Safari Online

SEARCH

CULTURE カルチャー

2023.07.21

ファッションの源流を紐解く、あのカルチャーの発火点。
#1 ライダース・ジャケットは、なぜロックで不良なのか?【後編】

 

 
シド・アンド・ナンシー
『シド・アンド・ナンシー』(1986年)

ライダースを着ていればパンクなのか問題
パンクのエネルギーはウエストウッドとマクラーレンの思惑以上に力強いものだった。音楽はその重要なファクターではあったが、社会への不平不満、政治的主張、思想や哲学と結びつきつつ、アート、文学、映画などに幅広く影響していく。そしてもちろん暴力やドラッグの影も。そのあたりの話はあまり詳しく書かないが、若者の沸騰したエネルギーは容易にヤバいところに結びつく。ロッカーズやモッズもそうだった。何事にも光と影があり、ファッションの文脈で語られる安直な言葉には、触れにくいダークサイドも含まれているのが真実だ。ピストルズのシド・ヴィシャスを描いた映画『シド・アンド・ナンシー』(1986年)(1986年)は、感動的な愛の物語であると同時に、救いようのないジャンキーのなれの果てでもあるのだ。 

 
 

 
クルエラ
『クルエラ』(2021年)

一般的な感覚でパンクスというと、モヒカン頭や顔に刺さった安全ピンを思い浮かべるかもしれない。でも、それはごく一部の過激な人。当たり前だけど、当時のロンドンが『北斗の拳』みたいだったわけではない。そのあたりの様子を知りたい方は、2021年公開の映画『クルエラ』を観るのがおすすめ。かなりデフォルメされた世界観ではあるけれど、衣装のクオリティがめちゃくちゃ高く、当時のファッション界隈の雰囲気を含めて気軽に楽しめる作品だ。サブキャラの太っちょ君が、映画の最後の方で急にパンクっぽい格好をしているところに注目。これ、たぶんピストルズのアルバムが出た直後の設定なんだと思う。

パンクという言葉の本来の意味は「不良、チンピラ、役立たず」である。それをいったら、ロッカーズやモッズもいい勝負。『乱暴者』のマーロン・ブランドだってそう。いつの時代もそういう奴らが新しいカルチャーを生み出してきたわけである。彼らのライダース姿を受け継いだザ・ブルー・ハーツは、「ドブネズミみたいに美しくありたい」という名フレーズを残した。この精神がたぶんパンクの本質、というか理想。社会や権威への反抗・反逆を、音楽、言葉、ファッション、態度で表現する。それがパンクでありロックだ。理想どおりにいくかどうかは、また別の問題である。カート・コバーンはライダースを着なかったが、根本にあったのはパンク的な精神。逆にライダースを着ているからといってパンクやロックかというと、そうでもないのは●●を見ればわかるだろう(各自、好きな人を当てはめてください)。
 

 
エディ・スリマン
エディ・スリマン

男子に示された“お洒落ライダース”への道
ライダースを巡る物語は、こんな感じで現代へとつながってくる。何となくお気づきのように、男子がライダースを着るという行為は、なかなかに背負うものが大きい。知れば知るほど「私などが着てしまっていいのでしょうか」という気分になってくる。ただ、その“難しさ”を引き受けつつも、ライダースを現代のファッションとして別次元に進化させた人物がいる。カリスマデザイナーとして多くのファンをもつエディ・スリマンだ。

エディはサンローランでも辣腕をふるい、現在は〈セリーヌ〉のクリエイティブ・ディレクターを務めているが、その真骨頂はやはり〈ディオール オム〉時代(2000〜07年)。めちゃくちゃ細身の服を作り、それを着たいがために大御所のカール・ラガーフェルドが40kg以上もダイエットした……なんて逸話も有名だ。彼のクリエイションにおけるキーのひとつがライダースであり、これまで手がけた各ブランドでも看板アイテムになっている。

エディのクリエイションはよく“ロック”だと語られる。確かに、いかにもロックミュージシャンが着ていそうな細身のスタイルを好むし、ショーで流す音楽や広告ビジュアルにもロックの要素が非常に濃い。彼が音楽を心から愛していて、クリエイションの支えになっている点は疑いがないだろう。でもここで生じるのが、さっきのパンクの話ではないが「ライダースを着ているからロックなのか?」という問いだ。ロックやパンクは音楽・ファッションであると同時に、精神的な態度でもある。エディの表現がロックだというなら、それが何者かへの反抗・反逆である必要がある。でないと、格好だけのダサい人になってしまう。

エディ自身はインタビューが嫌いなこともあり、そんな野暮なことを公に話したりはしない。だから推測することしかできないが、もちろん彼は百も承知だろう。エディはロックが背負う業のようなもの、つまり不良性や反逆性を消化しつつ、それを孤高な精神の高み、鋭利で力強いものとして表現してみせた(と思う)。ロックは基本的に暴力的で破壊的なものだけど、同時にその精神は気高く繊細で、時にエレガントですらある。そしてそれは洗練されたファッションにもなり得るのだ、ということを世の中に知らしめた。

エディの表現は、旧態依然としたファッション界に楔を打ちこむという意味で、パンク的なやり口といえるのかもしれない。本稿の文脈でいえば、ロック=不良のステレオタイプを払拭し、そのうえお洒落グループへの仲間入りを果たさせる大仕事でもあった。男子がライダースをお洒落に着こなせるとしたら、それはエディのおかげといっていい。コッチ方面ならアリだよねと、オルタナティブな道を示してくれたのだ。

