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CULTURE カルチャー

2023.03.15

【後編】映画ライター森直人が第95回アカデミー賞をわかりやすく解説!
授賞式でわかったハリウッドの潮流とは?

 

 
アカデミー賞 

前編では、つい『エブエブ』こと『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のことばっかり書いてしまったので、後編ではもうちょっと全体的な視座からまとめてみたい。今回の第95回アカデミー賞授賞式はざっくり3つの要点に整理できると思う。

①:『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』祭り&アジア系大活躍!
②:「A24」強し!
③:戦争反対のメッセージ――サブラインは『西部戦線異状なし』が席巻!

①に関しては、詳しくは前編のテキストをご参照いただきたい。それに加えて印象的だったのが、『フェイブルマンズ』(作品賞・監督賞ほか計7部門ノミネート)で出席していたスティーヴン・スピルバーグ御大(76歳)の存在である。同作は残念ながら無冠に終わったのだが、しかしスピルバーグは、『エブエブ』祭りに沸く授賞式全体を見守る守護天使のように終始優しく佇んでいたのだ。
 

 
アカデミー賞
記念撮影をするスピルバーグとキー・ホイ・クァン
 

 
アカデミー賞
抱き合うハリソン・フォードとキー・ホイ・クァン

なんせ助演男優賞に輝いたキー・ホイ・クァンは、『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984年/監督:スティーヴン・スピルバーグ)の戦災孤児ショート少年でブレイクした元子役。続いて出演した『グーニーズ』(1985年/監督:リチャード・ドナー)もスピルバーグのプロデュース作品。そんな彼の奇跡的カムバックを恩師スピルバーグが温かく見つめている、あまりに幸福な構図。しかも作品賞のプレゼンターは“インディ・ジョーンズ”ことハリソン・フォードという完璧なお膳立てなのだから、もうたまらない!
 

 
アカデミー賞
”ナートゥ・ナートゥ”のパフォーマンス
 

 
アカデミー賞
司会を務めたジミー・キンメル

そしてアジア系のもうひとつの看板となったのがインド映画『RRR』(監督:S・S・ラージャマウリ)であった。TikTokなどでバズった主題歌“Naatu Naatu”(ナートゥ・ナートゥ)が歌曲賞に輝いたのだが、言うならば授賞式全体において『RRR』チームは”賑やかし“担当。オープニングから司会者ジミー・キンメルが、スピーチ時間を超過して、突如ステージに登場したナートゥダンサーたちに連行される形で強制退場させられるというネタを披露。本当、今回のアカデミー賞授賞式は冒頭からいい感じだった。とはいえ、キンメルがテルグ語映画の『RRR』を「ボリウッド」(ヒンディー語映画)と紹介してしまったことで、後日批判を受けてしまうという一件はあったのだが。
 

 
アカデミー賞
主演男優賞を獲得したブレンダン・フレイザー

②の“A24”とは、いま最も勢いのあるNYを拠点とする独立系映画会社。同社の作品がアカデミー賞で作品賞を獲得したのは、2017年開催の第89回『ムーンライト』(監督:バリー・ジェンキンス)が最初。『エブエブ』はそれに続く2作目になったわけだが(ただしA24は製作には参加しておらず配給のみ)、今回は主演男優賞をブレンダン・フレイザーが獲得した『ザ・ホエール』(監督:ダーレン・アロノスフキー 本年4/7日本公開予定)もA24作品(製作・配給)である。さらに同じ主演男優賞にポール・メスカルがノミネートされていたイギリス・アメリカ合作映画『aftersun/アフターサン』(監督:シャーロット・ウェルズ 本年5/26公開予定)もA24の配給だったりする。
 

 
アカデミー賞
『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』で長編アニメーション映画賞を獲得したギレルモ・デル・トロ

