PROFILE
1961年、米ケンタッキー州生まれ。俳優デビューは1978年。1994年、『ER緊急救命室』でブレイクした後、『フロム・ダスク・ティル・ドーン』『アウト・オブ・サイト』『オー・ブラザー!』などの映画に出演。初監督作『コンフェッション』以降、監督としても高く評価されている。『シリアナ』でアカデミー賞助演男優賞に輝いたほか、『フィクサー』『マイレージ、マイライフ』『ファミリー・ツリー』で同主演男優賞にノミネート。『オーシャンズ』シリーズのダニー・オーシャン役でも知られる。
マーティン・スコセッシ、スパイク・リーからデヴィッド・フィンチャー、ギレルモ・デル・トロまで。名だたる映画監督たちが映像配信サービスとタッグを組み、新作を世に送り出すのがもはや自然になりつつある昨今。それに呼応するかのように、ハリウッドスターたちが映像配信サービスの作品に進出する機会も上昇の一途をたどっている。そんな中、一流のフィルムメイカーであり、ハリウッドのトップに君臨する俳優でもある彼は、当然のことながらというべきか、製作者として、監督として、主演俳優として流れに乗ることになった。ジョージ・クルーニーにとっての久々の新作となる『ミッドナイト・スカイ』は、彼がネットフリックスとはじめてのタッグを組んだSF大作だ。
リリー・ブルックス=ダルトンの小説『世界の終わりの天文台』を原作にした『ミッドナイト・スカイ』は、滅亡の危機にある地球が舞台。地球滅亡を目前にしてもなお、北極の天文台に留まって孤独な生活を送る科学者オーガスティンをクルーニーが演じる。そんな彼のそばには、同じく北極に取り残されたらしき謎の少女の姿が。絶望的で、ミステリアスでもある状況の中、宇宙での任務を終えて地球へ戻ろうとする宇宙船乗組員サリー(フェリシティ・ジョーンズ)らの存在を、オーガスティンは知ることになる。しかし、サリーらに地球の現状を伝えようとするものの、宇宙との交信はなかなかうまくいかない。果たして、オーガスティンは交信を通じて宇宙船の帰還をとめ、乗組員たちを救うことができるのか? そして、やがて明らかになる衝撃の真実とは? 人類の滅亡を前にした男の孤独な闘いと宇宙船での過酷なドラマが絡み合い、物語は深遠なメッセージをはらんでいく。
“ジョージ・クルーニーと宇宙”といえば、スタニスワフ・レムのSF小説『ソラリスの陽のもとに』を映画化した『ソラリス』、サンドラ・ブロック扮する主人公が宇宙空間で孤独なサバイバルを繰り広げる『ゼロ・グラビティ』などが思い出される。どちらもシリアスで、壮大さとスリリングな味わいを湛えた作品だったが、『ミッドナイト・スカイ』もそれらに続くものとなりそうだ。また、クルーニー監督作となると、コーエン兄弟が脚本を手掛け、マット・デイモンを主演に迎えたブラックコメディ『サバービコン 仮面を被った街』以来約3年ぶり。主演作となると、ジョディ・フォスターが監督を務め、クルーニーが経済番組の人気司会者を演じたサスペンス『マネーモンスター』以来約4年ぶり。ジョージ・クルーニーの健在ぶりを、久々に実感できる1作となるのは間違いない。
さらに、『サバービコン 仮面を被った街』が全米で公開された2017年以前と、『ミッドナイト・スカイ』がお披露目される今年とでは大きな違いがある。一度めの結婚と離婚以来、長く独身貴族を貫いてきたクルーニーは2014年、弁護士の女性と結婚。3年後の2017年には、双子の男女が誕生した。『グッドナイト&グッドラック』などの社会派作品を監督として放ち、人権活動にも熱心で、政治家としての活躍も望まれるクルーニーのこと、国際的に活動する人権派弁護士とのカップリングはまさに理想的だった。活動ペースのスローダウンが私生活と関連しているかは定かでないが、じっくりと腰を落ち着け、映画人としての自分と向き合うには適した環境だろう。もちろん、かわいい双子の父親になったことも、ペースダウンの要因の1つなのではないか。いずれにせよ、父になったクルーニーが放つヒューマンドラマとしても、『ミッドナイト・スカイ』の中には見どころがありそうだ。
1994年当時、俳優としてなかなか日の目を見ないクルーニーにブレイクをもたらしたのは、今も名作として語り継がれる医療ドラマ『ER緊急救命室』だった。心優しいが無鉄砲な小児科医ダグラス・ロスを演じた彼は、たちまち全米のセクシーアイコンに。ドラマ内でもトップの人気を誇る存在となり、道が一気に開けた。それに並行して出演した映画の数々でも知名度を上げ、『ER緊急救命室』のレギュラー出演を終えた1999年からは映画界に本格シフトチェンジ。ブラッド・ピットやマット・デイモンらスター俳優と共演した『オーシャンズ』シリーズなどを世界的にヒットさせる一方、『シリアナ』でアカデミー賞助演男優賞を受賞、『グッドナイト&グッドラック』で同監督賞にノミネートされ、“映画界へのシフトチェンジが最も成功したTVスター”になった。いまや大勢の人々に知られているこの事実を改めて考えると、やはり人生はなにが起こるか全くわからない。おそらく『ER緊急救命室』のロス先生に恋した視聴者たちは、彼がハリウッドを代表する監督となり、自作に主演する姿を望みはしても思い浮かべることなどなかっただろうから。現在59歳。まだまだ今後が楽しみな年齢だ。
地球滅亡を目前にしてなお、北極に残る孤独な科学者オーガスティン(クルーニー)。謎の少女と出会い、共同生活をすることになった彼は、任務を終えて地球へ戻ろうとする宇宙船の乗組員らの存在を知る。交信を通じて帰還をとめようと奔走するオーガスティンだったが……。共演は『博士と彼女のセオリー』のフェリシティ・ジョーンズ、『アルゴ』のカイル・チャンドラーなど。●12月23日より、ネットフリックスにて独占配信開始
Netflix映画『ミッドナイト・スカイ』12月23日(水)より独占配信開始
That’s Aether. It’s a spaceship
that we hoped would be our future.
あれがアイテル。未来を託した宇宙船だ。
『ミッドナイト・スカイ』より
『Urban Safari』Vol.19 P8~9掲載
photo : Josh Telles / AUGUST / amanaimages text : Hikaru Watanabe