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CULTURE カルチャー

2024.10.27


池松壮亮&三吉彩花インタビュー【映画『本心』を語る】



最愛の母を亡くした主人公が、AI技術で母をよみがえらせ、その本心を探ろうとする――平野啓一郎の原作小説を、『舟を編む』や『ぼくたちの家族』などの石井裕也監督がメガホンを執って映画化。現代のデジタル社会で、惑い、傷つきながらもがく主人公・朔也を池松壮亮が、朔也の母の素顔を知るキーパーソン・三好を三吉彩花が演じる。

誰もが避けては通れない最愛の人との別れを軸に、猛スピードで進化するデジタル技術によって、人と人との感情や関係にどのような変化がもたらされるのかを描く。池松はコロナ禍にこの原作と出会い、これまでに何作もタッグを組んでいる盟友・石井に映画化することを薦めたという。難しいテーマに向き合ったふたりに話を聞く。

―――原作、または脚本を読んでの印象を教えてください。池松さんはご自分の物語だと感じられたそうですね。

池松 2020年の夏に原作に出会いました。誰もがステイホームしていたあの時期、暗闇の中、これからの未来に対する言葉にならない不安や実体のない恐怖、自分たちの世界はどうなっていくのか、AIやテクノロジーの進化についてどうなるのか、そのことの答えがこの原作に描かれていたことにあまりに強いインパクトを受けました。これは自分自身の物語であり、これからの私たち自身の物語だと感じました。

三吉 私はまずシンプルに、三好彩花という役を演じるにあたって、同じ名前なので、え、どういうこと?みたいな感覚がありました(笑)。でも撮影中は、なぜ三好彩花という役名にしたのかは聞かない方がいいと思っていたので、誰にも何も聞かずに、三好と三吉彩花は分離して考えていたんですけど。試写会のときに原作者の平野さんに、初めてなぜ三好彩花という名前だったんですかとうかがえました。

池松 同姓同名の役を演じるって奇跡ですよね。

三吉 本当に(笑)。でも本当に偶然同じ名前になったようで、平野さんは執筆しているときも、もちろん私の存在も知らなかったですとおっしゃっていました。でも、まず名前のインパクトがあるので、原作とご縁を感じないわけにはいかなかったです。三好が抱えていることやコンプレックスなど、そういう面では共感できましたが、それ以外では彼女の心情や行動については、共感したり理解するのはちょっと難しいなと感じました。

―――池松さんは原作に出会ってからこの作品をなるべく早く映画化しないといけないと感じたそうですね。なぜでしょうか?

池松 原作では2040年の設定です。当初は2040年の世界を想像しながら読めましたが、その後アフターコロナを迎える中で、テクノロジーが急速に進化していくことを日々目の当たりにし急がないとまずいと感じていました。映画では2026年前後という設定になり、今作を観たA Iの専門家の先生方からも今年公開があまりに良いタイミングで、来年になっていたら少し遅かったかもしれないと言われました。

―――2026年に設定を前倒しにしようというのはどれぐらいの段階で決まったんですか?

池松 2022年だったと思います。2022年といえば11月にチャットGPTという生成AIが世界に広まり、昨年2023年は世界的にAI元年と呼ばれる年になりました。このスピードで進化していったら2040年はさらに違った世界になっているんじゃないかというやりとりを石井さんとした記憶があります。

―――三吉さんは2026年設定の脚本を読まれたと思いますが、現実社会とのリンクはどのように感じましたか?

