そしてもうひとつ、『セブン』が革命の域にまで突き抜けたのはヴィジュアルセンスの素晴らしさである。どこかSF的な異世界のように雨が降りしきる都市の光景をシャープ&クールに映し出す撮影を務めたのは、当時フランス映画界の新鋭として頭角を現わしていた名手ダリウス・コンジ。ジャン=ピエール・ジュネ&マルク・キャロ監督の『デリカテッセン』(1991年)や『ロスト・チルドレン』(1995年)のレトロフューチャーな映像美を手掛けたことで注目を集め、『セブン』でハリウッド進出。なおこの後、ジャン=ピエール・ジュネが監督を務めた『エイリアン4』(1997年)の撮影も手掛けた。そして『セブン』の中でも特に伝説化したのが、カイル・クーパーによるタイトルデザインである。ビザールな雰囲気を伝える腐臭漂う映像美と、刃物で切断するような鋭利なカッティング、不気味に擦れて震えるタイポグラフィーから成る特異すぎる画面構成……『セブン』の大ヒット後、この鮮烈なデザインの作風をゆるふわでパクったようなオープニング映像が日本でも続出した。映画史全体の視座からしても、タイトルバックの影響力としては、ソール・バスが手掛けた『サイコ』(1960年/監督:アルフレッド・ヒッチコック)と並ぶ最高峰の仕事と言えるのではないか。
もちろんブラッド・ピットのキャリアにとっても、『セブン』は青春スターの域から完全脱皮を果たした重要な一本。劇中で着用しているレザーのハーフコートはファッションアイテムとしての人気も高い。のちにフィンチャー監督とは『ファイト・クラブ』(1999年)や『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2008年)でもタッグを組んだ。そしてフィンチャーは21世紀、誰よりも的確に時代の潮目を読んでいくような抜群の対応力で新たな巨匠の道を歩むことになる。インターネット/SNS業界の黎明期を描いた『ソーシャル・ネットワーク』(2010年)や、ドラマシリーズとして史上初のプライムタイム・エミー賞を受賞したNetflixの『ハウス・オブ・カート 野望の階段』(2013年~2018年)など、何べんも指標となるようなツメアトを残していくのである。
『セブン』
製作年/1995年 監督/デヴィッド・フィンチャー 脚本/アンドリュー・ケヴィン・ウォーカー 出演/ブラッド・ピット、モーガン・フリーマン、グウィネス・パルトロウ、ケヴィン・スペイシー
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photo by AFLO