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CULTURE カルチャー

2022.12.29


映画ジャーナリスト宇野維正の『2022年、あなたが見逃してる(かもしれない)傑作配信映画5本』

地上波のゴールデンタイムの『洋画劇場』の枠はなくなって久しく、シネコンの大きなスクリーンは国内のアニメーション作品に占拠され、数少ない(実際に製作本数自体が最盛期から半減している)ハリウッド映画を上映してるスクリーンの客席は人がまばら。現在、かつて日本で『洋画』と呼ばれていたカルチャーは瀕死の状況にある。そこそこまだ元気があるのは韓国映画やインド映画だが、『洋画』の『洋』が『西洋』の『洋』ならば、そもそもそれらを『洋画』を呼ぶのもおかしな話。
 

 
一方で、フレッシュな才能だけじゃなく超大物スターや巨匠クラスの監督まで参入し、年を追うごとに充実してきているのが配信プラットフォームで公開される映画作品だ。年末になるとソーシャルメディアで飛び交う個人の『年間ベスト映画』から漏れることも多く、それどころか日本では批評家でさえスルーしてる人も少なくない(ちなみに日本で最も権威があるとされるキネマ旬報の年間ベストでは投票対象からも外れている)配信映画から、2022年、あなたが見過ごしてる(かもしれない)傑作を5本セレクトした。是非、年末年始のTVライフの参考にしてもらいたい。 
 
 

 
5位 『レイモンド&レイ』(Apple TV+)

製作/アルフォンソ・キュアロン 監督・脚本/ロドリゴ・ガルシア 出演/イーサン・ホーク、ユアン・マクレガー、マリベル・ベルドゥ 2022年製作/アメリカ/視聴時間105分

ユアン・マクレガー演じる安定志向のレイモンドと、イーサン・ホーク演じる破滅型のレイ。異母兄弟として10代まで一緒に育ち、現在は独り身でしょぼくれた中年男性の2人が、生前好き勝手に生きてきた父親の逝去の報を受けて嫌々ながら葬儀へと向かう。「映画って100分くらいの尺で、アメリカの風景をバックにクルマを走らせて、スーパーヒーローではなくありふれた人間のありふれた人生の機微をスケッチするものなんじゃないの?」という自分のような『保守的』なアメリカ映画好きにはたまらない一編。そして、そんな『これぞアメリカ映画』の送り手がアメリカ人監督でもハリウッドのメジャースタジオでもなく、コロンビア人監督のロドリゴ・ガルシア(製作にはメキシコの名匠アルフォンソ・キュアロンの名前も)とApple TV+というのが今の時代。 

 
 

 
4位 『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』(ネットフリックス)

監督・脚本/ライアン・ジョンソン 出演/ダニエル・クレイグ、エドワード・ノートン、ジャネール・モネイ、キャスリン・ハーン、レスリー・オドム・Jr、ジェシカ・ヘンウィック、マデリン・クライン、ケイト・ハドソン、デイヴ・バウティスタ 2022年製作/アメリカ/視聴時間139分

もしかしたらあれは日本だけの奇習だったのか、自分が子供の頃、年末年始になると必ずテレビ放送されていた『オリエント急行殺人事件』や『ナイル殺人事件』といったアガサ・クリスティ原作のオールスターによるミステリー映画。そんなすっかり忘れていた謎のニーズを完璧に満たしてくれるのが、史上最高のテレビシリーズ『ブレイキング・バッド』で名を上げ、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』では世界中で賛否両論を巻き起こしたライアン・ジョンソン監督の『ナイブズ・アウト』シリーズ最新作『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』。株価が暴落する前のネットフリックスは、ダニエル・クレイグがジェームズ・ボンド以上の当たり役である名探偵ブノワ・ブランを演じる、1作目は劇場映画だったこのシリーズを獲得するために4億6900万ドル(約660億円)の契約金を支払ったというから驚き。しかし、どこからどう見てもイーロン・マスクな起業家(エドワード・ノートン)やカニエ・ウェストの女性版的炎上セレブ(ケイト・ハドソン)らが繰り広げる、ミステリーとしてだけでなく現代社会批評としてもシャープな本作の問答無用の楽しさは、それだけの価値があったと思わせてくれる。 

 
 

 
3位 『グレイマン』(ネットフリックス)

原作/マーク・グリーニー 製作・監督/アンソニー&ジョー・ルッソ 脚本/ジョー・ルッソ 出演/ライアン・ゴズリング、クリス・エヴァンス、アナ・デ・アルマス、ジェシカ・ヘンウィック 2022年製作/アメリカ/視聴時間122分

