『激突!』
製作年/1971年 原作・脚本/リチャード・マシスン 監督/スティーヴン・スピルバーグ 出演/デニス・ウィーバー、キャリー・ロフティン
究極のあおり運転に恐怖する!
妻との約束がありハイウェイを、急いでクルマを走らせていた男。目の前のタンクローリーを追い抜いたことが、彼の悪夢のはじまりだった。追い抜き返してきたタンクローリーの運転手は執拗に嫌がらせを仕かけ、追突のみならず、踏切に彼のクルマを押し込めようとしてくる。このままでは命が危ないーーそう悟ったとき、男は捨て身の行動に出る……。
ハリウッドを代表するヒットメーカーにして2度のアカデミー賞に輝くスティーヴン・スピルバーグの、記念すべきデビュー作。本作のヴィランは、何よりも真っ黒なタンクローリーだ。巨体もさることながら、運転手の顔をあえて映さず、その不気味さを強調。
まるで生命を持った個体のごとく襲いかかり、追突してくるのだから、あおり運転レベルを超えてゾッとさせられる。ハイウェイやガソリンスタンドで追いつ追われつする、それだけの話を一級のスリラーに仕立て上げたスピルバーグの手腕に注目!
『ジョーズ』
製作年/1975年 監督/スティーヴン・スピルバーグ 出演/ロイ・シャイダー、ロバート・ショウ、リチャード・ドレイファス
真っ赤な海とおどろおどろしい音楽
海辺の小さな田舎町で、女性の遺体が打ち上げられた。警察署長のブロディは、その死因がサメの襲撃だと断定。ビーチを遊泳禁止にしようとする。しかし、市長のボーンは観光による収入がなくなることを理由に拒否する。けれども、犠牲者がさらに増えてしまい……。
その姿をなかなか現さないジョーズ。海も静まり返っているのだが、ジョン・ウィリアムズが作曲した例の音楽が流れると恐怖のはじまり。ビーチで遊ぶ若者たちが次々と襲われ、海面は血で真っ赤に染まっていく。襲われるシーンはもちろんだが、この音楽がトラウマ級の恐ろしさ。これまでテレビで繰り返し放送された作品なので、偶然チャンネルを合わせてしまい唖然となった、なんて人もいるだろう。
『エイリアン』
製作年/1979年 監督/リドリー・スコット 出演/トム・スケリット、シガニー・ウィーバー
胸を突き破って登場するエイリアン!
西暦2122年。搭乗員7名を乗せた宇宙貨物船ノストロモ号は、地球へ帰還する途中に未知の惑星に降り立つ。そこには異星人の船があり、無数の卵が存在していた。卵から孵化した生物に襲われた乗組員ケインを回収し、再び航海につくノストロモ号。
しかし、生物はケインに幼体を産み付けていた。やがて幼体はケインの胸を突き破り、ノストロモ号内に潜伏。乗組員をひとりずつ殺していく。生き残った航海士リプリーはたった独りで戦いを繰り広げることに。
まず驚くのが、謎の生物のビジュアル。顔面に張り付いた様がなんともインパクト大。その後生物は死に、ケインの意識も戻ったのでひと安心。ところが、それは序章で、突然ケインの胸を突き破ってヘビのような生物が現れる。う〜ん、この血まみれのエイリアンの不気味さ、初見なら脳裏にこびりつくほどだ。
『シャイニング』
製作年/1980年 監督/スタンリー・キューブリック 主演/ジャック・ニコルソン
何度観てもジャック・ニコルソンの怪演は怖い!
