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CULTURE カルチャー

2024.12.31


『セブン』が映画界に残したものとは?【前編】ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~ Vol.31



1995年のエグすぎる名作、あの『セブン』の4K特別版が2025年1月31日(金)から期間限定でIMAX上映される。全米公開から30周年のアニバーサリー企画だが、こんなのを投下されたら今の新作が全部ぶっ飛ぶんじゃないか?というほど、その強度と衝撃は現在の目から観ても衰えていない。

監督はハリウッド業界を代表するトップディレクターとしておなじみ、鬼才デヴィッド・フィンチャー(1962年生まれ)。天才肌だが、いわゆる学歴エリートではなく、高卒で映像業界に入りILMのアニメーターなども務めていた叩き上げ系だ。やがてマドンナの『エクスプレス・ユアセルフ』(1989年)と『ヴォーグ』(1990年)のクリップでMTVアワード監督賞を受賞するなど、若くしてミュージックビデオやCM界の頂点に登り詰めた彼は、弱冠29歳の時に長編映画デビュー作として『エイリアン3』(1992年)を撮る。10代の時のベストムービーが『エイリアン』(1979年/監督:リドリー・スコット)だったフィンチャーにとって、これは夢の大抜擢だった。ところが興行・批評ともにまさかの惨敗。「新しい映画を撮るくらいなら、大腸がんで死んだほうがマシだ」とすっかりスネてしまうのだが、アンドリュー・ケヴィン・ウォーカーのヤバい脚本に出会って長編第2作『セブン』に着手。これがキャリアの成功を決定づける超会心の一打となった。
 

  

 


『セブン』はサイコスリラーの神作品として良く知られるが、同時に秀逸なポリスアクションであり、新機軸のフィルムノワールでもある。物語の舞台は“とある大都会”。撮影はロサンゼルスの市街地で行われたが(終盤の荒野はLAの北に位置するカリフォルニア州のランカスター)、ずっと雨が降っている陰鬱な空模様の一週間が描かれる。脚本家のウォーカーは、80年代の治安が悪化した時期のニューヨークが執筆背景にあると語っており、そう考えるとこの架空の都市は、『ジョーカー』(2019年/監督:トッド・フィリップス)のゴッサムシティに通じる“暗い心象風景としてのNY”的なイメージだと捉えることが可能だろう。またフィンチャーは、ウィリアム・フリードキン監督が『エクソシスト』(1973年)の後に作ったかもしれない映画という想定で『セブン』に臨んだと発言しており、ならばホラー映画『エクソシスト』と、同じフリードキンによるNYを舞台にした都市型ポリスアクション映画『フレンチ・コネクション』(1971年)を融合したようなコンセプトだとも理解できる。
 

  

 


主演はモーガン・フリーマン(当時58歳)とブラッド・ピット(当時30歳)。一週間後に引退を控えた沈着冷静な知性派のベテラン刑事サマセット(フリーマン)と、新たに赴任してきた血気盛んな若手刑事ミルズ(ピット)という、殺人課の先輩・後輩を核にした物語。その点は刑事モノの定番であるバディムービーの形を取っている。

本作は便宜上、“ブラッド・ピット主演”と紹介されることが多いが、物語の構造上はむしろモーガン・フリーマンのほうが主演格だと言える。そして物語のキーパーソンとなるミルズの妻トレーシー役には、グウィネス・パルトロウ(当時22歳)。その頃は無名に近い新人で、私生活でもブラピと交際しはじめて婚約に至ったというゴシップのほうが先行していたが(1997年6月に破局)、本作をきっかけにスターダムにのし上がり、『恋におちたシェイクスピア』(1998年/監督:ジョン・マッデン)で第71回アカデミー賞主演女優賞を受賞。わずか数年の間に演者としての評価をしっかり獲得することになる。ちなみに劇中ではブラッド・ピットの台詞として、序盤にアル・パチーノ主演の『セルピコ』(1973年/監督:シドニー・ルメット)についての言及がちらっとあるのだが、パチーノはサマセットの設定が白人刑事だった時(脚本家ウォーカーは作家サマセット・モームを意識して人物造形し、演者はウィリアム・ハートを想定していた)、この役へのオファーを受けたが辞退している。

続きは中編へ。

 
文=森直人 text:Naoto Mori
photo by AFLO
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