2019年の公開時には『アバター』を抜いて10年ぶりに世界歴代興収記録を塗り替えた『アベンジャーズ/エンドゲーム』。ところで、その監督であるルッソ兄弟のその後の監督作といえば、トム・ホランド演じるリアル“キャプテン・アメリカ”な帰還兵の悲哀を描いたApple TV+の『チェリー』に、ライアン・ゴズリング演じる生身でスーパーヒーローよりも強い元CIA秘密エージェントが活躍するネットフリックスでの本作『グレイマン』。予定されているサブキャラクターのスピンオフ作品も含め今後のシリーズ展開が楽しみな本作は、2022年のアクション映画を代表する1作。ちなみに、『2022年のアクション映画』をもう1本挙げるとしたら、ディズニープラスで配信された『プレデター』のオリジンストーリーを描いたダン・トラクテンバーグ監督の『プレデター:ザ・プレイ』。ほんの数年前までは劇場映画の最後の砦になると思っていたアクション映画のジャンルも、今や配信映画の独壇場だ。 

 
 

 
2位 『アテナ』(ネットフリックス)

製作・監督・脚本/ロマン・ガブラス 出演/ダリ・ベンサーラ、サミ・スリマン、アントニー・バジョン、オウアシニ・エンバレク 2022年/フランス/視聴時間99分

劇場映画の領域が配信映画に着々と侵されているのはなにもアメリカ映画だけではない。2022年に見た映画でスペクタクル的にも撮影技術的にも最大の驚きをもたらしてくれたのは、パリ郊外の団地で起こった民衆の暴動と、それを鎮圧する警察の対立を描いたフランス映画『アテナ』。監督は『Z』『戒厳令』『ミッシング』など1970〜80年代のポリティカル・サスペンスの傑作で知られるコスタ=ガヴラス監督の息子にして、Jay-Z、カニエ・ウェスト、フランク・オーシャンの『No Church in the Wild』のミュージックビデオ(モチーフにおいても手法においても本作『アテナ』の原型になっている)などを手がけてきたギリシャ系フランス人の若き才能ロマン・ガヴラス。なんとこの作品、冒頭11分に及ぶ驚愕のノーカット(に見える)アクションシーンをはじめ一部IMAXカメラで撮影されているのだが、配信映画でIMAX映像を見るという現実をどう受け入れるべきなのか? そんな視聴者の戸惑いを置き去りにして、最前線の映画は配信プラットフォームで進化し続けている。 

 
 

 
1位 『その道の向こうに』(Apple TV +)

製作・出演/ジェニファー・ローレンス 製作総指揮・監督/リラ・ノイゲバウアー 脚本/オテッサ・モシュフェグ、ルーク・ゴーベル、エリザベス・サンダース 出演/ブライアン・タイリー・ヘンリー、リンダ・エモンド、ジェイン・ハウディシェル 2022年/アメリカ/視聴時間94分

2022年、最もストレートな感動をもたらしてくれた映画も、やはり配信映画だった。派兵先のアフガニスタンで心と身体に傷を負ってニューオリンズの実家に戻った女性帰還兵(ジェニファー・ローレンス)と、地元の自動車整備工(ブライアン・タイリー・ヘンリー)の交流と、それがもたらす“心の回復”を終始静かなタッチで描いた珠玉の1作。『レイモンド&レイ』のところでも書いた「映画って100分くらいの尺で、アメリカの風景をバックにクルマを走らせて、スーパーヒーローではなくありふれた人間のありふれた人生の機微をスケッチするものなんじゃないの?」という意味において、2022年、これ以上の映画作品はないでしょう。一時期キャリア的に迷走気味だったジェニファー・ローレンスにとっても間違いなく新たな代表作(本人もそう認めてる)となった本作。とにかく一人でも多くの人に見てほしい。

なお、今回Apple TV+とネットフリックスに作品が偏ったのは、この二つのプラットフォームがテレビシリーズだけでなくオリジナル長編映画の製作、もしくは長編映画の独占配信権の獲得に力を入れているから。ちなみに2022年のアカデミー賞で作品賞をはじめ脚色賞や助演男優賞を受賞した『コーダ あいのうた』も、たまたま国内配給権を先に取得していた日本以外の国ではApple TV+で公開された作品だった。もはやApple TV+やネットフリックスの作品に触れずに“現在の映画”について語ること自体、少なくとも日本以外の国では誰からも相手にされない滑稽な行為だということを最後に言っておく。 

 
 

 

 
文=宇野維正 text:Koremasa Uno
photo by AFLO、画像提供 Apple TV+、 © NETFLIX, INC. AND IT'S AFFILIATES, 2023. ALL RIGHTS RESERVED.
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