ホラー映画の名作中の名作で、ジャック・ニコルソンの怪演にひたすら恐怖を感じてしまう作品。ジャック演じる作家志望の中年男が、豪雪に閉ざされた高級リゾートホテルに妻と息子の3人だけで過ごすことになる。しかし、そのホテルでは、かつて管理人が家族を惨殺した事件が起きていて、中年男も徐々におかしくなっていくわけだが、そのリアリティある演技がやたらと怖い!誰もいないはずのホテルの廊下に、双子の少女が現われる序盤戦から不気味。そして、気が狂ったジャック・ニコルソンが斧を持って、妻や息子のいるバスルームの扉を破るシーンは最大の見せ場だ。ここで彼女が胸に飛びこんでくるのは間違いない⁉
また、予知能力を持つ息子が終始呟く「レッドラム」の意味が明かされるシーンもかなりの恐怖。『IT/イット』でも知られるベストセラー作家スティーブン・キングの代表作を、スタンリー・キューブリック監督が画面の隅々まで計算し尽くした映像によって、怖さを最大限にまで引き上げている。そのため、観れば観るほどそのこだわりがわかり、恐怖度もアップしていく。スティーブン・スピルバーグ監督が『レディ・プレイヤー1』の中でオマージュを捧げていたのは、ファンにとっては嬉しい演出だった。
『ポルターガイスト』
製作年/1982年 製作・脚本/スティーヴン・スピルバーグほか 監督/トム・フーパー 出演/クレイグ・T・ネルソン、ジョベス・ウィリアムズ
テレビ放送後の砂嵐が気味悪さを増幅!
不動産会社に勤めるフリーリング一家は、ある新興住宅地に越してきた。ある夜、次女のキャロル・アンが、放送が終了しているテレビの前で何者かと話していた。その数日後、テレビ画面から霊魂のようなものが出現。それ以降、家では奇妙な現象が起きはじめる。そしてキャロル・アンは怪しい光を帯びた戸棚に吸い込まれてしまう。霊媒師は、悪霊の存在を感じ取り……。
この作品、ホラーとしてはそんなには怖くない。しかし、少女が砂嵐の映るテレビに向かってしゃべりかけるシーンがとにかく恐怖! 地デジになってから見ることがなくなったテレビ放送終了後の砂嵐。今では知らない人もいるだろうが、妙に不安な気持ちになったものだ。さらに恐ろしいのは、関わった俳優が謎の死を遂げているところ。そのため、“呪われた映画”とも言われている。
『チャイルド・プレイ』
製作年/1988年 監督・脚本/トム・ホランド 出演/アレックス・ヴィンセント、キャサリン・ヒックス
人形が突然動き出す恐怖……!
シングルマザーのカレンは、ホームレスからグッド・ガイ人形を購入。6歳の誕生日をむかえた息子アンディへプレゼントとした。その夜カレンは、親友のマギーにアンディの子守を頼むが、マギーはハンマーで顔を殴られて窓から転落死する。実は人形には連続殺人鬼チャールズ・リー・レイの魂が宿っていたのだ。不審な死亡事故が起き、アンディは精神病院に収容。人形に電池が入ってないことに気づいたカレンを、グッド・ガイ人形=チャッキーが襲撃する。
突然動き出すチャッキーの姿が本当に怖い。母カレンが、チャッキーに電池が入ってないことに気づくと、その瞬間首を180度クルッと回転。なにせ、その勢いよく回る首にビックリ! 正体がバレそうになると動きを止めたり、かわいいふりをするチャッキーだけど、開き直るととんでもない醜悪な顔になるのもトラウマなポイント。
『ミザリー』
製作年/1990年 原作/スティーブン・キング 製作・監督/ロブ・ライナー 出演/キャシー・ベイツ、ジェームズ・カーン
熱烈なファンでも油断禁物!
人里離れた雪道で交通事故を起こし、脚を骨折して身動きがとれなくなった人気作家。彼を助けたひとり暮らしの地元の女性は、奇しくも彼の小説の熱烈なファンだった。大雪で外界と連絡を取る手段も断たれ、怪我が治るまで、作家は元看護士という彼女の世話になることに。
ところが、この女性は癇癪持ちであるばかりかストーカーの気もあり、雪山でポールが執筆していることも知っていた。やがて作家がお礼にと、発刊前の小説シリーズ最終巻の原稿を見せたとき、望んでいた結末とは違うことに激怒した彼女は狂気を加速させていく。
モダンホラーの旗手スティーブン・キングの小説を映画化したストーカー・スリラー。狂気の女性を怪演したキャシー・ベイツは本作でアカデミー主演女優賞を受賞したが、それも納得のなりきりぶりで、とにかく怖い。脚を怪我した作家が動けないのをいいことに小説の書き直しを命じ、脚が治りかけるとハンマーで殴って再び骨折させる鬼女。時おり見せる、機嫌のよい笑顔さえも怖くなる!
