【傑作選】クリント・イーストウッド出演&監督作10選
『Safari Online』で配信してきたクリント・イーストウッドの出演&監督作をまとめてご紹介!
『グラン・トリノ』
製作年/2008年 監督・主演/クリント・イーストウッド
大人としてどうあるべきか、そのすべてが詰まっている!
頑固一徹、いぶし銀のような魅力を放つクリント・イーストウッドの主演作。大人の男のダンディズムと日常におけるこだわりが全編にちりばめてある。まずかっこいいのが日課。自動車工を定年まで勤め上げた主人公コワルスキーは、毎日ヴィンテージカーのグラン・トリノをピカピカに磨き上げている。亡くなった妻のことも一途に愛していたなど、本物と認めたものを愛し抜く性分は男として見習っておきたいところだ。
物語はコワルスキーと隣に引っ越してきたアジア系移民一家の少年タオとの交流がメイン。未熟な少年に、大人のイロハを教えるところも生き方として惹かれるのだが、1番はクライマックス。コワルスキーがタオ一家とトラブルを起こすギャングに業を煮やし愛用のライフルを持って立ち向かう場面だ。
老人VSギャング集団。どう見ても劣勢なのだが、立ち上がらずにはいられないという、この魂にとにかく心打たれる。当然、本人も承知のうえで、ヒゲを剃り、頑なに行かなかった教会へ赴き懺悔するのだ。この先は本編を観てほしいのだが、このコワルスキーが長年にわたってハリウッドを生き抜いてきたイーストウッド自身と重なって見えることもあり、イーストウッドによる男気指南書ともいえる作品なのだ。
『ミリオンダラー・ベイビー』
製作年/2004年 監督・出演/クリント・イーストウッド 出演/ヒラリー・スワンク、モーガン・フリーマン
名優たちの豊潤なるアンサンブルに涙がこみ上げる
アカデミー賞4冠(作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞)に輝く傑作ヒューマン・ドラマ。ボクシングでのし上がることを夢見るマギーは、自分を鍛えてほしいと老トレーナーのフランキーに懇願する。何度断ってもあきらめないその執念と情熱に彼はやがて折れ、二人は厳しいトレーニングを開始。すると、彼女は一試合ごとにメキメキと頭角をあらわにし、大注目の選手へと成長していくのだがーーー。
数々の名作で歴史に残る”対決”を生み出してきたイーストウッドだけに、本作のリング上におけるファイトシーンの醸成はさすがの凄みが漂う。が、我々が涙を堪えきれなくなるのは、舞台を病室へと変える後半からではないだろうか。リングを降りても命の闘いは続く。父娘にも似た絆を育む二人。静かに、それでいて実に力強く交錯する互いの感情。そっと見守るモーガン・フリーマンの姿。もはや言葉は要らない。まるで映画の神様が宿ったかのような豊潤な香りと味わいをじっくりと味わいたい。
『ミスティック・リバー』
製作年/2003年 監督/クリント・イーストウッド 出演/ショーン・ペン、ティム・ロビンス
哀しみの傷跡を抱えた、荘厳なる街の神話
悠然と流れるミスティック川のすぐそばで、幼なじみの3人の男子たちがとある事件をきっかけにわだかまりを抱え、数十年後、一つの謎めいた殺人事件の顛末へと流れ着いていくーーー。心に闇を抱える役柄を演じたティム・ロビンスを静とするなら、酸素吸入を必要とするほどの激しさで悲しみの演技に臨んだショーン・ペンはまさに動。一級の俳優たちが織りなす剥き出しの演技ひとつひとつに心掴まれ、その果てにある運命結末に深く重く打ちのめされる逸品だ。
イーストウッド組の常連スタッフはいつも気心知れあい、俳優陣を変に緊張させることもない。ただし、何度もテイクを重ねることもなくスピーディに段取りが進むので、だからこそ役者陣は入念に準備して一発で結果を出さねばならない。このリラックスしながら周到に醸成される重厚感。そしてあらゆる要素を大河の如くひとつの流れへと集約させていくイーストウッドの手腕。何度見直しても発見の尽きない、まさに映画の教科書のような作品である。
『スペース カウボーイ』
製作年/2000年 監督・出演/クリント・イーストウッド 出演/トミー・リー・ジョーンズ
ラストで流れる曲は、月旅行の際に是非聞きたい!
