるのは恐ろしかったね」と吐露。刑務所で受けた扱いに関する資料を読んでゾッとしたという。劇中のグレヴィルがどのような運命をたどるのかは、是非劇場に足を運んで確かめてほしい。
最後にカンバーバッチは本作が“希望のメッセージ”だと語り、「グレヴィルは予期せず英雄になった。特別な能力もない彼が途方も無いことを任され、プレッシャーの中、やり遂げたんだ。人は誰でも困難を乗り越えることができる。どんなに無力で孤立していると感じても、権利を奪われたと感じても、戸惑い、手に負えないと感じても、できることは必ずあるんだ」とコメントした。『クーリエ:最高機密の運び屋』は9月23日より全国ロードショー。
監督/ドミニク・クック 出演/ベネディクト・カンバーバッチ、メラーブ・ニニッゼ、レイチェル・ブロズナハン、ジェシー・バックリー 配給/キノフィルムズ
2021年/イギリス・アメリカ/上映時間112分
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