Safari Online

SEARCH

CULTURE カルチャー

2024.04.14

ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~ Vol.26
『ジョーカー』が映画界に残したものとは?(2)


写真左からトッド・フィリップス、ホアキン・フェニックス

監督のトッド・フィリップス(1970年生まれ、米NYブルックリン出身)は、酔っぱらって記憶を亡くしたチーム中年男子の珍騒動を描く最高の馬鹿コメディ映画『ハングオーバー!』三部作(2009年~2013年)でブレイクした才人。実は彼、ニューヨーク大学在学中に異端中の異端パンクロッカー、GGアリン(1956年生~1993年没、享年36歳)の壮絶な姿を追った『全身ハードコアGGアリン』(1994年)という傑作ドキュメンタリーを撮っている。全裸でステージに上がり、ガラスの破片で自らの肉体を切り刻み、さらには排泄して糞尿を観客にまき散らすという凶悪なパフォーマンスと、その裏にある彼の素顔を見つめたもの。フィリップス監督にとってはGGアリンこそがジョーカーの原型だったのかもしれない。GGアリンの魂を喜劇王チャールズ・チャップリンの回路に通したら、アーサー・フレックが出てきた――とでも言うような。チャップリンへのオマージュは『ジョーカー』における重要なポイントのひとつ。劇中では製鉄工場で歯車のようにこき使われる工員をチャップリンが演じた名作『モダン・タイムス』(1936年)が引用され、それを大富豪トーマス(ブレット・カレン)が優雅に鑑賞しているシーンがあり(劇場の前では抗議デモが起こっている皮肉!)、同作挿入曲の『スマイル』も流れる。またアーサーが漏らす「自分の人生は悲劇だと思っていた。でも今わかったよ。クソ喜劇だってね」(I used to think that my life was a tragedy, but now I realize, it’s a fucking comedy.)という台詞は、チャップリンの名言「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」をもじったものだ。ちなみにジョーカーのメイクは、コミックライターのボブ・ケイン(1915年生~1998年没)が創造した時点から、ヴィクトル・ユゴー原作のサイレント米映画『笑ふ男』(1928年/監督:パウル・レニ)を参照したと言われている。
 

  

 

『タクシードライバー』(1976年)

ほかにも劇中の映画館で『ミッドナイトクロス』(1981年/監督:ブライアン・デ・パルマ)が上映されていたり(舞台が1981年のゴッサムシティなので)、いろいろとハイコンテクストな映画でもあるが、『ジョーカー』の最大の元ネタになったのが、マーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ主演の『タクシードライバー』(1976年)と『キング・オブ・コメディ』(1983年)だ。前者では鬱屈したヴェトナム帰還兵トラヴィス、後者ではコメディアン志望の妄想狂の青年ルパートに扮したデ・ニーロは、『ジョーカー』では“抑圧される側”から“抑圧する側”に回り、アーサーの憧れと憎しみの対象となるセレブ芸能人マレー・フランクリンを演じる(『キング・オブ・コメディ』で言うと、ジェリー・ルイスが演じた大御所コメディアンのジェリー・ラングフォードに当たる役だ)。ちなみにフィリップス監督が『ジョーカー』の企画をワーナー・ブラザースに持ち込んだ時、ジョーカー役にはレオナルド・ディカプリオ、監督にはスコセッシをワーナー側は希望した。結局はフィリップ自身が監督を務めることになり、彼が強力に推したホアキン・フェニックスが主演に抜擢されたのだが、映画製作とは本当に運や状況に左右される水物であり、もし会社側の要求がそのまま通っていれば歴史が変わっていたかもしれないのだ。
 

  

 

『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(2024年) ※撮影中

ちなみに今更言うまでもなく、ジョーカーはそもそもDCコミックス『バットマン』に登場するキャラクターだが、『ジョーカー』並びに『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は、マーベルにおけるMCUに当たる“DCエクステンデッド・ユニバース”には含まれていない。本流とは別枠扱いのラインなのだ。それこそ孤高あるいは極北の領域に立つ映画にふさわしい。『ジョーカー』は数々の選曲がもたらす意味も重要だが、劇中で数回使われるのがフランク・シナトラの歌唱で知られる『That’s Life』だ。この曲は次の一節を含んでいる。

「他人の夢を踏みつけて小躍りする奴らがいる。でも俺はそんなことにめげないさ」(Some people get their kicks, Stompin’ on a dream. But I don’t let it, Iet it get me down)

アーサー/ジョーカーはまた帰ってくる。次にはどんな衝撃を我々に突きつけるのだろうか。

『ジョーカー』
製作年/2019年 製作・監督・脚本/トッド・フィリップス 出演/ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロ、ザジー・ビーツ、フランセス・コンロイ、ビル・キャンプ

●こちらの記事もオススメ!
ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~ Vol.25『許されざる者』が映画界に残したものとは?(1)
ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~ Vol.25『許されざる者』が映画界に残したものとは?(2)
 

  

 

 
文=森直人 text:Naoto Mori
photo by AFLO
〈アメックス〉のスモール・スポンサーシップ・パートナーズも参加!『サファリ・オープン』で特別な1日を体験!
SPONSORED
2025.12.24

〈アメックス〉のスモール・スポンサーシップ・パートナーズも参加!
『サファリ・オープン』で特別な1日を体験!

今年で3回めの開催となった、本誌『サファリ』主催のゴルフイベント『サファリ・オープン 2025』。毎年、様々なコンテンツやアクティビティでも話題となるこのコンペ。今回はさらに斬新なサービスも加わり、熱い盛り上がりを見せていた。そんな大盛況…

TAGS:   Lifestyle
知的なムードが漂う〈トム フォード アイウエア〉の新作!大人の品格を宿すクラシックな1本!
SPONSORED
2025.12.24

知的なムードが漂う〈トム フォード アイウエア〉の新作!
大人の品格を宿すクラシックな1本!

大人のコーディネートは、小物選びで“品格”が決まる。特に顔まわりの印象を左右するアイウエアは、手を抜けない重要パートだ。そこで注目したいのが〈トム フォード アイウエア〉の新作。繊細でクラシカルなフォルムが目元に知性を添え、冬スタイルを格…

TAGS:   Fashion
今、〈エドウイン〉の名作“505”が見逃せない!デニムにこだわるならメイド・イン・ジャパン!
SPONSORED
2025.12.24

今、〈エドウイン〉の名作“505”が見逃せない!
デニムにこだわるならメイド・イン・ジャパン!

タフで男らしい大人のカジュアルに欠かせないデニムは、今、王道の骨太な1本が人気。なかでも2023年に復活し、昨今のトレンドも相まって注目されている〈エドウイン〉の名作“505”が見逃せない。デニム本来の武骨な魅力やヴィンテージ感を気軽に楽…

TAGS:   Fashion Denim
クオリティにこだわった〈センテナ〉の新作アウター!今、着たいのは大人仕様のミリジャケ!
SPONSORED
2025.12.24

クオリティにこだわった〈センテナ〉の新作アウター!
今、着たいのは大人仕様のミリジャケ!

カジュアル好きの男にとって、ミリタリー系のアウターは昔から定番。とはいえ、いい年の大人になるとガチの軍モノは、マニアックすぎて少々着こなしにくいのも事実。ならば、洗練された大人仕様の1着を。〈センテナ〉のミリジャケなら武骨なデザインはその…

TAGS:   Fashion

NEWS ニュース

More

loading

ページトップへ