【映画まとめ】独自の視点が傑作を生む!
クリストファー・ノーラン映画9選!
『Safari Online』で配信してきたクリストファー・ノーランが手がけた作品をまとめでご紹介!
『メメント』
製作年/2000年 原作/ジョナサン・ノーラン 監督/クリストファー・ノーラン 出演/ガイ・ピアース、キャリー=アン・モス
結末からはじまる斬新な演出!
最新作『TENET テネット』は時間が逆行する状況がキーポイントなのだが、クリストファー・ノーラン監督は初期から“時間”というテーマにこだわってきた。初の長編作『フォロウイング』はバラバラの時系列がひとつの結末を導く。
そして、第2作『メメント』は、大胆なストーリーと演出が成功し、ノーランの名を世界の映画ファンに知らしめることになる。この『メメント』は、物語の結末から始まり、その発端までさかのぼっていく。まさに『TENET』が描いた“時間の逆行”を味わえるのだ。
保険会社の元調査員のレナードが、“前向性健忘”というのが、これまた斬新。記憶がだいたい10分しか持たないので、どんどん忘れていく。レナードは、行く先々の光景をポラロイドカメラで撮り、そこにメモを付けて何とか記録を残すしかない。
重要な情報は肉体にタトゥーとして彫り込む徹底ぶり。彼が探すのは、自分にこの障害をもたらし、妻を殺害した凶悪犯だが……。自分自身、何をやっているのかわからないレナードの言動が、じわじわスリルも高め、衝撃のラストへたどり着く。原案は、ノーランの弟、ジョナサン・ノーランの短編。
『プレステージ』
製作年/2006年 監督・脚本/クリストファー・ノーラン 出演/ヒュー・ジャックマン、クリスチャン・ベール、スカーレット・ヨハンソン
突拍子もないトリックに呆然!
主人公2人はマジシャン。トリックを使うプロである。自慢のマジックの“トリック”はもちろん、映画全体のドラマにも“トリック”が潜んでいる。その意味では今回のテーマに最もふさわしい一作かも!
主演の2人がヒュー・ジャックマンとクリスチャン・ベールというのも、今作の魅力。育ちが良く、実直型のアンジャーがヒューで、奇抜な発想の天才型のボーデンがクリスチャンなのも、これまた適役だ。
アンジャーの妻が脱出マジックで命を落とし、その原因がボーデンであったことから、両者の確執と、マジシャンとしてのライバル関係は激化。
しかし、アンジャーの瞬間移動マジックを調べていたボーデンの目の前で、なんとアンジャーは水槽で溺死。ボーデンが殺人容疑で逮捕されてしまう。
【ここからオチ&トリック】
アンジャーの瞬間移動には、電気の技術を使って“自分を複製する”という驚きのテクニックが使われていた。さらにボーデンの死刑執行の日に、アンジャーが何者かに銃撃され、その相手がボーデン……と思ったら、双子の弟だった。ボーデンは双子でマジックをやっていたという、突拍子もないトリックが判明。
『ダークナイト』
製作年/2008年 監督/クリストファー・ノーラン 出演/クリスチャン・ベール、ヒース・レジャー、マギー・ギレンホール
理論派にしか生み出せない傑作
クリストファー・ノーラン監督の作家性を表す言葉として“理論派”であることが挙げられる。物語のエモーショナルな要素も理論で解析するような作風は、ときに“理屈っぽい”と感じさせることもある。でも、“理論派”でしか撮れない傑作を1本挙げるなら、『ダークナイト』を置いてほかにない。
『ダークナイト』はノーランが監督したバットマン映画の2作めで、原作コミックにおけるバットマン最大の宿敵ジョーカーを登場させている。かつてはジャック・ニコルソンも演じたジョーカー役を、ヒース・レジャーがまったく新しいアプローチで怪演し、アカデミー助演男優賞に輝いた。
ノーランとレジャーが生み出したジョーカー像とは、カネや権力が目的ではなく、ただただ世の中をひっかきまわし、人間から醜い本質を引き出したいという超迷惑な“究極の愉快犯”。しかし犯罪が憎いという一心で、たった1人で悪党をボコって回るバットマンも、悪意と善意の違いだけで、やはり“愉快犯”とはいえないのか?
