
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』
製作年/2024年 監督・脚本/ジェームズ・マンゴールド 出演/ティモシー・シャラメ、エドワード・ノートン、エル・ファニング、モニカ・バルバロ
ボブ・ディランの20代前半にフォーカス!
伝説を作ったミュージシャンの映画は、カリスマとして君臨する時代も描かれるが、本作は異色の作り。ボブ・ディランの20代前半のみにフォーカスし、自身の音楽と向き合った一人の青年のドラマとしてピュアな輝きを放つ。1961年、NYに来たディランが、敬愛する歌手ウディ・ガスリーを訪ねてから、さまざまな出会いを通して、名曲『風に吹かれて』などを完成。フォーク・フェスティバルで革新的なパフォーマンスに挑むまでが描かれる。
最大の見どころは20代のディランを託されたティモシー・シャラメの演技で、天才でありつつ、野心との葛藤、奔放な恋愛までを等身大の青年として体現。5年間におよぶトレーニングで、ギターやハーモニカの技術、歌唱力を磨き上げた成果が、パーフェクトに映画に焼き付けられ、感動せずにはいられない。パフォーマンス場面の“ライブ感”は、この種の映画でも最高レベル。ボブ・ディランだけでなく、ジョーン・バエズ、ジョニー・キャッシュといったレジェンドたちも登場。1960年代カルチャーとアメリカの歴史が、一人の天才アーティストの誕生にどう関わったのかも再認識できる。

『Ray/レイ』
製作年/2004年 原案・監督/テイラー・ハックフォード 原案・脚本/ジェームズ・L・ホワイト 出演/ジェイミー・フォックス、ケリー・ワシントン、テレンス・ハワード、レジーナ・キング
レイ・チャールズの負の側面も赤裸々に描く!
リズム&ブルースの第一人者で“ソウルの神様”と崇められたのが、レイ・チャールズ。ジョージア州の貧しい家庭に生まれた彼は、仲の良かった弟を亡くし、自らも7歳で視力を失うという悲劇に見舞われる。しかし音楽で未来が切り開けると確信し、ピアノの才能が認められキャリアを積み重ねることに成功する。レイ・チャールズ本人も脚本を点字で読んで細部を確認するなど製作に協力。2004年10月に公開された本作だが(日本は2005年)、その年の6月にチャールズは死去。完成作を観届けることはできなかった。
『我が心のジョージア』などヒット曲により、ミュージシャンとして“神様”に近づいていくストーリーと並行して、麻薬に溺れる負の側面や、女性たちとの関係も赤裸々に描いた一作。むしろそんなスキャンダラスな部分がインパクトを放つのが特徴だ。そうしたリアルな生きざまを、ジェイミー・フォックスが全身全霊で演じ、アカデミー賞主演男優賞がもたらされた。こうした硬派な作りだからこそ、チャールズが亡き母を回想するシーンなどが逆にピュアな感想を誘ったりもする。ミュージシャン伝記映画という枠を超えて、人間ドラマとしての見ごたえが大きい。

『ボヘミアン・ラプソディ』
製作年/2018年 原案・脚本/アンソニー・マッカーテン 監督/ブライアン・シンガー 出演/ラミ・マレック、ルーシー・ボイントン、グウィリム・リー
ミュージシャン伝記映画の金字塔!
ミュージシャンの伝記映画として日本でも最大のブームを起こしたと言っていいのが、クイーンのフレディ・マーキュリーを主人公にしたこの作品。ラスト21分にもおよぶライブ・エイドでのステージ。そのカタルシスは映画史に残ると言ってもいい。クイーン結成の1971年から、そのライブ・エイドの1985年までを、バンド内部の人間関係、フレディのプライベートなどのドラマに、ヒット曲の数々が絡む理想的な構成。タイトルの『ボヘミアン・ラプソディ』の製作秘話などドラマティックな要素がぎっしりで、リアルタイムの軌跡を知らなかった世代にも、本作でクイーンのファンになる人が続出した。
ラミ・マレックはアカデミー賞主演男優賞を受賞しただけあり、フレディのステージ上の動きを完コピ。クイーンのファンを感動させた。さらにフレディ以外のメンバーも、各キャストの外見&演技があまりにそっくりで驚くばかり。半端ない再現度が本作の魅力になっている。『伝説のチャンピオン』『RADIO GA GA』など今も受け継がれ、まったく古びないクイーンの曲の数々に改めて魂が揺さぶられ、エイズによって45歳の若さでこの世を去ってしまったフレディが、もっ長く生きていたらどんな偉業を残したのか、そんなことにも思いを馳せる人も多いはず。

