パクリは深い愛情とリスペクト!
ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~Vol.2『レザボア・ドッグス』&『パルプ・フィクション』編
クエンティン・タランティーノの衝撃の監督デビュー作『レザボア・ドッグス』の影響力は、1992年の公開以来、30年近くずーっと衰えずに続いている。もはや後遺症とでも呼んだほうが正確か。
『レザボア・ドッグス』(1991年)
例えばダイナーでの与太話のあと、黒いスーツに身を包んだ6人のギャングたち(+2人)が歩いてくる鮮烈なオープニングシーン。この露骨なパロディだけでも、『スウィンガーズ』(1996年/監督:ダグ・リーマン)といった初期のフォロワーから、今年4月に劇場版が公開されたテレビ東京系の深夜ドラマシリーズ『バイプレイヤーズ』(2017年~2021年/メイン監督:松居大悟)まで、枚挙にいとまがない。
『レザボア・ドッグス』(1991年)
またそのシーンで流れていた楽曲、ジョージ・ベイカー・セレクションの『リトル・グリーン・バッグ』は、キリンビール“本麒麟”のCMでもおなじみ。また密室メインで銃撃戦が展開し、三つ巴で拳銃を突きつけ合うシーンが登場したら、その映画は確実に“レザボアの子供”である。
そして『レザボア・ドッグス』と双璧の影響力を持つタランティーノ作品が、1994年の第2作『パルプ・フィクション』だ。
『パルプ・フィクション』(1994年)
これ以降、「時制をシャッフルしながら饒舌な与太話を交えて笑いと暴力を描く」という作風をなぞった映画の数は計り知れない。オープニング使用曲のディック・デイル&デルトーンズの『ミザルー』は、リュック・ベッソン製作の『TAXi』シリーズ(1998年~2018年)のテーマ曲にそのままスライド。
『パルプ・フィクション』(1994年)
有名なジョン・トラボルタ&ユマ・サーマンのダンスシーン(曲はチャック・ベリーの『ユー・ネバー・キャン・テル』)は、つい最近も『パーム・スプリングス』(2020年/監督:マックス・バーバコウ)に類似場面が登場していた。『レザボア・ドッグス』も『パルプ・フィクション』も、まるで気合の入ったタトゥーのように消えない現代映画史のツメアトである。
『パルプ・フィクション』撮影時のクエンティン・タランティーノ監督
しかしなぜ、タランティーノの映画はこれほどカジュアルに真似されるのか。パクリたくなるほどかっこいいから、という単純な理由も当然あるが、ほかならぬタランティーノ自身が“パクリ”という態度を肯定的に広めた張本人だから、との点も見逃せない。
『レザボア・ドッグス』が登場したとき、ほとんどのシーンに“元ネタ”が存在することが映画マニアの間で話題になった。例えば先述した「三つ巴で拳銃を突きつけ合うシーン」などは、チョウ・ユンファ主演の香港ノワール映画『友は風の彼方に』(1987年/監督:リンゴ・ラム)のパクリだ。近い時期でいうと、小沢健二の『ラブリー』のイントロがベティ・ライトの『クリーン・アップ・ウーマン』にそっくりなんだけど……みたいなノリである。
しかしタランティーノはそこで誤魔化すのではなく、むしろ自分から喧伝した。俺はフカサク(深作欣二監督)やサニー千葉(千葉真一)やジョン・ウーが大好きなんだよ!と“元ネタ”のすべてを嬉しそうにバラしていったのだ。“映画愛”の熱烈な表明として。
パクリという言葉は少々品がないので、よく世間ではオマージュと言い換えられたりもするが、若かりしのタランティーノは「偉大なアーティストは『盗む』もんだ。オマージュを捧げたりはしない」(英『エンパイア』誌1994年11月号)と豪語していたので身も蓋もない。だが彼のパクリは深い愛情とリスペクトを前提とした引用であり、“サンプリング”という言い方が最もふさわしいのではないかと思う。
言うならば、タランティーノはDJのような発想で映画を組み立てている。そして彼の場合はつなぎ方――ネタとネタの組み合わせ(編集)が抜群にクールなのだ。例えば先述した『パルプ・フィクション』のダンスシーンも、ジョン・トラボルタ主演のディスコ映画『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977年/監督:ジョン・バダム)をベースに、アート映画の金字塔『8 1/2』(1963年/監督:フェデリコ・フェリーニ)のワンシーンを模倣したものだ。そこにチャック・ベリーのグッド・オールド・ロックンロールを乗っけるなんて、「もはやオリジナル」としか言いようがない。
『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977年)
こんな芸当が可能になったのは、おそらくタランティーノが映画学校のようなアカデミアではなく、レンタルビデオ店(カリフォルニアのマンハッタンビーチにあった“ビデオ・アーカイブス”)でバイトしながら映画を大量摂取したからではないか。独学の人だからこそ、既成の文脈に囚われない、“俺基準”で好きなものを自由につないでいく凄腕DJとしての映画監督が登場したわけだ。
『キル・ビル』(2003年)
『デス・プルーフ in グラインドハウス』(2007年)
その後も『キル・ビル』(2003年)や『デス・プルーフ in グラインドハウス』(2007年)など、ありとあらゆるジャンルの“元ネタ”を膨大な知識量をもとにつないでいく、そのセンスは唯一無二だ。彼はかねてから「長編映画を10本撮ったら引退する」と公言しているが(現在、2019年の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で9本め)、30年選手となった今も絶対王者として君臨し、観客席やビデオルームといったフロアを沸かせているのである。
『レザボア・ドッグス』
製作年/1991年 監督・脚本/クエンティン・タランティーノ 出演/ハーベイ・カイテル、ティム・ロス、マイケル・マドセン、スティーブ・ブシェミ
『パルプ・フィクション』
製作年/1994年 原案・監督・脚本/クエンティン・タランティーノ 出演/ジョン・トラボルタ、サミュエル・L・ジャクソン、ユマ・サーマン、ブルース・ウィリス
photo by AFLO