『フレンチ・コネクション』
製作年/1971年 監督/ウィリアム・フリードキン 主演/ジーン・ハックマン、ロイ・シャイダー
昭和的な生き方も男としては憧れる!
麻薬犯罪の撲滅に執念を燃やす刑事たちを主人公にした実録アクション映画。NY市警の薬物対策課所属のベテラン刑事ポパイが麻薬組織を追い詰めていく姿がとにかく圧巻!すべてを麻薬組織壊滅に注ぐポパイの生き方は、働き方改革がうたわれる昨今では時代錯誤かもしれないが、そこまで熱狂できる職を見つけられたという点では羨ましく思えるはず。
ジーン・ハックマン演じるポパイはひたすらNYを走り回り、容疑者たちを次々と検挙していく。なかでも麻薬組織が放った殺し屋とポパイとが地下鉄とクルマとでチェイスを繰り広げるシーンは、映画史に残る名場面だ。ポパイの鬼気迫る捜査ぶりに、刑事という職業に対するプライドがビンビンと伝わってくるだろう。
これと決めたものにすべてを捧げるポパイの生き様に男として憧れるわけだが、続編『フレンチ・コネクション2』では、それに加え男の意地を見せつけてくれる。組織の手に落ちたポパイが麻薬漬けになってしまうのだが、そこから立ち直ろうと懸命になる。この姿も、また胸が熱くなる名シーンだ。
『ポセイドン・アドベンチャー』
製作年/1972年 監督/ロナルド・ニーム 出演/ジーン・ハックマン、アーネスト・ボーグナイン
豪華客船でも安心できない!?
大晦日の夜、豪華客船ポセイドン号は年越しを祝うパーティで賑わっていた。そんな中、海底地震を原因とする大津波が発生。ポセイドン号は一瞬のうちに転覆し、船内は上下が逆転してしまう。新天地を目指す型破りな牧師スコット(ジーン・ハックマン)、NY市警の刑事ロゴ(アーネスト・ボーグナイン)ら、命を取り留めた面々は脱出のためのサバイバルを余儀なくされるが…。
続編やリメイク版も製作されたパニック映画だが、ポセイドン号を大津波が襲ったのはまさに新年を迎えた直後。転覆によって天地がひっくり返り、あえなく落下する者や何かの下敷きになる者続出の光景にぞっとさせられる。「こんな大晦日は嫌だ!」を代表する名作として、主人公たちの運命を見守りたい。
『カンバセーション ・・・盗聴・・・』
製作年/1974年 監督/フランシス・フォード・コッポラ 出演:ジーン・ハックマン、ジョン・カザール
盗聴屋が知った男女の運命とは?
オスカー獲得した『ゴッドファーザー』を太陽とするなら、その直後にコッポラが手掛けた本作はまるで月のようにミステリアスな光を放つ一作だ。男の職業は盗聴屋。頼まれた仕事なら何でもこなし、決して細かな事情に踏み込むことはない。だが今回の一件は違った。公園で密会する男女をガンマイクで盗聴し、内容の解析を進めるうちに彼は、男女が誰かに命を狙われているのではないかというパラノイアを膨らませはじめる。果たしてその真相は……。
もともとアントニオーニ監督作『欲望』やヘルマン・ヘッセの小説などから影響を受けて着想した本作。製作準備中にウォーターゲート事件が勃発し、スタッフ一同、フィクションが現実化したかのような衝撃を受けたとも言われる。ちなみにジーン・ハックマンはこれとよく似た役柄で24年後、『エネミー・オブ・アメリカ』(1998年)に登場。盗聴の特殊技能や鉄網だらけの仕事場、半透明コートなど、随所に目配せらしきものが垣間見られる。ストーリー的には異なるものの、どちらも鑑賞すれば楽しみ方が2倍に広がる。
『ミシシッピー・バーニング』
製作年/1988年 監督/アラン・パーカー 出演:ジーン・ハックマン、ウィレム・デフォー
骨太な視点で激動の時代を描く一作!
