『ジャスティス・リーグ』の撮影現場
ネットフリックスで製作・配信されているSF大作『REBEL MOON』が面白い。銀河の独裁帝国に反旗を翻し、小さな村を守るため、星を渡り歩いて戦士たちを集める女性の冒険と戦いの物語は、『スター・ウォーズ』(1977年)ミーツ『七人の侍』(1954年)と言うべきか。『REBEL MOON』は二部作で、現在は『~パート1 炎の子』を配信中。後編『~パート2 傷跡を刻む者』は4月19日より配信が開始される。
『REBEL MOON』(2023年)
そんな注目作を監督したのが、『300 〈スリーハンドレッド〉』(2007年)などでおなじみのザック・スナイダー。前作『アーミー・オブ・ザ・デッド』に続いてのネットフリックスでの映画作品となる彼だが、今回も自らのスタイルを貫き、堂々たるエンタテインメントを作り出した。そんなスナイダーのスタイルについて、このタイミングで改めて振り返ってみたい。
スナイダー監督の作品を見て、誰もが気づくのはビジュアルへの並々ならぬこだわりだ。『REBEL MOON』は実写作品ではあるが、CGアニメーションや、それらの合成がふんだんに使用されている。『ガフールの伝説』(2010年)こそCGアニメとして製作したスナイダーだが、実写作品に関しては“実写とアニメの中間”と位置付けているとのこと。実際、彼の作品にはCGが必要なSF的なファンタジー作品が多い。
『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)
とりわけ目を引くのが、スローモーションのアクションシークエンスで、これは初長編映画『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)以来、彼の全作品に共通する要素。『REBEL MOON』では槍を持った戦士の跳躍場面がスローモーションでとらえられるが、このような場面は『300〈スリーハンドレッド〉』や『ウォッチメン』(2009年)、『エンジェル・ウォーズ』(2011年)の戦闘シーンをはじめ、多くの作品で見ることができる。ダークな雰囲気の背景が中世の絵画を思わせる、独特の美しさ。スナイダーの母親は画家であるとのことだが、その影響がビジュアルセンスに出ているのかもしれない。
『300〈スリーハンドレッド〉』(2007年)
また、長めのアクションシークエンスではこのスローモーションと、通常の速さのアクションを組み合わせて緩急をつけるのも特徴的。『300〈スリーハンドレッド〉』はもちろん、『ジャスティス・リーグ』(2017年)でのクライマックスのバトルでもこれは用いられ、アクションをダイナミックに盛り立てていた。
ドラマの面に目を転じると面白い特徴がある。それは仲間とともに戦う戦士たちの物語をスナイダーが好むこと。『REBEL MOON』の解説で最初に『七人の侍』を例に挙げたが、実際に同作は『七人の侍』の影響を受けていることを彼は認め、フェイバリットムービーのひとつに挙げていた。振り返ると、デビュー作の『ドーン・オブ・ザ・デッド』以来、彼の多くの作品は集団活劇として成立している。チーム戦から見える結束力は、スナイダー作品を動かす原動力なのだ。
『ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット』(2021年)
最後に、スナイダー作品のテイストが如実にわかる作品について触れたい。『ジャスティス・リーグ』は、彼が『マン・オブ・スティール』(2013年)、『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』(2016年)に続いて手がけたDCエクステンデット・ユニバースの三部作の完結編。しかし、残念ながら製作途中で、スナイダーは愛娘の自殺という衝撃的な出来事により降板してしまう。彼の監督作としてクレジットはされているが、実際には『アベンジャーズ』(2012、15年)シリーズの最初の2作を手がけたジョス・ウェドンによって仕上げられたもの。ウェドンはスタジオの要請に応じ、三部作のスナイダー的なダークなトーンとは異なる、MCU風の明るさを盛り込んで再撮影、編集を行ない、作品を完成させた。
ところが、後にスナイダーが考えていた本来の『ジャスティス・リーグ』が観たいというファンの声が高まる。これに応え、スナイダーは2021年に『ジャスティス・リーグ ザック・スナイダーカット』を配信で発表。物語の大筋はウェドン版と変わらないが、4時間の大作となったスナイダー版は映像のトーンも空気もまったく異なる。ウェドンが再撮影したシーンはすべて削除され、スナイダーが追加撮影した場面で補強されている。
『REBEL MOON』はもちろん、ふたつの『ジャスティス・リーグ』を見比べて、スナイダー監督の意匠に、ぜひ触れてみて欲しい。
【Profile】ザック・スナイダー/1966年3月1日生まれ、アメリカ出身。『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004年)で長編映画デビュー。
photo by AFLO