ここ数年、静かなブームを起こしている映画のジャンルがある。それは”北欧ホラー”。2020年、日本でも予想外のヒットとなった『ミッドサマー』はスウェーデンが舞台。その他にも『ボーダー 二つの世界』や、ちょっと遡ると『ぼくのエリ 200歳の少女』など未体験の世界へ案内してくれる作品が多数。その新たな一作は、またもや想像を超えた衝撃が待っている!
フィンランド映画の『ハッチングー孵化ー』は、タイトルが示すように、何かが卵から孵(かえ)る物語。12歳の少女ティンヤは、両親と弟と平穏な日常を送り、体操の大会に出場すべく練習に励んでいた。ある夜、彼女は森で瀕死のカラスを見つけ、その横にあった卵を持ち帰る。自室のベッドで温めた卵はみるみる大きくなり、やがて殻を破って出てきたものは……? 卵の存在が家族に気づかれないようにするティンヤの苦心にはじまり、どんどん怪しいムードが充満。孵化した後は信じられない展開になだれこみ、いったいどんな結末が待っているのか、最後の最後までスクリーンから目が離せなくなる。
一応、ジャンルはホラーなので、かなり強烈で生々しいビジュアルも用意される。体操の練習をするティンヤの背骨をとらえるなど、鮮烈なカットも多数。しかしティンヤの一家が暮らす家のインテリアが、北欧らしくカラフルでお洒落だったりするので、恐怖というよりスタイリッシュな映像に魅せられていく感じ。このあたりが、斬新な体験だ。そしてティンヤと卵の関係によって明らかになるのは、家族それぞれの危険な本能や、トラウマ、苦悩。一見、幸せそうな家族の“闇”が見えはじめたとき、物語がさらに一歩、危ういレベルに引き上げられる。特に母と娘の関係は、衝撃映像以上にスリリングかも!? あらゆる要素がサプライズな本作。観た後は絶対に誰かに勧めたくなり、すぐにでも感想を語り合いたくなることだろう。
『ハッチングー孵化ー』
監督/ハンナ・ベイルホルム 脚本/イリヤ・ラウチ 出演/シーリ・ソラリンナ、ソフィア・へイッキラ、ヤニ・ポラネン、レイノ・ノルディン 配給/ギャガ2021年/フィンランド/上映時間91分
文=斉藤博昭 text:Hiroaki Saito