『アメリカン・サイコ』
製作年/2001年 監督/メアリー・ハロン 出演/クリスチャン・ベール、ウィレム・デフォー、ジャレッド・レト
マウンティングしてくる奴に注意を!
主人公パトリックは裕福な家庭に生まれ育ち、エリート街道を歩んで投資会社の副社長に上りつめた27歳の青年。ナルシスティックなまでに肉体をケアし、完璧でないことは許せないタチだ。
そんな彼の前に、より完璧に近い青年が現われたことから運命の歯車が狂いだす。嫉妬に駆られ、イラ立ちに突き動かされて、道で偶然出会ったホームレスを撲殺する。以来、殺人衝動は止まることを知らず、彼の周囲には次々と死体が転がっていく。
全米でベストセラーとなった小説を、演技派クリスチャン・ベールの主演で映像化。主人公パトリックのアイデンティティは、自分が誰よりも優れていると思うことにあり、ステイタスを追求し続け、他人を見下しては悦に入っている。
それだけなら、ただのイヤなヤツだが、優生思想も手伝って殺人の欲求が加速。他人の命を奪ってでも、優位に立っていたい。ある意味、究極のマウンティングといえるサイコパス。周囲には絶対いてほしくないタイプだ。
『28日後…』
製作年/2002年 監督/ダニー・ボイル 主演/キリアン・マーフィ
速すぎるゾンビにとにかくビビる!
ホラー映画の人気ジャンルであるゾンビ映画界に革命をもたらした“高速ゾンビ”が怖さを倍増させる作品。それまでのゾンビたちは死体らしくノロノロとしか動けなかったのに比べ、本作のゾンビたちは動物実験によって人為的に生み出された凶悪ウイルスに感染した新種で、獲物を見つけると猛ダッシュで襲ってくる! 観ているこちらの心の準備ができないうちにバンバン襲ってくるので、とにかくビビる!しかも窓ガラスくらいは平気でブチ破るほどアクティブだし、噛まれたら数秒で感染してゾンビ化してしまう。待ったなしの恐怖なのだ。
本作を撮ったのは英国映画の鬼才ダニー・ボイル。『スラムドッグ$ミリオネア』では米国アカデミー賞に輝くなど、ドラマ演出の巧みさや映像センスのよさで知られている。そのため怖いだけでなく物語の面白さも備わっている。後半は高速ゾンビたちよりもさらに始末の悪い、残された人間同士のエグい争いにゾッとさせられる。平凡な若者ジムと勝ち気な黒人女性セリーナとの恋愛要素も盛りこまれているので、彼女と一緒にドキドキしながら楽しんでみては?
『ノーカントリー』
製作年/2007年 製作・監督・脚本/ジョエル&イーサン・コーエン 出演/ハビエル・バルデム、トミー・リー・ジョーンズ、ジョシュ・ブローリン
危機また危機の状況に引き込まれる!
舞台はアメリカ、テキサス州の国境近くの町。狩りの最中に、麻薬取引現場での惨殺事件に遭遇した男が、そこに残されていた大金を持ち逃げした。その頃、麻薬組織に雇われた不気味な殺し屋が、大金持ち逃げ犯を追跡。
男は妻を匿おうとする一方で、国境を越えてメキシコへ逃亡する。その頃、彼の妻から通報を受けた老保安官が事件を追っていた。果たして、彼らにどんな運命が待っているのか!?
米アカデミー賞で作品賞をはじめ4部門を制した名匠ジョエル&イーサン・コーエンの力作。普通に生きてきた男が欲を出したばかりに、巻き込まれていく危機また危機の状況は、さまざまな人々の思惑に揺さぶられ、どんどん緊張感を増していく。
とりわけ、ハヴィエル・バルデム扮する暗殺者のサイコパスというべき存在感は圧倒的で、ヘンな髪型で、ニコリともしない冷たい無表情が鮮烈な印象をあたえる。同じコーエン兄弟の監督作『ブラッドシンプル』『ファーゴ』と見比べるのも一興。
『ファニーゲームUSA』
製作年/2007年 製作総指揮・出演/ナオミ・ワッツ 監督/ミヒャエル・ハネケ 出演/ティム・ロス
爽やかそうな人には気をつけろ!?