かつて宇宙飛行の夢を絶たれてしまったおじいちゃんたちが、突然宇宙行きの切符を手に入れる。この映画では、クリント・イーストウッドやトミー・リー・ジョーンズら、大ベテランの名優陣が若者たちに負けじと奮闘する。実在の宇宙飛行士ジョン・グレンは77歳でスペースシャトルの乗組員として11日間宇宙に滞在、健在っぷりを証明して世界を驚かせた。劇中のお爺ちゃんたちも負けず劣らず頼りになる顔ぶればかりだが、どこかすっとぼけていて微笑ましい。
そして『スペース カウボーイ』は月旅行にぴったりのテーマソングを教えてくれる映画でもある。題名も直球中の直球、フランク・シナトラが歌い1964年にヒットしたバージョンの“フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン(私を月に連れて行って)”のことだ。監督のイーストウッドは、「月に行くことが夢だった」と語るホーク(ジョーンズ)のためにこの曲を映画のラストで流している。
実はこの曲、実際に月に行ったといわれている。アポロ10号とアポロ11号の乗組員が宇宙飛行中にカセットテープで聴いていたというのだ。しかも月面に降り立ったアポロ11号のバズ・オルドリンは月面で聴いたという説すらある。ベタな選曲かも知れないが、もし民間の月旅行が実現するなら、この曲は欠かすことのできないBGMになるに違いない。
『人生の特等席』
製作年/2012年 監督/ロバート・ロレンツ 出演/クリント・イーストウッド
プロとしての引き際。そこで終わりではないことも教えてくれる!
自身の監督作『グラン・トリノ』もそうだが、クリント・イーストウッドほど“引き際”をかっこよく演じられるスターはいないだろう。メジャーリーグのスカウトマンとして長年、その目利きをはたらかせてきたガスも年齢による衰えを自覚しはじめる。弱った視力を補うため、ボールがバットに当たる音でその才能を判断するなど、熟練のなせる技を持つものの、球団フロントからは解雇されかけている。プロフェッショナルとしての引き際をどう考えるかという点で、これほど胸に迫る映画も少ない。
そして今作は、引退を迷う人に対し、家族の対応をしっかり描いているところも見どころ。弁護士として多忙を極める娘が、自分の仕事を休止して父親のスカウトの旅に同行する。母親を早くに亡くし、父に育てられた娘。それゆえに父娘の関係は微妙な距離感だが、彼女は父の仕事ぶりを近くで目にしながら、改めて人生になにが大切なのかを学んでいく。ガスはこれで仕事を引退するかもしれない。それでも人生はまだ続く。引き際を迎える年齢になっても、新たに周囲の人に勇気や人生の指針を与えることができるのだと、今作は教えてくれる。
『インビクタス』
製作年/2009年 製作・監督/クリント・イーストウッド 出演/モーガン・フリーマン、マット・デイモン、トニー・キゴロギ
弱体チームの快進撃に胸が高鳴る!
1994年、南アフリカ初の黒人大統領となったネルソン・マンデラ(モーガン・フリーマン)は、アパルトヘイトによる人種差別や経済格差をなくし、国をひとつにまとめようと尽力する。そんな中、南アフリカでラグビーのワールドカップが開催されることに。白人が愛好するスポーツとして知られ、黒人からはアパルトヘイトの象徴として忌み嫌われていたラグビーだったが、マンデラは自国チームの勝利に国の希望、愛と平和の願いを託すことに…。
マンデラ大統領就任当時の実話を、名匠クリント・イーストウッドが映画化。アパルトヘイトへの批判から国際試合を追放され、弱体化していた南アフリカ代表チームが、予想外の快進撃を見せるワールドカップの展開には実話ならではの高揚感が。スポーツにおける“折れない心”と国を治める者の“曲げない信念”がリンクしているのもいい。
『運び屋』
製作年/2018年 製作・監督・出演/クリント・イーストウッド 出演/ブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン、マイケル・ペーニャ
ダメ老人の愛嬌になぜだか応援したくなる!