『シド・アンド・ナンシー』
製作年/1986年 監督・脚本/アレックス・コックス 出演/ゲイリー・オールドマン、クロエ・ウェッブ、アンドリュー・スコフィールド、コートニー・ラヴ
ゲイリー・オールドマンの出世作!
伝説の輝きは短いほど、鮮烈に残るのかもしれない……。わずか21歳で亡くなったシド・ヴィシャスは、まさにこの代表格だ。パンクロックというジャンルを世界に知らしめたセックス・ピストルズで、ベーシストだったヴィシャス。もともとピストルズのファンだった彼は途中からメンバーに加入。その過激なパフォーマンスと言動、そして独自のファッションでカリスマ的な人気を得ることになる。しかし薬物中毒でライブでの演奏もできなくなり、他のメンバーとも対立が絶えず、ピストルズは解散。その後、ヴィシャスは恋人のナンシーを刺殺して逮捕。保釈中にドラッグのオーバードースで彼自身も亡くなる。あまりに劇的で短いヴィシャスの人生の中でも、ナンシーとの日々に焦点を当てたのが本作。ヴィシャスの死の7年後に公開された。
アメリカから来たナンシーとの出会いによってドラッグに溺れ、破滅的な運命に向かうヴィシャスの姿は切ないが、全編にパンクでアナーキーなムードが漂い、1970年代のパンクムーブメントを体感できるという意味で、クール&カッコいい映画としてカルト的人気を得た一作。ヴィシャスの母にも話を聞いて役作りしたゲイリー・オールドマンは本作をきっかけに実力派スターの道を築いた。なかでもヴィシャスのパフォーマンスを参考に、『マイ・ウェイ』をパンキッシュに歌い上げるシーンからは、若きオールドマンの怖いもの知らずのチャレンジ精神が感じられる。このシーンはヴィシャスのセミドキュメンタリー『ザ・グレイト・ロックンロール・スウィンドル』とぜひ観比べてほしい。

『ストレイト・アウタ・コンプトン』
製作年/2015年 原案・脚本/アンドレア・バーロフ監督/F・ゲイリー・グレイ 脚本/ジョナサン・ハーマン 出演/オシェア・ジャクソン・Jr.、コーリー・ホーキンス、ジェイソン・ミッチェル、ポール・ジアマッティ
N.W.A.の発足から崩壊までを描く力作!
アイス・キューブ、ドクター・ドレー、イージー・Eと、後にカリスマとなる超強力メンバーによって結成された、ヒップホップ・グループのN.W.A.。すべての始まりは1986年。カリフォルニア州でも最も治安の悪い街のひとつ、コンプトンで、ドラッグの元売人のイージー・E、DJのドクター・ドレー、作詞に夢中になるアイス・キューブらが出会い、コンプトンでの黒人たちの現実をラップに変えて発信する。その過激なリリック(言葉)の数々で人気を得る一方で、警察からは危険視され、さらにN.W.A.の内部でもさまざまな対立が生まれ、グループは崩壊への道をたどっていく。
製作にはアイス・キューブやドクター・ドレーが参加したうえに(イージー・Eは故人)、アイス・キューブ役を彼の実の息子オシェア・ジャクソン・Jrが演じるなど、とにかくリアリティを重視。アメリカ社会の矛盾を鮮烈にアピールする社会派的テーマもさりげなく伝えつつ、洗練されたトラック(バックミュージック)と、赤裸々なリリックの化学反応にヒップホップの真髄を感じさせる力作。映画としてドラマがストレートに伝わってくる作りだし、カルチャー&ファッションの面も含め、ヒップホップに馴染みのない人こそ、目からウロコかもしれない!
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