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CULTURE カルチャー

2024.06.02


ジョージ・ミラー監督「人々が『マッドマックス』の世界に魅了される明確な理由は私にもわからない」


ジョージ・ミラー/1945年3月3日生まれ、オーストラリア出身。『マッドマックス』(1979年)で長編映画デビュー。

2015年の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』から9年。同作で主人公のマックスと同じくらい、いや彼以上に観る者の心をつかんだのが、女性大隊長のフュリオサだった。そんな彼女の“起源”を描いた新作『マッドマックス:フュリオサ』はカンヌ国際映画祭でお披露目され、またしても大絶賛に包まれた。満を持しての世界公開を前に、ジョージ・ミラー監督がインターナショナルのオンライン会見に出席。1979年に第1作『マッドマックス』を完成させてから、45年もの歳月への思い、今回のキャストたち、アニャ・テイラー=ジョイ(フュリオサ役)、クリス・ヘムズワース(フュリオサの因縁の相手であるディメンタス将軍役)との仕事などについて語ってくれた。
 

  

 

ーー1作目の『マッドマックス』が公開されてから45年の歳月が流れました。当時と現在では、映画製作の現場も大きく変わったのではないですか?

そのとおり。45年前は、すべてアナログの作業だったからね(笑)。でも現在に至るまで、私の映画製作の精神は変わっていない。それは、ストーリーを重視すること。そこをふまえたうえで、次に映画作りで興味があるのがツール(道具)なんだ。

ーーその精神に従って、今回はアナログとデジタルのバランスにどう向き合ったのでしょう。

この映画では、人間も乗り物も、物理の法則に従って動く。だからできるだけ実物を使って撮影するようにした。映画の観客がスクリーンで焦点を合わせるものは極力、実写で撮ることにこだわったよ。そうは言っても前作『怒りのデス・ロード』からデジタル技術はさらに進化した。だからディメンタスを取り囲む砂嵐など、観客の“周辺視野”にあたる部分にはCGも多用している。風を起こす機械もあるが、それを撮影しながらコントロールするのは難しいし、そこまでやるのはバカげてるだろう(笑)?

ーー『怒りのデス・ロード』でシャーリーズ・セロンが演じたフュリオサを今回、アニャ・テイラー=ジョイに任せました。そのポイントを教えてください。

アニャはドラマ『クイーンズ・ギャンビット』で有名になったが、その前の映画『ウィッチ』のシーンをいくつか観ていた。そしてエドガー・ライト監督が『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』の初期のカットを私に観せてくれて、彼女の魅力に引き込まれたんだ。エドガーも「アニャなら、あなたの要求に何でも応えてくれる」と太鼓判を押してくれたのさ。結果的に、彼を信じて良かった。

ーー前作と同様にフュリオサは、ほとんど言葉を発しない難しい役です。

前作までのマックスもセリフが少なかったが、フュリオサの場合、故郷について話してはいけないから口数が少なくなる。しかも彼女は男のフリをするシーンもある。心の内に渦巻く怒りなどを、すべてアクションや顔の変化で表現しなければならない。そもそもマッドマックスの世界で、言葉はあまり意味を持たないんだ。
 

  

 

ーーそしてディメンタス将軍を演じたのは『マイティ・ソー』のクリス・ヘムズワースです。これはハマリ役だったのでは?

クリスのキャスティングは直感的であり、理論的だ。あの役を演じられるのは彼以外に考えられなかった。初期のコンセプトアートとともにオファーした後、彼は「鷲鼻にしたらどうか」などいくつかのアイデアも出し、最終的に初期のイメージで残ったのは、テディベアのぬいぐるみだけになった。クリスは人間性、および演技のアプローチの両面で多彩な魅力をもつ人だ。彼の両親はオーストラリアでソーシャルワーカーの仕事にも携わり、虐待された子供の問題に取り組んでいたと聞いた。子供時代からそんな親を見て育ったことが、今の彼に影響を与えたのだろう。アニャにしても彼にしても、一流のアスリートのような資質があり、私は彼らを勝利に向けて導くだけで、最終的に勝てるかどうかは彼ら次第ということだ。

ーーそのように映画を“勝利”に導くうえで、オーストラリアでの撮影中に最も苦労したことは何ですか?

エンドクレジットでわかると思うが、この映画の現場スタッフは約1200人。それが3〜4のユニットに分かれ、私は軍事演習のように彼らを管理する必要があった。安全への意識は重大だし、小道具や衣装などがスムーズに動けば、キャストやスタッフの最高の仕事にもつながるので、それらすべての把握には苦労した。しかもロケ地が変わると、町から町へ大所帯の移動も発生するので、すべてうまく運んだのは幸運としか言いようがない。

ーー『怒りのデス・ロード』も本来はオーストラリアで撮る予定だったのですよね?

大雨のためにオーストラリアの砂漠が花畑になったので、雨が降らない場所を探して、アフリカ西海岸のナミビアに変更したんだ。それはそれで成功だったが、今回は多様な風景をオーストラリアのロケで対応することに成功した。この物語は、気候の大変動などで世界が崩壊してから40〜50年後の設定なので、オーストラリアの半分乾いた砂漠地帯をそれらしく見せるように努力したんだ。

ーー世界が崩壊した状況に、なぜあなたは惹きつけられるのでしょう。

EV(電気自動車)や携帯電話、クレジットカード、さらに送電システムも存在しない世界では、人間は原始的な行動へと回帰するしかない。そうすることで、善も悪も含めて時代や国を超えたテーマが浮かび上がるんだ。極端な世界を舞台にした闘いのドラマは、ひとつの“定番”であり、人間とは何かという問題も探求できる。そんなストーリーを語ることに私は喜びを感じているのだろうね。

ーー1979年の『マッドマックス』から、今回の『マッドマックス:フュリオサ』まで、この世界観が観客を夢中にさせる理由もそのあたりにありそうですね。

そうかもしれないが、人々が『マッドマックス』の世界に魅了される明確な理由は私にもわからない。でも理由が見つからないこそ、こうして映画を作り続けられるのかもしれない。おとぎ話から神話、宗教的な物語と同じように、ある種の“寓話”になっているのは間違いないだろう。
 

  

 

ーー若い時代に医師を目指していたあなたが、こうして映画監督として巨匠になった現在をどう感じていますか?

医学と映画製作には共通点も多いと思う。医師は患者に対して病歴を聞くことで、その人生全体を把握する。登場人物の人生を語る映画と、アプローチは近いのではないか。また高度な医療行為は、志を同じくしたチームが不可欠で、この点もさまざまな才能が集まる映画の撮影現場に似ている。全員のエネルギーと自分のエネルギーをどこに集中させるか模索したり、数々の問題をトリアージする(優先順位を決める)ことで解決したり……。医師と映画監督は意外に近い職業かもしれないね(笑)。

『マッドマックス : フュリオサ』公開中
製作・監督・脚本/ジョージ・ミラー 出演/アニャ・テイラー=ジョイ、クリス・ヘムズワース、トム・パーク、ラッキー・ヒューム、リー・ペリー 配給/ワーナー・ブラザース映画
2024年/アメリカ/上映時間148分

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取材・文/斉藤博昭 text:Hiroaki Saito
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