三吉 テクノロジーの進化も、現実世界の描かれ方も、自分の中ではしっくり来ていました。ただ、今の日本では自由死についての選択はまだ議論がないかもしれないですけれども、2025年、2026年、2030年の社会ではもっとそういった議論が進んでいるでしょうし、このタイミングで実写化することにはすごく意味があるんだろうという視点で脚本を読みました。

―――確かに近い将来というより、現在進行形の話だと感じました。おふたりは役者としてAIの進化についてどう思われますか? AIが役者の身体性を脅かすと言われることもありますね。

池松 2022年から2023年にかけて――今でも一部続いているんですが――アメリカでは大規模なストライキが行われ映画製作が止まりました(※全米映画俳優組合が生成AIの規制やストリーミング作品の二次使用料についてスタジオ側と争いストライキを決行。その後、全米映画テレビ製作者協会と合意に達して118日間に及ぶストライキが終了した)。たまたま脚本家組合のストライキが起こっていた2022年に2カ月ほどアメリカに行っていて。日本ではまだあまり議論されていませんが、当然全世界的な問題なので、アメリカと同じ危機がやってきていることを感じていました。法整備やルール化が必要だと思うと同時に、楽観的になることは簡単ですが、俳優と生成A Iがうまく共存していくということに現時点で俳優としてのメリットは僕自身感じられていません。今後、俳優に限らず、人の身体性がAIによって脅かされていくのは間違いないだろうなとも思います。

三吉 モデルの仕事でもAIがポジティブに活用されるときもあるので、そういった意味ではAIには当たり前のように触れてきてしまっています。どこかまだちょっと他人事のような感覚でしたが、この作品と出会って、池松さんや監督から話をうかがって、改めてAIやテクノロジーの進化について自分事としてやっと目を向け始めた段階です。俳優やモデルとして表現の仕事をしていく中で、もっと学んで、自分の意見や考えに向き合っていこうと思います。

―――初共演してみて現場で感じたことなどを教えてください。

池松 三吉さんと共演して、日々感動していました。三吉さんが、自身の人生を持ち寄って、三好彩花という同名のキャラクターとして心とカラダをいっぱいに使ってそこに立っていて、三吉さんの芯の強さや硬派さ、反面しなやかな柔軟さ、そして繊細さがこの役を見事に立体的に魅力的にしていく過程を隣で見ていてとても嬉しかったですし、朔也として勇気をもらいました。自分の言葉や哲学があってパーソナルがしっかり出てくるので、俳優としても、人としても素晴らしい方だなと感じています。

三吉 ありがとうございます。

三吉 私は石井組に参加するのも初めてでしたし、本当に池松さんなくしてはこの作品を無事に終えられなかったというくらい感謝しかないです。池松さんと石井監督は長年一緒にやられているからこその安心感があったのと同時に、自分はその中になかなかうまく入っていけないもどかしさがありました。三好としても自分自身としても、この作品に向き合うにあたって一番大事な本心について、常に頭をぐるぐるさせて、迷子になりながら現場にいたので、途中で池松さんに相談に乗っていただいたんです。

池松 そういうこともありましたね。

三吉 はい。お芝居に対してや作品との向き合い方、監督との向き合い方…。そのときにかけていただいた言葉は今も残っています。それに池松さんはフラットに全体を見ていて、ドシッと構えてくださっていて。懐の深さも伝わってきたし、現場でのいい空気を作ってくださっているありがたみをずっと感じていました。

―――石井監督と初めて組まれていかがでしたか?

三吉 撮影当時はちょうど自分の本心がわからない時期だったのもあり、三好は今の自分に必要な役だと思っていて。三好は過去にコンプレックスがあって、人に触れられないのですが、自分もコンプレックスがあって家族と向き合うことが難しいと感じていたんです。でもそれを乗り越えたら自分の中で一歩踏み出せたら、この作品の向き合い方もすごく変わるかもしれないなと思って、監督にもそういうお話をさせていただいたんです。