ジョーカーは、バットマンという存在が本質的に持っている矛盾をつまびらかにするカードの裏面である――という明確なコンセプトが『ダークナイト』の物語を哲学的かつ刺激的なものにしている。まさに“理論派”にしか構築できないノーラン節の真骨頂がこの映画には宿っているのだ。
『インセプション』
製作年/2010年 監督/クリストファー・ノーラン 出演/レオナルド・ディカプリオ、渡辺謙、ジョセフ・ゴードン=レヴィット
夢の中へ入り込む奇抜な物語!
“誰もトライしたことのなかった世界観”。これもクリストファー・ノーラン監督のポリシーで、最大限に発揮されたのが『インセプション』だ。他人の夢の中に侵入して、その相手の深層心理や情報を盗んだうえに、別の考えで洗脳するという超奇抜ワールド。
さらに夢の中で見る夢、またその先……と重層的な世界が展開し、登場人物たちが今どの段階にいるのか考えながら観ることで、脳細胞が刺激される感覚に! ノーラン作品として初めてアカデミー賞作品賞にノミネートされ、撮影賞など4部門で受賞を果たした。
有能な産業スパイだが、国際指名手配犯となったコブが、サイトーという男から、ターゲットの人物に潜在意識を植えつけるという依頼を受ける。エキスパートを集めたコブの壮大なプロジェクトは、日本など世界各国が舞台のスケール感。建物が自在に変化し、動く表現や、360度回転するセットで撮影した無重力のアクションなど、未体験のビジュアルが全編にあふれまくっている。
現実か夢か不明なシーンもあり、結末の受け止め方も人それぞれ。このあたりは最新作『TENET』に似ている。レオナルド・ディカプリオと渡辺謙も共演も話題になった。
『ダークナイト ライジング』
製作/2012年 監督/クリストファー・ノーラン 出演/クリスチャン・ベール、マイケル・ケイン、ゲイリー・オールドマン
バットマンの印象をガラリと変えた!
『バットマン ビギンズ』に始まる3部作をまとめて、クリストファー・ノーランの代表作と言っていいだろう。これまでのティム・バートン作品などから、アメコミヒーロー、バットマンのイメージを一新。とことんダークでシリアスなヒーロー像を作り上げ、ヒース・レジャーのジョーカー、トム・ハーディのベインなど強烈な悪役も送り出した『ダークナイト』シリーズ。そのフィナーレを目にする意味でも必見の一作だ。
ジョーカーとの死闘を経て、絶望にさいなまれていたバットマンだが、恐るべきテロリスト、ベインの出現でゴッサム・シティが窮地に陥り、再び戦いに挑むことを決意する。空中戦やカーチェイス、アメリカンフットボールのスタジアムの崩壊など、アクション場面の演出・迫力はシリーズでも最高レベル。
前作『ダークナイト』では部分的だったIMAXカメラを多くの場面で使用し、アン・ハサウェイの怪しくセクシーなキャットウーマンも魅力的だ。賛否両論にわかれる結末も、ある意味でノーラン作品らしい!?
『トランセンデンス』
製作年/2014年 製作総指揮/クリストファー・ノーラン 監督/ウォーリー・フィスター 出演/ジョニー・デップ、レベッカ・ホール
工学者の頭脳とA.I.を一体化させるとどうなる!?
主人公ウィルは妻エヴリンとともに、世界を理想的なものとするための人工知能を研究していたが、人工知能の発展を危惧する狂信的なテロ集団の凶弾に倒れる。彼と死別したくないイヴリンは、ウィルの意識をA.I.にアップロード。これにより、人工知能は、とてつもない進化を遂げ、あらゆる情報を取り込み、ついには難病をも治療可能にしてしまう。だが、この人工知能は、またしてもテロの標的に。ウィルの意識を宿したA.I.は、人類に何をもたらすのか?
『TENET テネット』のクリストファー・ノーラン監督が製作、ノーラン作品で撮影監督ウォーリー・フィスターの演出による近未来スリラー。高い理想を持つ工学者の意識が、最先端のA.I.と一体化したとき、何が起こるのかをシミュレートする。地球のために人類は滅ぶべきか? テーマはそんな領域にもおよぶが、面白いのはウィルの意識がA.I.化してもなお妻を愛していること。人工知能となっても、愛ゆえの行動をとるのが面白い。
『インターステラー』
製作年/2014年 監督/クリストファー・ノーラン 出演/マシュー・マコノヒー、アン・ハサウェイ、ジェシカ・チャスティン
“時空のトンネル”ってなんだ!?