ベースになっているのは、2014年に全米を驚愕させた実話。メキシコの犯罪組織に雇われ、コカインをせっせと密輸したおじいさんの物語だ。家庭をないがしろにしたせいで妻や娘に去られ、そのうえ大好きな仕事も失った老人。そんな彼がなんとなく請け負った麻薬の運び屋、これがなんだかんだで意外とうまくいってしまう。
90歳も近い彼の性格は、一言でいうとむちゃくちゃマイペース。そもそもこの人、反省はするけど「まぁ、いっか」的な態度が家庭をダメにしたわけで。運び屋中も自由で、麻薬を積んでいるくせに美味しいダイナーに寄り道したり、困っている人を助けたり。のほほんとした姿勢が、逆に功を奏していく。
たぶん彼をイーストウッド以外が演じたらイラッとすることもありそうだが、そうはならないのが愛され俳優たる“イーストウッド力”。憎めないし、なんなら応援したくなる。とはいえ、「俺ってチャーミングだろ?」的な嫌味はなく、犯罪に手を染めちまった感も一応漂わせているのがいい。このあたりのどうしようもなさを、冷静に描いているのは監督としての“イーストウッド力”。無償でリスペクトされている理由を、ぜひ本編で。
『ピンク・キャデラック』
製作年/1989年 監督/バディ・ヴァン・ホーン 脚本/ジョン・エスコウ 出演/クリント・イーストウッド、バーナデット・ピータース
コミカルなやりとりが魅力!
タフなバウンティハンター、トムは、保釈金を踏み倒した人妻ルー・アンの捕獲を任される。ルー・アンは、人種差別主義グループの一員となった夫の偽札作りの濡れ衣を着せられたことに怒り、夫のキャデラックを奪い、愛娘を連れて逃亡していた。トムはルー・アンを捕まえたものの、キャデラックの中に本物の大金が隠されていたことから、予期せぬ騒動に巻き込まれていく。
クリント・イーストウッド演じるトムは腕っぷしが強く、度胸もあるが、彼と行動を共にするルー・アンも鼻っ柱の強さでは負けていない。そんな彼らの珍道中が物語を面白くする。ルー・アンにふんしたバーナデッド・ピータースとイーストウッドのコミカルなやりとりに注目。『ダーティハリー5』等でイーストウッドと組んだバディ・ヴァン・ホーン監督がオフビートなドラマを演出。
『ガントレット』
製作年/1977年 監督・出演/クリント・イーストウッド 脚本/マイケル・バトラー、デニス・シュリアック 出演/ソンドラ・ロック、パット・ヒングル
クライマックスの銃撃戦がスゴい!
アリゾナ州フェニックスの市警に勤務する刑事ベンは、裁判の証人となった娼婦マリーをラスベガスから護送する命を受ける。それは簡単な任務のはずだったが、マリーを保護するや何者かが襲撃を開始。警官までもが彼らを銃撃してくる。実はマリーは警察上層部にとって都合の悪い証人であり、そのせいで命を狙われていたのだ。ベンは彼女を守りながら、バイクやバスを奪い、命懸けでフェニックスを目指す。
1970年代のクリント・イーストウッドは『ダーティハリー』シリーズで絶大な人気を獲得していたが、本作で演じた刑事ベンは同作のタフなアウトロー刑事とは対極にある。大事件に関わったこともなく酒浸りで、年金生活だけを楽しみに閑職に携わっている男。そんな彼が危険な任務の中で、使命感に目覚めていく。勝ち気なマリーにふんした当時の恋人ソンドラ・ロックと体現する、ロマンスのドラマも見どころだ。
『夕陽のガンマン』
製作年/1966年 原作・製作・監督・脚色/セルジオ・レオーネ 音楽/エンニオ・モリコーネ 出演/クリント・イーストウッド、リー・ヴァン・クリーフ
タイプが異なる賞金稼ぎが活躍!
開拓期のアメリカ西部。強盗団を率いるお尋ね者インディオには1万ドルの賞金がかけられていた。賞金稼ぎの“名無しの男”とモーティマーは、一匹狼ではあったが、手ごわいインディオを捕まえて賞金を山分けすべく、手を組むことに。“名無し”が一味に潜入するも、インディオは簡単に尻尾をつかませず、捕獲計画は難航。さらに悪いことに、“名無し”とモーティマーは、逆に一味に捕らえられ……。
セルジオ・レオーネ監督と主演クリント・イーストウッドのコンビによるマカロニウエスタンの定番。イーストウッドふんする賞金稼ぎ“名無しの男”は、レオーネとの他のコンビ作『荒野の用心棒』『続・夕陽のガンマン』と同様に、ニヒルな個性が映えるアンチヒーロー。金のために動き、そこに情や正義感が入り込む余地はない。対して、リー・ヴァン・クリーフ演じるモーティマーは、まだ少し人間味を覗かせる。タイプの異なる賞金稼ぎふたりを見比べるのも一興。
photo by AFLO