Safari Online

SEARCH

CULTURE カルチャー

2022.06.12

『ボーン・アイデンティティー』が映画界に残したものとは?
ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~Vol.9

 

 


21世紀に登場した最高のアクション・ヒーローは誰か?――と問われたら、マット・デイモン(1970年生まれ)演じるジェイソン・ボーンを挙げる人は多いのではないか。

デイヴィッド・ウェッブという本名を持つジェイソン・ボーンは、ワケあって殺人を躊躇するようになった元・暗殺のスペシャリストだ。米国のスパイ小説の人気作家、ロバート・ラドラムが1980年に発表したベストセラー小説『暗殺者』を原作とする『ボーン・アイデンティティー』(2002年/監督:ダグ・リーマン)で初登場。もともとはグリーンベレーの通称で知られる特殊部隊にいた軍人だが、CIAが極秘で行っていたエグい工作員養成プログラム『トレッドストーン計画』に参加。そこでジェイソン・ボーンという名を与えられた彼は、この国家・裏プロジェクトにより無敵のプロ暗殺者として完成された第一号であった。 

 
 

 


ただし映画本編では、彼は一切の記憶を失くしている。『ボーン・アイデンティティー』の冒頭シーン、嵐の中の地中海に気絶して浮かんでいたところを漁師たちに救助された段階では、自分の名前も忘れていたほどだ。
「ここはどこ? 私は誰?」
といった真っ白状態から、やがて暗殺者に鍛え上げられた黒歴史がトラウマとしてのし掛かり、『007』ばりに世界各地を飛び回りながら、自分の過去と、国家の巨大な陰謀を暴いていく――というのが物語の大枠である。

好評を博した『ボーン・アイデンティティー』は全米で大ヒットし、日本でも興収16.0億円を記録。第二作『ボーン・スプレマシー』(2004年/監督:ポール・グリーングラス)は12.5億円。第三作『ボーン・アルティメイタム』(2007年/監督:ポール・グリーングラス)は16.5億円。トリロジー(三部作)として一旦の完結を迎え、すべて興行的に成功したうえ、作品の完成度はホップ、ステップ、ジャンプとばかりに、回を重ねるごとに上がっていった希有な成功例となった。 

 
 

 


また主演のマット・デイモンというキャスティングも当初はなかなかの衝撃だった。いわゆるイケメンからは遠く、ときにはジミー大西に似ているとも囁かれた個性的なルックス。数学の天才のバイト清掃員を演じた出世作『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997年/監督:ガス・ヴァン・サント)では自ら脚本も手掛け(ベン・アフレックと共同)、アカデミー賞脚本賞を受賞したハーバード大学出身(中退)のインテリが、突如、新時代のアクションスターとして大ブレイク。2007年には米『ピープル』誌が選ぶ“最もセクシーな男”(Sexiest Man Alive)にも輝いたのである。

確かに深い孤独と因縁の影を抱え、存在の迷宮のような自分探しを続けながら敵と戦うジェイソン・ボーンは非常に魅力的なキャラクターだ。『007』のジェームズ・ボンドのようなチャラい女たらしではなく、ストイックで高潔。そしてもともと完全無欠の暗殺マシーンだけあり、戦闘になれば動きがめっちゃ速い。銃の使用を嫌っているため、基本的には肉弾戦となる。このヒーローと単純に呼ぶにはあまりに特異な人物の数奇な運命を、ハンディカメラを駆使したドキュメンタリーのような映像で追っていく。 

 
 




まさしく冷戦構造を背景に生まれ、1962年から映画版がはじまったご長寿人気シリーズの『007』をヴィンテージモデルだとするなら、ジェイソン・ボーン三部作はスパイアクション映画のニューモデルとして迎えられた。それは2001年、NYを襲った同時多発テロ――9.11以降の時代の気分とマッチしていたことも大きい。それまでの敵と味方が明確に区分された様相と異なり、世界はいつどこから誰に狙われるか判らないテロの時代に入った。自分の正体も敵の全貌も不明瞭なまま進むジェイソン・ボーンの“個人戦”は、テロ時代の恐怖や不安を反映したものとも言える。

そのポスト9.11的なリアリティを支えた映画術が、斬新なドキュメンタリー・タッチである。臨場感たっぷりに手持ちカメラを用い、ときにはわざとブレさせる。それはまるで当時ニュース番組や様々なメディアで伝えられた9.11関連動画にも近しい“文体”であった。 

 
 

 


特にこの要素は、シリーズ第二作『ボーン・スプレマシー』から意識的に強化される。監督はドキュメンタリズムを持ち味とする社会派のポール・グリーングラスに交替。彼は『ユナイテッド93』(2006年)で、9.11時のテロリストに占拠された機内を再現した。撮影もバリー・アクロイドという、英国の社会派の名匠ケン・ローチ監督と組んでいた名手にバトンタッチ。アクロイドはこのあと、イラク戦争を扱った『ハートロッカー』(2008年/監督:キャスリン・ビグロー)の撮影も手掛けた。