ライダースを着るという単純な行為も、こうして考えると奥が深い。俺はギターウルフになるんだという人はそれでいいし、自分のアイデアでお洒落に着こなすのもいい。どんなモチベーションであれ、歴史を知ることでライダースを着ることをもっと楽しめるのではないだろうか。個人的には、ラモーンズの着こなしはやっぱり格好いいと思う。細身のダメージデニムにTシャツをタックインして、足元には白スニーカー。そんなに悪そうに見えないし、年齢もあまり関係ない。でも心の内に強い何かがないと、ライダースに着負けてしまうかも……という不安感は否めないのであった。

#1 ライダース・ジャケットは、なぜロックで不良なのか?【前編】
https://safarilounge.jp/online/culture/detail.php?id=13889

#1 ライダース・ジャケットは、なぜロックで不良なのか?【中編】
https://safarilounge.jp/online/culture/detail.php?id=13897

 

 
文=野中邦彦  text : Kunihiko Nonaka
photo by AFLO
〈フランク ミュラー〉×〈ダナー〉の最新ブーツがお目見え!ワザありデザインが目を引く意外なコラボの1足!
SPONSORED
2025.08.25 NEW

〈フランク ミュラー〉×〈ダナー〉の最新ブーツがお目見え!
ワザありデザインが目を引く意外なコラボの1足!

昨年、驚きとともにユニークな取り組みと評判を呼んだ、〈フランク ミュラー〉と〈ダナー〉のコラボブーツ。早くも登場した第2弾はキャラ立ち必至なデザインはそのままに、カラーやディテールでグレードアップ! 質実剛健なアウトドアブーツを、アートな…

TAGS:   Fashion
俳優・竜星 涼がまとう〈ベル&ロス〉の新作!強く輝きを放つ黒スケルトン!
SPONSORED
2025.08.25 NEW

俳優・竜星 涼がまとう〈ベル&ロス〉の新作!
強く輝きを放つ黒スケルトン!

航空計器からインスパイアされた四角と丸の組み合わせで唯一無二の地位を築き上げている〈ベル&ロス〉。特に現代的なデザインが人気の"BR-05"シリーズに新加入したのが、シャープな輝きと力強さを秘めたセラミック製の黒スケルトンだ。年々深みを増…

TAGS:   Fashion Watches
屈指の“メイド・イン・ジャパン”デニム〈デンハム〉白澤社長もお気に入り!ヴィンテージ感漂う大人のワイドデニム!
SPONSORED
2025.08.25 NEW

屈指の“メイド・イン・ジャパン”デニム〈デンハム〉白澤社長もお気に入り!
ヴィンテージ感漂う大人のワイドデニム!

太めのダメージデニムはストリートなイメージが強く、若者が穿くものと思っている人も意外と多いのでは!? そこでおすすめしたいのが、〈デンハム〉のワイドデニム“ジャンボ”。膝に入った適度なクラッシュや、腿に施された絶妙なバランスのヒゲなど、ま…

TAGS:   Fashion Denim
遊びも食も宿泊も充実の〈インスパイア〉リゾートへ!週末を遊び尽くす大人の韓国!
SPONSORED
2025.08.25 NEW

遊びも食も宿泊も充実の〈インスパイア〉リゾートへ!
週末を遊び尽くす大人の韓国!

羽田空港や成田空港から約2時間で行ける〈インスパイア・エンターテインメント・リゾート〉。迫力のウォーターアトラクションを楽しめるプールや贅沢な5ツ星ホテル、きらびやかな韓国最大級カジノ、食欲をそそる韓流の肉料理など、多彩な魅力が集まってい…

TAGS:   Gourmet Stay&Travel
【時計】ブランド刷新の仕掛け人CEOが語る〈オリス〉は、イタリアにおける“ピアッツァ=広場”でありたい
SPONSORED
2025.08.22

【時計】ブランド刷新の仕掛け人CEOが語る
〈オリス〉は、イタリアにおける“ピアッツァ=広場”でありたい

グループに属さない独立系時計ブランドならではの自由な時計作りで、存在感を放つ〈オリス〉。スイスの機械式時計の文化継承に多大な貢献を果たしてきた“正統派の後継者”である一方、1980年代に趣味的な高級品に留まっていた機械式時計を身近な存在に…

TAGS:   Watches
即完売〈ロンハーマン〉の別注アイテム! 大人カジュアル必携の人気のブラックアイテム!
SPONSORED
2025.08.18

即完売〈ロンハーマン〉の別注アイテム! 
大人カジュアル必携の人気のブラックアイテム!

大人になると色あざやかなアイテムを組み合わせてコーデするということを避け、ベーシックカラーを好むようになってくる。そのなかでも黒は、精悍でスマートに見せてくれるから、アラフォーにとって万能色といえるだろう。さらに季節が秋冬に向かえば、それ…

TAGS:   Fashion
これでライフスタイルが見違える!新鮮アイテムでいつもの夏をアップデイト!
SPONSORED
2025.06.25

これでライフスタイルが見違える!
新鮮アイテムでいつもの夏をアップデイト!

いよいよ待ちに待った夏。バカンスを楽しみにしている人も多いだろう。たとえ予定がなくても、気温の上昇とともに気分をぐっと上げていきたい。そんなときに必要なのが、ライフスタイルをアップデイトするためのアイテムだ。これさえあれば、いつもとはひと…

NEWS ニュース

More

loading

ページトップへ