クリストファー・ノーラン監督作品でも、異彩を放つSFアドベンチャー。地球での環境破壊が進み、植物も育たない食糧難で人類は危機に瀕していた。そこで移住可能な惑星を見つけるため、別の銀河系へ調査隊が送り込まれる。
その宇宙飛行士クーパーと、地球に残る彼の娘マーフの関係を軸にストーリーが展開。理論物理学者、キップ・ソーン博士の“ワームホール理論”を基に物語が作られたが、家族ドラマとしてのテイストも強い一作だ。
ワームホールといっても聞きなれない言葉だが、簡単にいえば“時空のトンネル”。くぐると瞬時に別の場所へ移動できるものの、時間も変わってしまい、ワームホールを通って惑星へ向かったクーパーたちが再び地球に戻ってくると、ものすごい時間が経過している、ということ。
つまり愛する家族は、とっくに亡くなっている可能性もある。宇宙空間と地球のズレというテーマを、異次元的なエンターテインメントとして完成。宇宙船内外や、到達する惑星など、リアリティ満点に感じられるビジュアルに圧倒されまくる!
『ダンケルク』
製作年/2017年 監督/クリストファー・ノーラン 出演/フィン・ホワイトヘッド、トム・グリン=カーニー、ハリー・スタイルズ
あえて“撤退”作戦を描く独自性!
クリストファー・ノーランが初めて実話を基に描いたのが、この戦争アクション。第二次世界大戦が続く1940年、フランスのダンゲケルクの海岸で、ドイツ軍に追い詰められた英仏連合軍の撤退を描く。戦争映画にもかかわらず“撤退”を扱うというのも、独自路線を進むノーランらしい。
陸・海・空、それぞれの場から、超スペクタクルで生々しいシーンを映像化。戦場や、戦闘機のコックピットにIMAXカメラを据え付け、ほかのアクション映画とはまったく違う体感型の作品になった。
海岸に整列した大人数の兵士も、今の映画ならCGで作るのが常識だが、ノーランはあえて手作りの人形を並べるなど、アナログへのこだわりに驚くばかり。そんな実写重視の演出によって、隣の兵士が撃たれて命を落とすなど、戦場の恐怖が伝わってくるのだ。
戦闘機のアクションも、異常なまでの臨場感。さらに撤退する兵士を自分たちのボートで助けようとする民間人の決意もドラマチックで、心を揺さぶられない人はいないはず。ノーラン作品では2度めのアカデミー賞作品賞ノミネートで、彼自身も監督賞候補になった。
『TENET テネット』
製作年/2020年 製作・監督/クリストファー・ノーラン 出演/ジョン・デビッド・ワシントン、ロバート・パティンソン、エリザベス・デビッキ、ケネス・ブラナー
1回観ただけでは理解不能!? 何度も観たくなる中毒性アリ!
最大のポイントは、時間の“逆行”。主人公に託されたのは、未来に起こる第三次世界大戦を止めるミッション。謎めいた協力者たち、人類の滅亡をもくろむロシア人の武器商人とその妻が、主人公を激しい戦いへと導いていく。オープニングのコンサート会場でのテロ事件から、怒涛の迫力である。まるで胸ぐらをつかまれ、画面に引きずりこまれるような感覚が、実にノーラン作品らしい。そして要所では、時間の逆行を示す超奇抜なアクションが繰り出されていく。
撃ったはずの銃弾が銃槍に戻り、クルマが逆走行し、崩壊したビルが元どおりになる。まわりは時間が順行している中、一部だけが逆行するから、カオスの風景だ。なにがなんだかわからないシーンも、後から逆行側の視点で描かれたりするので、そこではじめて意味を理解できたりする。時間逆行の装置であるドアや、未来から送られてきた武器のアナログテイスト。『007』をはじめスパイ映画へのオマージュ。世界7カ国でのロケ。身長190cmというエリザベス・デビッキが演じるヒロインの不思議なオーラ……と、様々な見どころを揃えつつ、複雑な用語も飛び出したりして、おそらく1回観ただけでは理解不能な人も続出するはず。
photo by AFLO