筆者がよく覚えているのは、この『ボーン』トリロジーの“時代のモード”感があまりにクールだったため、なんと『007 慰めの報酬』(2008年/監督:マーク・フォスター)ではアクションシーンになると『ボーン』のようにカメラを揺らしていたのだ! 先輩シリーズが後輩の模倣をするという逆転現象まで起こるほど、そのインパクトと影響力は絶大だったのである。 

 
 

 


なおこの三部作のあと、ジェレミー・レナーを主演とした外伝的な『ボーン・レガシー』(2012年/監督:トニー・ギルロイ)と、再びマット・デイモンを主演に迎えた『ジェイソン・ボーン』(2016年/監督:ポール・グリーングラス)も作られた。さらなる続編『ボーン・ビトレイヤル』の製作も噂される現在だが、ポスト9.11という時代の刻印と共にあるトリロジーが美しいツメアトを完璧に残したため、続編は蛇足との意見も多い(というか、マット・デイモンやポール・グリーングラスなど主要関係者の当人たちが「もうやりきったよ」と幾度も発言している)。ただ『ボーン・レガシー』や『ジェイソン・ボーン』も普通に観れば充分面白い映画なので、未見の方々には是非オススメしておきたい。

『ボーン・アイデンティティー』
製作年/2002年 原作/ロバート・ラドラム 製作・監督/ダグ・リーマン 脚本/トニー・ギルロイ 出演/マット・デイモン、フランカ・ポランテ、クライヴ・オーウェン

世界興収/2億1403万4224ドル
※Box Office Mojo調べ 

 
 

 

 
文=森直人 text:Naoto Mori
photo by AFLO
〈FPM ミラノ〉があらゆるシーンに物語を作る。優雅な旅の傍らには美しく堅牢なトロリーを。
SPONSORED
2025.05.30

〈FPM ミラノ〉があらゆるシーンに物語を作る。
優雅な旅の傍らには美しく堅牢なトロリーを。

周囲とはひと味違ったラグジュアリーなトロリーを探している人に朗報。ミラノ発のラゲッジ&トラベルアクセサリーブランド〈FPM ミラノ〉がついに日本に本格上陸し、早くも大ブレイクの兆しだ。クラフトマンシップを感じる美しいデザインは、我々の旅に…

TAGS:   Urban Safari Fashion
〈レクサス〉で過ごすラグジュアリーな日常。走行性と居住性を兼ね備えた「LM」と「RZ」、ふたつのクルマ。
SPONSORED
2025.05.30

〈レクサス〉で過ごすラグジュアリーな日常。
走行性と居住性を兼ね備えた「LM」と「RZ」、ふたつのクルマ。

ファッションをひとつのブランドでコーディネートするのは、いまやごく普通のこと。であれば、複数台所有するクルマをひとつのブランドで統一するというのも、ライフスタイルを豊かにするのに役立ってくれそうだ。忙しい毎日を過ごすビジネスマンであれば、…

都会とターフを〈ヤーマン&ストゥービ〉で自在に往来。フェアウェイに向かう手元に機械式時計という大人の愉悦。
SPONSORED
2025.05.30

都会とターフを〈ヤーマン&ストゥービ〉で自在に往来。
フェアウェイに向かう手元に機械式時計という大人の愉悦。

機械式ゴルフウォッチという新しいカテゴリーを切り開いた、〈ヤーマン&ストゥービ〉。ゴルフにおける勝利の記憶を“記録”として刻み、タウンユースにおいてはクロノグラフにひけをとらない、世界特許を持つ機械式カウンター時計なので、都会とターフの両…

TAGS:   Urban Safari Watches
上品リッチなスニーカー〈デバイス 1〉から新作登場。オールブラックのスニーカーならオン・オフ問わずスタイリッシュに。
SPONSORED
2025.05.30

上品リッチなスニーカー〈デバイス 1〉から新作登場。
オールブラックのスニーカーならオン・オフ問わずスタイリッシュに。

“Affordable Chic -上質を着こなす日常-”をメインコンセプトに掲げる〈アウール〉からスピンアウトし、一昨年デビューしたスニーカーブランド〈デバイス 1〉。軽量かつ上品な佇まいは、ビジネスシーンはもちろんプライベートでも大い…

TAGS:   Urban Safari Fashion
まるでNYの街角に迷い込んだかのような一夜!〈ブローバ〉創業150周年を祝う記念イベントをシネスイッチ銀座で開催!
SPONSORED
2025.05.29

まるでNYの街角に迷い込んだかのような一夜!
〈ブローバ〉創業150周年を祝う記念イベントをシネスイッチ銀座で開催!

TAGS:   Watches
〈オニツカタイガー〉の“アルティ RS”シリーズでコンフォートな日々を!あらゆるシーンをシームレスに繋ぐラグスポシューズ“ティグトレイル”が誕生!
SPONSORED
2025.05.28

〈オニツカタイガー〉の“アルティ RS”シリーズでコンフォートな日々を!
あらゆるシーンをシームレスに繋ぐラグスポシューズ“ティグトレイル”が誕生!

