『マリア』
2025年はハリウッド映画の“復活”が予感される。と言うのもコロナ禍、俳優組合や脚本家組合のストライキなどでここ数年、作品が停滞していた状況が本格的に解消されそうだからだ。
まず年明けから注目したいのが、アカデミー賞などの賞レースを席巻している傑作群。3月2日(現地時間)のアカデミー賞授賞式にタイミングを合わせて日本でも続々と公開される。作品賞でも有力の一本とされるのが『ANORA アノーラ』(2/28公開)。カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞したが、カンヌと聞くと“芸術的?”と敷居が高く感じるかもしれない。しかしこれはエンタメとして痛快で楽しく、最後は思わぬ感動も届けるという逸品。ストリップダンサーがロシア出身の金持ちのボンボンに見初められ、とんでもない事態になだれ込む展開に、ちょっとしたジェットコースター感覚も味わえるのだ。
その他にアカデミー賞で話題になりそうな作品は、たとえば『ウィキッド ふたりの魔女』(3/7公開)。日本でも劇団四季の公演で人気を呼んだミュージカルの映画化なのでヒットが期待される。数日間にわたってローマ教皇を決める“コンクラーベ”を描いた『教皇選挙』(3/20公開)や、マコーレー・カルキンの弟、キーラン・カルキンがアカデミー賞助演男優賞の最有力といわれている『リアル・ペイン〜心の旅〜』(1/31公開)、ホロコーストを生き延びたユダヤ人建築家の半生を3時間35分(休憩を含む)で贈る超大作『ブルータリスト』(2/21公開)といった作品の中、ひときわ注目したいのが、2025年のトレンドも体現している『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』(2/28公開)だ。
『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』(2/28公開)
ノーベル文学賞も受賞し、ミュージシャンとして“生きる伝説”となったボブ・ディラン。1960年代前半を舞台に『風に吹かれて』などの名曲も絡めながら、その若き日を再現した『名もなき者』は、青春映画の傑作としてアカデミー賞でも複数部門でノミネートされそうだ。中でもディランを演じたティモシー・シャラメは、主演男優賞のフロントランナー。『君の名前で僕を呼んで』や『DUNE/デューン 砂の惑星』などで若手トップスターの地位を手にした彼が、20代にしてオスカーを手にするかもしれない。ボブ・ディランの歌もすべて自身の声でチャレンジするなど、その演技は圧巻の一言。この『名もなき者』を皮切りに、2025年はミュージシャン、音楽家の映画が相次ぎ、そのどれもが話題を呼びそうなのだ。
やはりアカデミー賞に絡みそうなのがもう一本。『マリア』は、“20世紀最高のソプラノ歌手”と呼ばれ、オペラの歴史に名を刻んだマリア・カラスが主人公。53歳で亡くなったが、死の直前の一週間に、過去のパフォーマンス、ギリシャの大富豪オナシス(後にケネディ大統領の元妻ジャクリーン・ケネディと結婚)とのドラマチックな愛人関係が重ねられる。このマリア・カラス役に体当たりで挑んだのが、アンジェリーナ・ジョリー。ブラッド・ピットとの離婚や裁判などでここ数年、俳優としての活躍があまり報じられなかったアンジーにとって久々の大役であり、たまった鬱憤を晴らすかのようにその演技力が全開になっている。こちらもアカデミー賞では主演女優賞ノミネートの可能性が高い。もしシャラメとともに受賞すれば、主演賞が両方とも実在のミュージシャン役ということになる。
続いて話題になりそうなミュージシャン映画が『BETTER MAN/ベター・マン』(3/28公開)。この作品の主人公は、ロビー・ウィリアムズだ。イギリス出身で、テイク・ザットのメンバーとして爆発的な人気を得た後、ソロアーティストとしても大成功。イギリスの音楽賞、ブリット・アワードで史上最多の受賞歴を誇る彼が、自らの半生を自分で演じた一本。ただしその姿は、なんと……チンパジー! ロビーの演技がVFXでサルの外見に変換され、周囲は通常の人間のままでストーリーが展開されるという、超奇抜な作りなのだ。最初はもちろん違和感があるのだが、サルの表情が豊かでその違和感が一瞬で消え去るのが、この映画のマジック。監督は『グレイテスト・ショーマン』のマイケル・グレイシーなので、テイク・ザットやロビーのヒット曲がミュージカルシーンとなって大盛り上がりとなる。そして最後は予想外の感動を用意。あまりに独創的なミュージシャン映画になっている。
そしてこの2025年の流れを締めるのが、マイケル・ジャクソンの作品。タイトルもそのまま『マイケル』だ。『今夜はビート・イット』『スリラー』など大ヒット曲を数多くリリースし、カルチャーそのものに多大な影響を与えたエンターテイナー。その知られざる素顔や、キャリアの分岐点となったパフォーマンスを、マイケルの実の甥であるジャファー・ジャクソンが演じている。完成度によっては、2025年度の賞レースに絡むかもしれない。監督は『イコライザー』などの本格派、アントワン・フークア。そしてプロデューサーのグレアム・キングは『ボヘミアン・ラプソディ』を手がけた人なので、日本でも大ヒットのポテンシャルがある。亡くなって16年。その伝説がどのように復活するか楽しみな『マイケル』は全米が10月公開予定なので、2025年は年明けから秋まで大物ミュージシャンの映画に注目が集まることになりそう!
※正式な邦題が決まっていない作品は、原題で表記しています。
※公開時期が表記されていない作品は『2025年公開予定』ですが、日本公開が2026年になる可能性もあります。
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