オーストリアの異才ミヒャエル・ハネケが出世作『ファニーゲーム』を英語でリメイクした衝撃作。湖畔で休暇を楽しんでいた一家の別荘に、卵を分けて欲しいと訪ねてきた礼儀正しい青年。それは一家の悪夢の始まりだった。
青年ふたりは別荘に入り込んできて占拠。ゲームと称した拘束と暴力。夫は脚をゴルフクラブで砕かれて身動きができない。子供の、そしてみずからの命の危険を察した妻は必死の抵抗を試みるのだが……。
白いポロシャツをまとった青年ふたりが、爽やかそうに見えるのは、あくまで見かけだけの話。その正体は、いっさいの罪悪感を、また慈悲を抱くこともなく他人を痛めつけるサディストたち。
ゲームのように暴力を楽しみ、極限まで痛めつけて、つまらなくなったら殺してしまう。主人公一家だけでなく、近隣で脈々と被害者たちが続出していることにもゾッとさせられる。一見すると愛想はよいが、悪意の塊のような人間が隣にいるかも!?……そう思わせる怪作。
『パラノーマル・アクティビティ』
製作年/2007年 監督/オーレン・ベリ 主演/ケイティ・フェザーストン
なにかが起こりそうというビクビクが半端ない!
夜な夜な不審な現象に悩まされるカップルが、寝室にビデオカメラを設置し、原因を探ろうとしたところ、不気味な現象が映っていて恐怖に襲われるという作品。ドキュメンタリー仕立てで、出演している俳優たちはみんな無名なため、予備知識なしで観てしまうと本物の呪いのビデオに遭遇してしまったかのような不気味さがある。
設置した固定カメラに、寝室のドアがひとりでに開いたり、シーツがふわりとめくれるといった場面が映っているだけなのだが、それが背筋が凍るほど怖いのだ。つまり、なにかが襲いかかる直接的な恐怖描写よりも、なにかが起こるかもしれないという不安や緊張のほうがよっぽど恐怖を感じるというわけ。製作費わずか1万5000ドルながら、全世界で興収1億9000万ドルの大ヒットを記録したことでも知られている作品。
『エスター』
製作年/2009年 監督/ジャウム・コレット=セラ 主演/ヴェラ・ファーミガ
9歳の少女の裏の顔がヤバい!
意外な存在が殺人鬼だったというギミックがコワ面白いサイコスリラー。部活や職場の人間関係をボロボロにしてしまう女性はサークルクラッシャーと呼ばれているけど、タイトルロールとなっている少女エスターは仲良し家族をズタボロに引き裂く超恐ろしいファミリークラッシャーなのだ。孤児院でいつもひとりぼっちで過ごしている美少女エスターを引き取ったばっかりに、ケイトたち一家はお互いに疑心暗鬼に陥ってしまうという物語。
9歳児ながら大人びた雰囲気のエスターは常に首と手首に黒いリボンを巻いており、どことなく不気味な存在。最初は猫を被っていたエスターが徐々に邪魔者を処分していく中盤以降は、恐怖と驚きのサンドウィッチ状態で、彼女が胸に飛びこんでくる頻度も跳ね上がるはず。エスターの黒いリボンの秘密が明かされるクライマックスは、衝撃的だ。ちなみに本作の製作は、あのレオナルド・ディカプリオ!
『スペル』
製作年/2009年 監督/サム・ライミ 主演/アリソン・ローマン
ところかまわず老女が襲いかかる恐怖!