1964年、ミシシッピー州でアフリカ系の青年と公民権運動家らが行方不明になり、後に射殺体で発見された事件を基にしたサスペンス。これに対処すべくFBIが送り込んだのは、ウィレム・デフォー演じる若手エリートと、ジーン・ハックマン演じるベテラン捜査官だ。片や北部出身の理想に燃える男で、片や南部出身でこの地の社会や人々の心理も知り尽くした男。このなかなか噛み合わないタッグぶりが物語を力強く加速させる。
当時はアフリカ系アメリカ人の権利獲得のため公民権運動が激しさを増していく時代だが、それに対してKKKなどの過激な差別主義者たちは猛烈に反発。舞台の街では保安官までもがその古くからの考えに固執し、秘密を漏らした者には肌の色に関わらず容赦なき制裁が振るわれていく。度重なる暴力、殺人、放火。それに対応してFBIからは更なる大要員が配備され、さながら戦争のごとき“大炎上”へと転じていくさまは壮絶だ。この事件に出口はあるのか。鍵を握るヒロイン役として、若手時代のフランシス・マクドーマンドが好演しているのも見逃せない。
『エネミー・オブ・アメリカ』
製作年/1999年 監督/トニー・スコット 出演/ウィル・スミス、ジーン・ハックマン
知らぬうちに極秘ファイルを持っていた!
妻へのクリスマスの贈り物を何にしようか悩んでいた弁護士のディーン(ウィル・スミス)は、ふとした思いつきでランジェリー・ショップへ立ち寄る。ここで気づかぬうちに、とある男から極秘ファイルを託されたことで状況は一変し、NSA(国家安全保障局)から地獄の果てまで追われる身に———。スピーディーなサスペンス演出で知られる名匠トニー・スコットが手がけているだけあり、NSAが盗聴、ハッキング、衛星監視システムを駆使して主人公を極限まで追い詰めていく超絶カメラワークは、いま見ても20年以上前の映画とは思えないほど臨場感がとてつもない。
一方、崖っぷちのスミスが謎の男ブリル(ジーン・ハックマン)に助けを求めてからは、映画が突如として”バディ・ムービー”へと転調を遂げ、相手の裏をかいた反撃に胸が高鳴りっぱなし。名優ハックマンは、かつて『カンバセーション…盗聴…』(74)でもこれと似た役柄を演じており、まるで二作が繋がっているかのような印象を味わえるのも映画好きにはたまらないポイントだ。
『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』
製作年/2001年 監督/ウェス・アンダーソン 出演/ジーン・ハックマン、ベン・スティラー、グウィネス・パルトロウ、ビル・マーレー
描かれる“人の繋がり“こそ真骨頂
最新作であるストップモーションアニメ『犬ヶ島』を例にとるまでもなく、いい意味で精緻な箱庭的世界を構築するのがウェス・アンダーソン監督のスタイル。シンメトリーを多用する構図、表情豊かとはいえないキャラクターたちが醸し出すユーモア、おとぎ話のような浮世離れしたムードなど、実写作品、アニメ作品を問わず、これほど作風が一貫している映画作家も珍しい。
そのウェス・アンダーソン的世界観が完成されたのが長編第三作めの『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』だ。舞台はニューヨーク。登場するにはひと癖もふた癖もあるテネンバウム一家の面々で、特に3人の兄、妹、弟は、子供の頃は天才ともてはやされ、今ではそれぞれに問題を抱えた中年になっている。
この問題だらけの顔ぶれが、大きく成長することなく、そしてベタベタと仲良くするわけでもなく、でも“家族である”というゆるい絆にたどり着く。そんなそこはかとない優しさにこそ、アンダーソン的世界の魅力の神髄がある。
これは血の通った家族だけに適用されるわけではない。『ライフ・アクアティック』の同じ船に乗った仲間たち、『ムーンライズ・キングダム』の同じ島に暮らす住人たちもまた、同じように“疑似家族”としてゆるい絆を深めていく。価値観や性格がバラバラでも、人は繋がることができるのだと、アンダーソンの映画は教えてくれるのだ。