TAGS:   Fashion
俳優・志尊 淳が〈グッチ〉の新作を着こなす!アイコニックなウエアを優雅に!
SPONSORED
2025.05.23

俳優・志尊 淳が〈グッチ〉の新作を着こなす!
アイコニックなウエアを優雅に!

イタリアを代表するラグジュアリーブランド、〈グッチ〉から夏の終わりを彩る新作コレクションが到着。クラシックながら、爽やかなムードが漂うプレフォールコレクションは、個性的にしてお洒落心をくすぐる、見どころ満載のラインナップ。そして今回、そん…

TAGS:   Fashion グッチ
〈サンローラン〉の個性的な1枚をまとう!夏旅で着たいセンシュアルなシャツ!
SPONSORED
2025.05.23

〈サンローラン〉の個性的な1枚をまとう!
夏旅で着たいセンシュアルなシャツ!

夏の大人の着こなしに、洗練された上質なシャツは欠かせない。そんなシャツを得意とするのが、フランスのラグジュアリーメゾン〈サンローラン〉。なかでも今シーズン目立つのが、夏のリゾートで映えるエレガントで個性的なアイテム。こんなシャツを身にまと…

俳優・磯村勇斗と〈ベル&ロス〉の最新作!手元に馴染む小ぶりBR-05!
SPONSORED
2025.05.23

俳優・磯村勇斗と〈ベル&ロス〉の最新作!
手元に馴染む小ぶりBR-05!

〈ベル&ロス〉のアーバンコレクション“BR-05”に、小ぶりな36㎜モデルが仲間入りを果たした。エレガントさと精悍さに加え、軽快さという新たな魅力をまとったラグスポウォッチ。その特筆すべき魅力を、俳優の磯村勇斗がいずれも輝きを放つふたつの…

TAGS:   Watches
大人の休日に似合う〈エルケクス〉のこだわりアイテム!夏のアメカジはカレッジスタイルで!
SPONSORED
2025.05.23

大人の休日に似合う〈エルケクス〉のこだわりアイテム!
夏のアメカジはカレッジスタイルで!

夏のアメカジはプリントTやポロシャツが頼り。昔から定番のアイテムだけど、仕様や素材にこだわってカレッジテイストを体現した〈エルケクス〉なら、どこか懐かしくも新鮮。さらに差をつけたいときは、重ね着テクが有効。これで学生とはひと味違う、“カレ…

TAGS:   Fashion
〈デンハム〉白澤社長が着こなす新作デニム!夏に着たい爽快テックデニムのセットアップ!
SPONSORED
2025.05.23

〈デンハム〉白澤社長が着こなす新作デニム!
夏に着たい爽快テックデニムのセットアップ!

夏にデニムは暑くてちょっと……と、敬遠してしまうひとも多いのでは!? そこで紹介したいのが、〈デンハム〉の“エアーテックデニム”。世界的デニム生地メーカー“カイハラデニム”開発のメッシュデニム生地を使用した、通気性抜群のデニムだ。「どんな…

TAGS:   Fashion Denim
着こなしを引き締める〈トム フォード アイウエア〉の新作!艶のあるサングラスが夏スタイルに効く!
SPONSORED
2025.05.23

着こなしを引き締める〈トム フォード アイウエア〉の新作!
艶のあるサングラスが夏スタイルに効く!

ミニマルな着こなしになりがちな夏こそ、小物は大事。特に顔まわりを演出するサングラスには妥協したくないはず。そこで、押さえたいのが〈トム フォード アイウエア〉の新作だ。計算しつくされた繊細でエレガントなフォルムが目元に色気を宿し、夏のシン…

TAGS:   Fashion
「それ、どこで買ったの?」と驚かれる!?この夏、人と差をつけるなら、〈ロンハーマン〉だけの特別なTシャツ!
SPONSORED
2025.05.19

「それ、どこで買ったの?」と驚かれる!?
この夏、人と差をつけるなら、〈ロンハーマン〉だけの特別なTシャツ!

日差しが強くなってきて、いよいよ待ちに待った夏が少しずつ肌で感じられるようになってきた。ということは、俄然欲しくなってくるのがTシャツだ。夏がやってきたら、恐らく毎日のように着ることになるアイテムといっても過言ではない。であれば、大人だっ…

TAGS:   Fashion
【期間限定】堅牢ラゲッジをお望みの人へ!〈エフピーエム ミラノ〉の リミテッドコンセプトストア開催!
SPONSORED
2025.05.14

【期間限定】堅牢ラゲッジをお望みの人へ!
〈エフピーエム ミラノ〉の リミテッドコンセプトストア開催!

まだ知らない人は、これを機会に触れたほうがいい。というのは〈エフピーエム ミラノ〉が、高級ラゲッジとして注目を浴びているから。日本に本格上陸したのがまさに今年。そして、タイミングがいいことに、伊勢丹新宿店をはじめ日本各地で期間限定のリミテ…

TAGS:   Fashion Stay&Travel

NEWS ニュース

More

loading

ページトップへ