思いっきり「ギャッー!!」と叫びたくなる驚き系ホラー映画。なにが叫ぶほど怖いのかというと、ひたすらに“老女”が襲いかかってくるというところ。息つく暇もない展開は、まるで絶叫系ライドに乗っているかのようだ。銀行員のクリスティンが、ローン返済の延長を希望する老女の願いを断ったことから物語が展開するわけだが、実はその老女は黒魔術を操る厄介な人物。逆恨みから呪いの言葉を浴びせたうえ、ところかまわずクリスティンを襲いはじめるのだ。見るからに不気味な老女が思いがけないところから度々現われるので、油断できないのが本作の面白いところ。
なかでも、同じベッドで寝ていたはずの恋人がいつの間にか老女に入れ替わっている場面は、鉄板もののハグポイントかも。見終わった後は妙にスッキリ感があるので、“リアルに怖いのは苦手”という恋人たちにもおすすめしたい。監督のサム・ライミは『死霊のはらわた』や『スパイダーマン』などで知られるヒットメーカー。円熟期に達した彼のホラー演出が存分に満喫できる。
『私が、生きる肌』
製作年/2011年 監督/ペドロ・アルモドバル 出演/アントニオ・バンデラス、エレナ・アナヤ
亡き愛妻の顔を移植する!
主人公は妻に先立たれ、娘をも自殺で亡くしてしまった天才整形外科医。孤独の中で狂気に憑かれ、人工皮膚の開発に熱中する彼は、ひとりの”女性”を地下の研究室に監禁して、禁断の実験を続けていた。予期せぬトラブルを経て、ロベルはついに彼女の皮膚を完成させる。その姿は、亡き妻にそっくりだった。しかし、彼女の心まではロベルのものにはならず、やがて悲劇が起こる……。
『ペイン・アンド・グローリー』で賞レースを賑わせたのも記憶に新しいスペインの鬼才ペドロ・アルモドバルによるサスペンス。『マタドール<闘牛士> 炎のレクイエム』『アタメ』など彼の作品には狂気的な愛情を題材にした作品は少なくないが、なかでも本作はとりわけ鮮烈。
人体実験を行なう医師の執念はもちろん、監禁されている女性のゴムマスクとタイツ姿やうつろな存在感も強い印象を残す。ロベルを演じるアルモドバル作品の常連俳優で、初期の彼の作品でも何度かサイコなキャラを演じてきたアントニオ・バンデラスの怪演に注目。
『サクラメント 死の楽園』
製作年/2013年 製作/イーライ・ロス 製作総指揮・監督・脚本/タイ・ウェスト 出演/AJ・ボーウェン、ジョー・スワンバーグ
集団催眠が引き起こす戦慄!
新興宗教にはまった妹を救うため、ひとりの男が撮影クルーを連れて、異国のコミュニティに飛ぶ。そこでは“お父様”と呼ばれる教祖の下、信者たちが幸福に暮らしている……ように見えた。
だが、信者のひとりから“助けて”と書かれたメモを受け取ったことで、コミュニティの邪悪な側面が見えて切る。脅迫、性的虐待、そして自殺の教唆。クルーは一刻も早く、この偽りの楽園から逃げようとするが、武装兵団を抱える教団は、それを許そうとはしなかった……。
『ホステル』のイーライ・ロス監督が脚本とプロデュースを手がけた、疑似ドキュメンタリー風の怪作。1978年にガイアナで起こったカルト教団の集団自殺事件をモチーフにして、背筋も凍る物語を展開させる。
完全に洗脳された信者たちの信じ切った笑顔も、教団の欺瞞に気づいてしまったものの逃げ出せない信者の苦境も、ひたすら恐ろしい。それはクライマックスの集団自殺&虐殺でピークへ。集団催眠が引き起こす戦慄を、是非体感してほしい。
『ナイトクローラー』
製作年/2014年 製作・出演/ジェイク・ギレンホール 監督/ダン・ギルロイ 出演/レネ・ルッソ
スクープ映像を過激演出!
ロサンゼルスで貧しい生活から抜け出そうともがく青年ルイスは、スクープ映像を売る報道カメラマンの仕事に目をつける。誰よりも早く事件現場に駆けつけて、衝撃的な映像を収めることがすべて。
ルイスは警察無線を傍受してスクープを射止め、スキャンダラスな映像が欲しいTV局に売りつけてはビジネスを拡大。やがて強盗殺人事件の現場に駆け付けたルイスは、このスクープをより大きなものにしようと、常軌を逸した行動に出る……。
フリーの報道カメラマンの暴走を、『ブロークバック・マウンテン』のジェイク・ギレンホールが鮮烈に体現した問題作。主人公ルイスは金になるニュース映像のためなら何でもする。映像の衝撃度を増すために”演出”を施したり、商売敵に罠を仕掛けて事故らせたり。
雇い人の事故死も、彼にとってはニュース映像でしかない。そして、視聴率にこだわるニュース番組のプロデューサーは喜んでそれを買い取る。主人公はもちろん、メディア全体がもはやサイコパスなのかもしれない!?
