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CULTURE カルチャー

2018.05.24


『ゲティ家の身代金』『犬ヶ島』

セレブで選ぶ編
ムネアツなポイントは? “マーク・ウォールバーグの懐の深さ!”

『ゲティ家の身代金』

マーク・ウォールバーグと聞いて、“ハリウッドの暴れん坊”と連想する人は多いだろう。10代の頃に暴力沙汰が日常茶飯事だったからだろうが、そのためタフな役どころに重宝されてきた。年を追って出演作の数も製作規模も右肩上がりになり、ついに2017年には米経済誌『フォーブス』が発表する“世界で最も稼いだ男性俳優”部門で1位(推定収入約6800万ドル!)になるほどのドル箱スターとなった。



その魅力といえば、ボクサー役の『ザ・ファイター』で見せた筋骨隆々の肉体、『トランスフォーマー』シリーズでの地球外生命体にも負けないタフさ、『テッド』シリーズでのマリファナ&下ネタ好きなおバカな役が似合う、といったところだった。しかし、そこに脇で支える渋い演技もイケるという要素を追加したくなるほど、本作『ゲティ家の身代金』での演技は光っている。



本作は、1973年に米国人石油王ジャン・ポール・ゲティの孫が誘拐された事件を映画化したもの。マークは、誘拐犯と交渉する元CIAの役だ。いつもなら、ここで誘拐犯を一網打尽にして救出する流れだが、今回はスーツ姿で、根気よく交渉をサポートしていく。アクション作品にはないマークの味わい深い魅力が引き出されていて、その存在感は観る者に強い印象を与えるに違いない。



ちなみにこちらの作品、当初は大富豪のゲティ役にケヴィン・スペイシーがキャスティングされていたが、例のセクハラ問題で降板。しかも騒動が起きたのが全米公開の1カ月前という時期だったわけだが、監督のリドリー・スコットは再撮影を決定! クリストファー・プラマーを代役に立て、わずか9日間で出演部分の追加撮影を行ったそうだ。しかしながら、仕上がった作品は、そんな騒動を思わせないほどの出色の出来栄え。プラマー自身もアカデミー賞やゴールデン・グローブ賞などで助演男優賞にノミネートされるほど、圧巻の演技を披露している。



『ゲティ家の身代金』
製作・監督/リドリー・スコット 出演ミシェル・ウィリアムズ、クリストファー・プラマー、ティモシー・ハットン、マーク・ウォールバーグ 配給/KADOKAWA
2017年/アメリカ/上映時間133分

5月25日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
©2017 ALL THE MONEY US, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
 

 
物語で選ぶ編
ムネアツなポイントは? “全編にわたる日本愛に脱帽!”

『犬ヶ島』



ウェス・アンダーソン監督。その名前を聞くだけで、心ときめく映画ファンは多いはず。前作『グランド・ブダペスト・ホテル』もそうだったが、細部に至る美術やカラーへのこだわりで、映画がテーマパークのような楽しさにあふれているのが、監督のひとつの特徴だ。徹底した美意識に貫かれたその世界に、観る者は一気に引きこまれてしまう。そんな監督の才能が『犬ヶ島』ではマックスに発揮された。



舞台は近未来。日本の“ウニ県、メガ崎市”という架空の土地。“ドッグ病”なる感染病が広がり、その原因とされる犬たちが、ゴミの島へと隔離される……、というなにやら怪しい香りも漂うストーリー。メガ崎市長の養子であるアタリ少年が、愛犬のスポッツを探し、飛行機を操縦して島に着陸する。犬たちと彼が心を通わせての大冒険は、“犬ヶ島”ならぬ“鬼ヶ島”を連想させるなど、全編に日本への愛と敬意にも満ちた1作になっているのだ。



手法は、ストップモーションアニメ。手作りのモデルや背景をわずかに動かしながら撮影していく。相撲や歌舞伎から、ラーメン屋、さびれた遊園地など、監督が作った“日本”は、最低限のリアリティが守られ、われわれ日本人もレトロな懐かしさに浸れる完成度。近未来なのに、1960〜‘70年代に戻ったような、不思議な感覚をもたらす。芸術品レベルのアナログ美術には、きっと細部まで目を凝らしてしまうはず! 犬の鼻先に桜の花びらがハラリと落ちるなど、日本の“わび・さび”的表現や、日本映画へのオマージュと、とにかく監督の日本愛には恐れ入るばかり。



この映画がユニークなのは、犬たちのセリフが英語で、人間たちのセリフは母国語、つまり日本人キャラクターは日本語を話すという点だ。アタリと犬たちが言葉で通じ合えないもどかしさは、オリジナル版と、全編日本語吹替版で微妙に違ってくるのが面白い。メインキャラの声はスカーレット・ヨハンソン、渡辺謙、オノ・ヨーコら超豪華なボイスキャストだが、松田翔太、松田龍平、山田孝之、池田イライザなど“一瞬参加”の声を探す楽しみもある。

全編、おもちゃ箱のような作風だが、価値観の違う者とコミュニケーションをとり、その違いを受け入れるという“多様性”を訴えるテーマがタイムリー。映像に心ときめきながら、大切な教訓が無意識に深く心に突き刺さる、これはまさに“現代のおとぎ話”だ!

『犬ヶ島』
原案・製作・監督・脚本/ウェス・アンダーソン 声の出演/ブライアン・クランストン、ランキン・こうゆう、エドワード・ノートン、ビル・マーレイ、スカーレット・ヨハンソン、渡辺謙、ハーヴェイ・カイテル、ジェフ・ゴールドブラム 配給/20世紀フォックス映画
2018年/アメリカ、ドイツ/上映時間101分

5月25日より、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
©2018 Twentieth Century Fox

文=斉藤博昭 text:Hiroaki Saito

 

 
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