映画に限らず、エンタテイメント作品にはシリーズの第1作を超えんばかりの出来ばえを示し、「どっちが偉大か」の論争になる続編というものがしばしば存在する。
例えば『エイリアン』(1979年/監督:リドリー・スコット)に対しての『エイリアン2』(1986年/監督:ジェームズ・キャメロン)。あるいは史上唯一、正編・続編ともにアカデミー賞作品賞を受賞した『ゴッドファーザー』(1972年/監督:フランシス・フォード・コッポラ)と『ゴッドファーザーPARTⅡ』(1974年/監督:フランシス・フォード・コッポラ)。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年/監督:ロバート・ゼメキス)も、"2015年の未来像"を鮮やかに描き出した『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』(1989年/監督:ロバート・ゼメキス)のほうにスポットが当たる機会が多くなってきた。
アニメだと、とことんハードボイルドな『ルパン三世』の第1シリーズ(1971年~1972年/音楽:山下毅雄)と、コミカルさを加味した第2シリーズ(1977年~1980年/音楽:大野雄二)では好みや思い入れの深さが分かれるだろう。
テレビドラマだと『3年B組金八先生』。第1シリーズ(1979年~1980年)以上に、不良少年・加藤(直江喜一)の姿が胸を打つ名編“腐ったミカンの方程式”を生んだ第2シリーズ(1980年~1981年)のほうが伝説として語られることが多い。
中年殺しのタイトルばかり並べてしまったが、そんな“凄いパート2”の最たる代表格として挙げられるのが略称『T2』こと『ターミネーター2』(1991年/監督:ジェームズ・キャメロン)ではないか。若き日のキャメロン監督が低予算で創出した『ターミネーター』(1984年)はもちろん偉大なオリジナルだが、時代に残したツメアトの度合いでは、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)のアトラクション『ターミネーター2:3-D』にも発展した、このメガヒット大作のほうが深いかもしれない。
主題歌はガンズ・アンド・ローゼズの『ユー・クッド・ビー・マイン』。この“俺たちの懐メロ”が勇ましく鳴り響く『T2』には“1991年”という時代感があふれまくっている。
例えば、ティモシー・シャラメ主演の『HOT SUMMER NIGHTS/ホット・サマー・ナイツ』(2018年/監督:イライジャ・バイナム)の舞台となるのは1991年夏のアメリカなのだが、この年の象徴として劇中に配されているアイテムが、発売されたばかりのゲーム『ストリートファイターⅡ』と、ドライヴインシアターで上映中の『T2』なのだ。当時、青春もしくは思春期を過ごした世代にとっては「それな!」と叫びたくなる的確なチョイスである。
映画史のうえでエポックだったのはCGだ。悪役の新型ターミネーター“T-1000”(ロバート・パトリック)が液体金属という何にでも変身可能なボディの設定で、これを開発途上の段階から抜け出しつつあったコンピューターグラフィックで見事にヴィジュアル化した。本作でアカデミー賞視覚効果賞を受賞したVFXスーパーバイザーのデニス・ミューレンは、続けて『ジュラシック・パーク』(1993年/監督:スティーヴン・スピルバーグ)の恐竜群を手掛け、この2作は“VFX革命”の起点としてよく位置づけられる。
筆者もリアルタイム公開当時、T-1000がスライムのように自由自在に変化し、ボコボコに破壊されてもすぐ蘇生する映像に「うおぉ!」と声を出して驚いたものだが、もちろんコレらは今の目で観ると非常にのどかなもの。
今回、この原稿を書くに当たり、アマゾンプライム・ビデオで久々に再見したのだが、むしろ「ほぼアナログの特撮じゃん!」ってことに驚愕し、感動した。
最近のエンタメ大作がテクノロジーの発達と共に「あとはCGで何とかなるべ」とばかり、だらしない万能主義に陥っているのに対し、VFX黎明期の『T2』はCG自体も瑞々しく、全体が人力の仕事で支えられている。隣で一緒に観ていたバスケ好きの小学3年生の息子も137分がっつり魅入っており、笑顔で「5点満点で5点」をつけてくれた(ちなみにパート1は未見)。Z世代より若い今の子供が観ても、やはり文句なしに面白いのである。
ジャンルでいうと“タイムトラベルSFアクション”になるが、ノリは頭脳派というより筋肉系で、ストーリーは極めて単純である。冒頭シーンは2029年の未来。人類は1997年の核戦争で一度壊滅しているのだが、その悲惨な歴史を変えるため、核戦争が起こる原因が生じる直前の時期――1994年から95年のロサンゼルス(並びにメキシコ)が本筋の舞台となる。この基本設定を理解しつつ、ほかは以下の3点だけ、おさえておけば概ねだいじょうぶだ。
●パート1でヒロイン、サラ・コナー(リンダ・ハミルトン)の敵だったターミネーター“T-800”(アーノルド・シュワルツェネッガー)は、今回は味方である。
●なぜならサラの息子ジョン(エドワード・ファーロング)が、かつてのサラと自分を守るために、2029年の未来からT-800のプログラムを書き換えて1994年の過去に送ったから。
●で、今回の敵は新型ターミネーターのT-1000となる。シュワちゃん演じるT-800は旧型ターミネーターのため、スペック自体は敵のほうが遙かに高い。だからめっちゃヤバい。
この明快な構成の本編を楽しみながら、うちの息子は「鬼ごっこみたい」とふと呟いたのだが、まさに正解だ。ほぼ不死身のT-1000がしつこい鬼となり、ひたすらサラ&ジョン&シュワちゃんを追いかけるだけと言って過言ではない内容である。
そんな中、血も涙も心も備わっていなかったT-800のAI(人工知能)がだんだん人間の感情を学習していく展開もポイント。そして涙なくしては観られない切ないラストへと至る。
これで美しく完結したはずだったのだが、しかし本作『T2』の興行がケタ外れの大成功を収めたせいで、シュワちゃんのキメ台詞「アイル・ビー・バック!」と共に、どうでもいい余計な続編群が積み重ねられていくことになる……。
『ターミネーター3』(2003年/監督:ジョナサン・モストウ)以降のシリーズ作もヒマならそれなりに楽しめると思うが、『T2』の“1991年の輝き”は第1作と共に別格として、永遠に愛し続けたい。ちなみに『とんねるずのみなさんのおかげです』で当時放送されたパロディコント『タカミネーター2』もなかなか良い出来だったのを、原稿書きながら想い出した。
『ターミネーター2』
製作年/1991年 製作・監督・脚本/ジェームズ・キャメロン 出演/アーノルド・シュワルツェネッガー、リンダ・ハミルトン、エドワード・ファーロング、ロバート・パトリック
世界興収/5億2088万ドル
photo by AFLO