『ドント・ブリーズ』
製作年/2016年 製作/サム・ライミ 監督・脚本/フェデ・アルバレス 出演/ジェーン・レヴィ、スティーヴン・ラング
襲った相手が最凶の元軍人だった!
貧しさの中で、盗品売買で金を稼いでいる若者3人組。苦しい生活から抜け出すため、彼らは、保険金を受け取ったばかりの退役軍人から大金を盗もうと画策する。老いたこの軍人は目が不自由で、泥棒計画は簡単に遂行できると思われた。
だが、彼は目が不自由な分、聴覚は異様に敏感で、しかも戦闘の達人だった! 屋内に閉じ込められた3人は呼吸音さえも聞き取られかねない危険の中、過酷なサバイバルを強いられる……。
『死霊のはらわた』のサム・ライミ監督が製作を手がけ、スマッシュヒットを飛ばした緊迫のスリラー。暗闇でじっと息を潜めて生存に懸ける、3人組が置かれたシチュエーションはタイトルが表わすとおり息苦しさ満点。
とにかく、襲った相手が悪かった。ヴィランの退役軍人は戦闘能力だけでなく狂気をも内に秘めており、後半になると、とんでもない行動を起こす。どんな行動かは見てのお楽しみ。衝撃のクライマックスに震えてほしい。
『グレタ GRETA』
製作年/2018年 製作総指揮・監督/ニール・ジョーダン 原案・脚本/レイ・ライト 出演/イザベル・ユペール、クロエ・グレース・モレッツ、マイカ・モンロー
バッグを拾っただけなのに……
NYのレストランで働く若い女性フランシスは母との死別の悲しみを引きずっていた。そんなある日、地下鉄で忘れ物のバッグを届けようとした彼女は、持ち主の初老女性グレタと知り合う。彼女に母の面影を重ね、親しみを覚えるフランシス。
ところが、グレタは次第に支配欲をむき出しにして、彼女を付け回すようになる。恐怖を感じたフランシスは拒絶して逃げようとするが、すでにグレタの罠は張り巡らされていた……。
『クライング・ゲーム』『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』のニール・ジョーダン監督が仕かけるサイコスリラー。疑似親子愛を利用する悪女グレタは、はっきり言ってストーカーなのだが、タチが悪いのは若い女性を自分の理想の“娘”にするために監禁・調教していること。
隠し部屋に閉じ込められたら最後、絶望が待つのみ……なのだ。恐怖に直面するフランシスを演じたクロエ・グレース・モレッツの熱演はもちろん、グレタにふんする大女優イザベル・ユペールの怪演も怖い!
『へレディタリー/継承』
製作年/2018年 監督・脚本/アリ・アスター 出演/トニ・コレット、ガブリエル・バーン
“怖さ”だけなら近年のホラーものを凌ぐ作品!
祖母が亡くなったのをきっかけに、残された一家に怪しい事件が続く。不思議な光、誰かの囁き声、暗闇に何者かがたたずむ気配……。これは祖母の霊なのか? 一家の娘、チャーリーはどうやら何かを察知しているようだ。高校生の息子ピーターが、妹のチャーリーを連れて友人宅のパーティへ行き、そこから事態はとんでもない方向になだれこみ、一家は恐怖のドン底に突き落とされることに!
まず冒頭のシーンからして、観る者の心をざわめかせる。“ドールハウス”のようなミニチュアの家の模型にカメラが寄っていくと、その模型の中の人形が動き出し、主人公一家の住む家へと変化しているのだ。一家の母親がミニチュアの家を作るアーティストという設定が、その後もストーリーに生かされ、怪しい空気を倍増させる効果を果たす。
しかしながら、そんな演出は序の口。この『ヘレディタリー/継承』には“じわじわ系”“突発的ショック”“笑っちゃうほどの過剰な演出”など、ホラー映画に求めるさまざまな要素が、ストーリーを破綻させることなくハメこまれている。徐々に精神を冒されていく劇中人物の状況を、観る者にも体感させていくのだ。いちばん要注意なのは“音”で、日常生活で聞き慣れたある音が、背筋を凍らせる。そのタイミングは絶妙というしかない!