―――三吉さんの2023年の誕生日(6月18日)に、インスタグラムで家族についての想いとコンプレックスを明かされていますね。

三吉 まさに、そのことですね。石井監督は自分のそういう部分をすごくうまくすくい上げてくださったと思っています。自分自身と照らし合わせて本心を探りながら演じていたのもあって、私にとって三好と向き合うことは精神的にきつかったですが、今、撮影が終わって約1年ちょっと経って当時を振り返ったり、試写会で映画を観たときは、石井監督をはじめ、皆さんと現場で構築した人間関係はやっぱり必要だったと少しだけ安心できました。私は、他の誰かと100パーセント価値観が合致したり意気投合することはほぼ奇跡に近いと常に感じていますが、『本心』で構築した人間関係は、今後、自分にとって自信になるのか活力になるのかはわからないですけど、何かしらの意味があるものになると思います。

―――今後、振り返ったときに、この作品と石井監督と一緒に仕事したことが、何か自分にとってのターニングポイントになりそうですね。

三吉 そうですね。どの作品も毎回気づきと学びがありますし、例えば作品の大きさやヒットしたかどうかは自分にとってターニングポイントになるわけではないですが、28年間生きてきて、幼少期から向き合うことを遠ざけてしまっていた家族とのコンプレックスに向き合ったと思えるので、人生の中でとても大きい出来事ですし、私にとって必要な作品でした。

―――池松さんは今作で改めて感じた作家としての石井監督の力量はどんな点だったのかおうかがいしたいです。

池松 石井さんはこれまでも革新的な作品を作り続け、常に新しいものを求めていると思います。映画や人への探究心の強さと、社会的な心を持っています。今作における自由死、AI、温暖化、格差社会、貧困、家族、どれをとっても石井さんの作家としての問題意識に触れるものでした。生と死、過去と未来、本心と言葉、今作における様々な対比が映像として際立つことを探しだし、いかにして人が生きるかという問いを独自の観点で映画にしてくれました。このような手法や深度で今作を生み出せることが石井さんの力量そのものを表していると思います。

―――本作はある意味、池松さんきっかけから製作されたとも言えますが、監督とはどんな話をされたのでしょうか?

池松 たくさんのやりとりをしました。長い関係なので普段言葉にせずとも分かることも、なるべく言葉にしようと心がけました。とてもここで話せる量ではありません。重ねた対話の答えすべてが本作に映っていると思います。

―――朔也がお母さんを亡くした悲しみについては誰もが共感できるとは思うのですが、AIでよみがえらせるという決断についてどう思われますか? 単純に是か非かでは応えられないとは思いますが。

池松 決断そのものは現時点の倫理観で考えるととても危険なことだと思いますが、そうした願望については、誰もが脳内で失った人と対話したり、写真や動画を見直したり、遺影に話しかけたりする先にあるものだと思うのでとても理解できます。ですがAIで人間を創るという行為そのものが危険で、そこに人間の倫理や道徳が及ぶとは思えませんし、現実というものの認識ができなくなるのではないかと思います。既に世界各地でこのサービスははじまっていて、人を創るというこれまで神の領域だったことに人類が足を踏み入れてしまったのではないかと不安です。昨年世界的にAI元年と呼ばれる年になりましたが、人をよみがえらせるということだけでなく、今後、政治や社会、生活がAIに依存してしまう前にたくさんの議論が行われていかなければならないと思います。神のような力を持つテクノロジーと共に生きていくことを認識しておかなければならないと思います。

―――確かに、現在はまさにAIが進化していく渦中ですよね。

池松 そうですね。でもやっぱり亡くなった人に会って話してみたいという気持ちは僕にもあります。死者との対話というのは人類が追い続けてきた夢のひとつですよね。

三吉 私はシンプルにお答えすると、AIで大事な人をよみがえらせることについては想像しづらいイメージですね。

『本心』11月8日(金)より全国ロードショー
原作/平野啓一郎 監督・脚本/石井裕也 出演/池松壮亮、三吉彩花、水上恒司、中野太賀、妻夫木聡、綾野剛 配給/ハピネットファントム・スタジオ

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取材・文=熊谷真由子 text:Mayuko Kumagai
(C)2024 映画『本心』製作委員会
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