エルヴィス・マニアの青年、クラレンス(クリスチャン・スレーター)は勤め先の上司が差し向けたコールガールのアラバマ(パトリシア・アークエット)と瞬く間に恋に落ち、結婚。しかし、アラバマが成り行きで元ヒモを殺してしまい、間違えて持ち帰ったスーツケースから大量の麻薬が見つかったことから、2人はマフィアと警察から同時に追われる羽目になる。この1993年度版『俺たちに明日はない』(1968年・実在の銀行強盗ボニーとクライドの逃亡とその末路を描いたアメリカン・ニューシネマを代表する傑作)と呼ばれる『トゥルー・ロマンス』は、クエンティン・タランティーノが監督デビュー前に執筆した脚本を故・トニー・スコットが映画化した逃避行映画。タランティーノの鋭いストーリーテリングとスコットの高度な撮影技術が相まって、今もカルト的な人気をキープし続けている。
人気の秘密は今に繋がるストリート・ファッションの源流がクラレンスとアラバマのアウトフィットからは感じ取れるからだ。ここではスレーターが着こなすクラレンスのヴィンテージ風コーデに特化して解説しよう。
まず、アラバマと初めて映画館で出会う時のクラレンスは、ボックス型のブレザーの上に、ヨレたM-65をまるでスレーター自身の日常着のようにカッコよく羽織って現れる。しかし、ファッションがより自由に花開くのは、アラバマとクラレンスがパープルのキャデラックに乗り込み、デトロイトから西部へとハンドルを切ってからだ。エルヴィスを崇拝するクラレンスはロカビリーを意識したターコイズのボウリングシャツと〈リーバイス〉、アビエイター・サングラスで決めている。最も印象的なルックは、L.A.に到着した2人が旅路の果てに手に入れた究極のストリート・ファッションだ。クラレンスは白いTシャツの上にハワイの伝統的なプリント(緑の椰子の木、青い岩に打ち寄せる青い波、赤と黄色の小屋、帆を張ったボートが全体にデザインされている)が施された、キャンプカラーのアロハを羽織っている。ポイントはTシャツの袖の長さだ。アロハと同じか少し長いのがクラレンス流。アロハの一番下の2つ、または3つのボタンを留めているのも彼のこだわりだ。
実は監督のトニー・スコットも本作のコスチュームには人一倍のこだわりを見せたのだとか。また、タランティーノの服への関心の高さは周知の事実である。『トゥルー・ロマンス』には、後にコラボすることになるブラッド・ピットがマリファナ常習者のフロイド役でカメオ出演している。このタイムラインから読み解けるのは、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)でピットが着たイエローのヴィンテージアロハは、その昔、タランティーノがクラレンスのアロハにインスパイアされたものではないか? というワクワクするアイディアだ。恐るべし、ヴィンテージアロハ。
『トゥルー・ロマンス』
製作年/1993年 監督/トニー・スコット 脚本/クエンティン・タランティーノ 出演/クリスチャン・スレーター、パトリシア・アークエット、ブラッド・ピット
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