『サスペリア』
製作年/2018年 監督/ルカ・グァダニーノ 出演/ダコタ・ジョンソン、ティルダ・スウィントン、クロエ・グレース・モレッツ
独特の映像演出が、背筋が凍るほど怖い!
アメリカのボストンから、ダンス・カンパニーに入団するべく、ドイツのベルリンにやって来たスージー。カンパニーを主宰する謎めいた女性マダム・ブランの目にとまり、大きな役を手に入れる。一方、カンパニーではダンサーたちが次々と失踪する謎の事件が発生。患者だったダンサーの行方を捜す心理療法士クレンペラー博士は、カンパニーに隠された恐るべき秘密に気づき……。
基本ストーリーは、1977年のダリオ・アルジェント監督作と同じ。しかし、印象は全く違うものになっている。もちろん魔女たちのカルト集団、残虐な死といったポイントは共通しているが、とりわけダンスシーンが濃密に。異様になまめかしく展開し、さながらアートホラーといった味わいになっている。ダンサーの動きと、目を疑う“肉体変容”シーンは必見で、ホラー映画を観慣れた人も背筋が凍るほど怖いはず! また、レディオヘッドのトム・ヨークがはじめて映画音楽を手掛けたのも話題。前作とは違ってストーリーや映像に溶けこむようなスコアが楽しめる。夢のように挿入される醜悪な描写など、賛否は分かれるかもしれないが、未知の映画体験になることだけは間違いない!
『IT/イット THE END“それ”が見えたら、終わり。』
製作年/2019年 監督/アンディ・ムスキエティ 出演/ビル・スカルスガルド、ジェームズ・マカボイ、ジェシカ・チャステイン
前作を上回る戦慄さ!
前作の舞台は1989年の夏だったが、今回は27年後の2016年。アメリカ、メイン州の田舎町デリーに再びペニーワイズが出現。そして人々が謎の死をとげていく。かつての仲間“ルーザーズ”が再びデリーに戻り、ペニーワイズとの戦いに挑む……。この続編、上映時間が、なんと2時間49分! はっきりいって、通常の映画2本分くらいの長尺。というのも、ルーザーズの現在に、7人それぞれが味わった過去のトラウマが展開されるから。しかし驚くことに、鑑賞中はまったくその長さを感じない。なぜなら、長くなった原因でもある7人の違ったストーリーが繰り広げられるから。結果、この長さでも全くテンションが途切れることがないわけだ。
映画やゲームなど‘80年代カルチャーがところどころで登場。さらに大人になったルーザーズの仕事や家庭の悩みも描かれるので、共感ポイントは前作を超えるはず。そして気になる恐怖度だが、ペニーワイズが魅せる狂気の姿は明らかに前作を上回る戦慄さだと保証しよう。原作者スティーヴン・キングの特別出演など、見どころは盛りだくさん。鑑賞後は、かなりの“満腹感”を覚えるはず!
『ザ・コール』
製作年/2020年 原案/セルジオ・カシー 監督・脚本/イ・チュンヒョン 脚本/カン・ソンチュ 出演/パク・シネ、チョン・ジョンソ、キン・ソンリョン、イ・エル 視聴時間112分
どんでん返しだらけの韓国ホラー!