以上の『エブエブ』『ザ・ホエール』『aftersun/アフターサン』の3作は、いずれも同性愛などLGBTQ+の要素がさりげなく――新しい時代のスタンダードとして普通に込められている。『ザ・ホエール』からはヴェトナムとタイにルーツを持つアジア系のホン・チャウが助演女優賞にノミネートされた。いま映画界が求める多様性やリベラリズムを、最も先端的に反映している会社がA24だ。今後も同社の人気と評価はますます伸びていくだろう。
 

 
アカデミー賞
プレゼンターを務めたアントニオ・バンデラスとサルマ・ハエック

ちなみにゴールデングローブ賞の際、『ザ・ホエール』のブレンダン・フレイザーは主演男優賞(ドラマ部門)にノミネートされていたが、賞の主催団体“ハリウッド外国人記者協会(HFPA)”の元会長によるセクハラ被害を訴えており、それが原因か否かは判らないが、ともあれ受賞は逃した(同賞を獲得したのは『エルヴィス』のオースティン・バトラー)。またHFPAの腐敗に抗議して過去の受賞トロフィー3個を返還したトム・クルーズの主演兼プロデュース作『トップガン マーヴェリック』も無冠となっている。
 

 
アカデミー賞
プレゼンターを務めたモーガン・フリーマン、マーゴット・ロビー

以上の事情から今期のゴールデングローブ賞は運営側が批判されることになり、おそらくそれを受けて、という部分もあったのか、今回のアカデミー賞の受賞者はゴールデングローブ賞とは大きく違いの出る結果となった。こういったエピソードにも、労働環境の健全性や社会的・政治的なクリアネスを重視するようになった映画業界の劇的な変化がうかがえる。
 

 
アカデミー賞
4冠に輝いた『西部戦線異状なし』の面々

③に関しては、ネットフリックス配信のドイツ映画『西部戦線異状なし』(監督:エドワード・ベルガー)が国際長編映画賞・撮影賞・美術賞・作曲賞の計4冠を獲得したことを指している。本作はドイツの作家エリッヒ・マリア・レマルクの長編小説を当事国で改めて映画化したもの。同じ原作をアメリカで映画化したルイス・マイルストン監督による1930年版は『プラトーン』(1986年/監督:オリヴァー・ストーン)や『プライベート・ライアン』(1998年/監督:スティーヴン・スピルバーグ)の原型とも評される反戦映画の偉大なクラシックであり、第3回アカデミー賞作品賞を受賞している。
 

 
アカデミー賞
『西部戦線異状なし』の監督エドワード・ベルガー

『エブエブ』に次ぐ『西部戦線異状なし』の大量受賞は、ロシアによるウクライナ侵攻を批判するメッセージを、アカデミー賞が明確に打ち出したものと言えるだろう。また長編ドキュメンタリー賞に輝いたのも、プーチンの政敵となったロシアの反体制派政治運動家、アレクセイ・ナワリヌイの姿を記録した『ナワリヌイ』(監督:ダニエル・ロアー)だった。

ざっと以上、今回のアカデミー賞授賞式は平和の祭典として、実にウェルメイド。ビンタ事件の起こった昨年度が悪い夢だったように、出来過ぎなくらい良く仕上がっていたと思う。
 

 
アカデミー賞
授賞式で『トップガン マーヴェリック』の主題歌を披露したレディー・ガガ

ちなみに筆者が個人的に大ウケしたのは、司会のジミー・キンメルが最初に喋ったネタ――『原始のマン』(1992年/監督:レス・メイフィールド)で共演した2人が、今回オスカー候補になっているんだけど!(ブレンダン・フレイザーと、“ジョナサン・クァン”名義で出演したキー・ホイ・クァンのこと)という冴えたパンチラインだ。しかも2人ともオスカーを獲得しちゃったという。キンメルは5年ぶりで3度目の司会担当。「ボリウッド」の件ではミソついてしまったけど、全体的にはやっぱり安定していて良かったよね。
 

 

 
文=森直人 text:Naoto Mori
photo by AFLO
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