物語の始まりは、2019年。20年前に父親を火事で亡くした女性ソヨン(パク・シネ)が、いまや無人となった実家を訪れることに。スマホを失くしたソヨンは仕方なく、家の物置にあったコードレス電話を使おうとする。
すると、電話の向こうからは見知らぬ女性の声が。その女性が生きている時代は1999年で、ソヨンが今いる家で暮らしているらしい。不可思議な現象に戸惑いながらも、電話の女性ヨンスク(チョン・ジョンソ)とソヨンは、時を超えた会話を通して距離を縮めていく。
あらすじのみ追うとほっこりした印象を受けるし、実際、ともに28歳のソヨンとヨンスクが電話越しに親しくなっていく姿は微笑ましい。ソヨンのいる時代の進歩を知ったヨンスクが目を輝かせたり、K-POP今昔話で盛り上がったり。しかし、冒頭から終始不穏な空気が充満する作品世界は、そのキュートなやり取りに笑みをこぼすことなど許さず、すぐさま意地の悪いスリラーの様相を呈していく。
過去にいるヨンスクは当初こそ未来にいるソヨンのため、しだいに自分のため“歴史の改変”に手を染めていくのだが、本作が恐ろしく、またユニークなのは改変するヨンスクが狂気の殺人鬼であるところ。敏感に一転二転する事態が悪夢のように、暴走するヨンスクと彼女を食い止めようとするソヨンの戦いへと変化していく展開が見事だ。
『透明人間』
製作年/2020年 製作総指揮・原案・監督・脚本/リー・ワネル 出演/エリザベス・モス、オリバー・ジャクソン=コーエン
“じわじわ迫る”恐怖シーン!
恋人の天才科学者に束縛される生活に耐えられなくなり、逃げ出したセシリアだったが、その科学者が自殺したという知らせが。驚きつつ安堵するものの、セシリアの周囲には不気味な現象が起こりはじめる。
誰もいないはずの部屋で人の気配がする。わずかになにかが動く。そんな“じわじわ迫る”恐怖シーンが続き、やがて見えないなにかの“痕跡”が、思わぬ瞬間に現れる。
透明人間という設定に対し、「こういう演出が観たかった!」とストレートに興奮させる作りだ。題材と演出がここまで的確にマッチした作品は珍しいかも。
主人公のセシリアは透明人間の存在を察知するものの、当然のごとく周囲の人はなかなか理解しない。彼女の言動は怪しまれるのだが、演じるエリザベス・モスが、狂気と正気のスレスレの感じをうまく表現し、観る者を引きこんでいく。
ウエルズの小説では薬を飲んで肉体を透明化したが、さすがに現代の映画でそれはリアルじゃない。このあたりも納得のいく展開なので、楽しみにしてほしい。
プロデューサーは『ゲット・アウト』のジェイソン・ブラムで、監督は『ソウ』シリーズのリー・ワネル。ホラーやスリラーのツボを知り尽くした作り手たちが、その才能を最大限に生かした仕上がりになっている!
『ハッチングー孵化ー』
製作年/2021年 監督/ハンナ・ベイルホルム 脚本/イリヤ・ラウチ 出演/シーリ・ソラリンナ、ソフィア・へイッキラ、ヤニ・ポラネン、レイノ・ノルディン
広がる家族の闇と大きくなるカラスの卵!
フィンランド映画の『ハッチングー孵化ー』は、タイトルが示すように、何かが卵から孵(かえ)る物語。12歳の少女ティンヤは、両親と弟と平穏な日常を送り、体操の大会に出場すべく練習に励んでいた。ある夜、彼女は森で瀕死のカラスを見つけ、その横にあった卵を持ち帰る。自室のベッドで温めた卵はみるみる大きくなり、やがて殻を破って出てきたものは……? 卵の存在が家族に気づかれないようにするティンヤの苦心にはじまり、どんどん怪しいムードが充満。孵化した後は信じられない展開になだれこみ、いったいどんな結末が待っているのか、最後の最後までスクリーンから目が離せなくなる。
一応、ジャンルはホラーなので、かなり強烈で生々しいビジュアルも用意される。体操の練習をするティンヤの背骨をとらえるなど、鮮烈なカットも多数。しかしティンヤの一家が暮らす家のインテリアが、北欧らしくカラフルでお洒落だったりするので、恐怖というよりスタイリッシュな映像に魅せられていく感じ。このあたりが、斬新な体験だ。そしてティンヤと卵の関係によって明らかになるのは、家族それぞれの危険な本能や、トラウマ、苦悩。一見、幸せそうな家族の“闇”が見えはじめたとき、物語がさらに一歩、危ういレベルに引き上げられる。特に母と娘の関係は、衝撃映像以上にスリリングかも!? あらゆる要素がサプライズな本作。観た後は絶対に誰かに勧めたくなり、すぐにでも感想を語り合いたくなることだろう。
photo by AFLO