松田優作『ブラック・レイン』
製作年/1989年 監督/リドリー・スコット 脚本/クレイグ・ボロティン、ウォーレン・ルイス 出演/マイケル・ダグラス、アンディ・ガルシア、高倉健、ケイト・キャプショー、内田裕也
ハリウッドでもセンセーションを巻き起こした!
サイレント映画時代に大スターとなった早川雪洲から、新潟生まれロンドン育ちのミュージシャンで『ジョン・ウィック コンセクエンス』でアクションを披露したリナ・サワヤマまで、日本人のハリウッドデビューには110年の歴史があるが、最も伝説として語り継がれているのが『ブラック・レイン』に出演した松田優作だろう。
松田優作が演じたのは伝統に逆らう新興ヤクザの佐藤。ニューヨークで殺人を犯し、マイケル・ダグラスとアンディ・ガルシア扮する刑事コンビによって大阪まで護送されるも、空港に到着するや否や逃亡し、大阪のヤクザ界に激震を巻き起こす。凶暴で仁義もへったくれもなく、いつキレるかわからない予測不能な極悪党。しかし孤高のカリスマ性を備えた、映画史に残る強烈なヴィランとなった。
オーディションではリドリー・スコット監督を前に迫真の演技を披露して役をつかみ取った松田だったが、当時すでにガンに侵されていた。延命治療よりも映画出演を選び、病のことは隠し通して演じ切り、日本公開の一ヶ月後に世を去った。『ブラック・レイン』の佐藤役はハリウッドでもセンセーションを巻き起こし、ロバート・デ・ニーロと共演するオファーもあったというが、惜しくも『ブラック・レイン』が遺作となった。
三船敏郎『グラン・プリ』
製作年/1966年 原作・脚本/ロバート・アラン・アーサー 監督/ジョン・フランケンハイマー 出演/ジェームズ。ガーナー、エバ・マリー・セイント、イブ・モンタン
本田宗一郎をモデルにした役どころ!
1950年代、『用心棒』や『七人の侍』といった黒澤明作品で“世界のミフネ”となった三船敏郎には、世界中からオファーが舞い込むようになるが、ついに外国作品に初出演したのはハリウッド映画ではなく、1961年のメキシコ映画『価値ある男』だった。しかも主人公であるメキシコ人の農夫をスペイン語で演じるという一風変わった企画だったが、アカデミー外国語映画賞にノミネートされるなど作品は高い評価を得た。
そして待望されたハリウッド映画に初登場したのが、1965年の『グラン・プリ』。F1グランプリの頂点を目指す4人のカーレーサーを描いた3時間の超大作で、三船は主人公のひとりであるアメリカ人レーサーをスカウトする、カーレースチームのオーナー矢村役。本田技研工業の創業者でホンダのレースチームを率いた本田宗一郎をモデルにした役どころで、短い出番ながらもさすがの貫禄を発揮している。
ただし、日本語以外のセリフはボイスアクターのポール・フリーズによって吹き替えられており、突然声も変われば三船ならではの威厳も減ってしまうのがいささか残念。また三船は『スター・ウォーズ』のオビ・ワン・ケノービ役を断ったと伝えられており、もっと世界で活躍する可能性があったことを思うと、これまた残念ではある。
渡辺謙、真田広之『ラスト サムライ』
製作年/2003年 原案・脚本/ジョン・ローガン 製作・監督/エドワード・ズウィック 製作・出演/トム・クルーズ 出演/ティモシー・スポール、ビリー・コノリー、原田眞人、小雪
海外で活躍するきっかけとなったヒット作!
トム・クルーズがプロデュース&主演を務め、日本ロケも行われた製作費1億4000万ドルの巨費を投じたハリウッド時代劇。明治時代初期を舞台に、近代化軍隊の指導のために日本に招かれたアメリカ人士官オールグレン(トム・クルーズ)が、新政府に不満な武士たちによる反乱軍に捕らえられ、侍の誇りを学び、彼らと共に戦いに身を投じる決意をする。
メインキャストには多くの日本人俳優が起用され、西郷隆盛をモデルにした反乱軍の指導者・勝元役を渡辺謙、反乱軍随一の武芸の達人・氏尾を真田広之が演じ、双方ともにハリウッドデビューを果たした。義に厚く懐の深い勝元役の演技で渡辺謙はアカデミー助演男優賞にノミネートされ、ミュージカル『王様と私』ではブロードウェイにも進出。真田広之も本作を機に活動の拠点をハリウッドに移し、『ブレット・トレイン』や『ジョン・ウィック:コンセクエンス』などで大活躍していることはご存知の通りだ。
役所広司『SAYURI』
製作年/2005年 原作/アーサー・ゴールデン 監督/ロブ・マーシャル 脚本/ロビン・スウィコード、ダグ・ライト 出演/チャン・ツィイー、ミシェル・ヨー、桃井かおり、工藤夕貴、コン・リー、渡辺謙
純愛に身を焦がす繊細さを表現した!
『ラスト サムライ』で渡辺謙が演じた勝元役のもうひとりの有力候補は、日本が誇る名優・役所広司だった。同作でキャスティングを担当した奈良橋陽子は、次の機会にはぜひ役所広司をハリウッド映画に出したいと発言しており、まさに有言実行で役所の起用に成功したのが、日本の芸者の世界を描いた一大メロドラマ『SAYURI』の延社長役だった。
京都が舞台で登場人物の大半は日本人だが、主人公さゆり役にチャン・ツィイー、先輩芸者にコン・リーとミシェル・ヨー、さゆりが憧れる電気会社会長の岩村に渡辺謙、桃井かおりに工藤夕貴とアジア系俳優の混成キャスト。セリフは基本的に英語という、ハリウッド製作ならではのアプローチとなっている。
役所広司が演じた延社長は、顔に傷を持ち、他人の心を開くことが苦手ながら、芸者のさゆりに恋をして身請けしようとする役どころ。基本的にはさゆりと岩村会長のラヴストーリーであり、延社長はふたりの恋の道行きを邪魔してしまう二番手キャラなのだが、鬱屈を抱えながらも純愛に身を焦がす繊細さを役所がみごとに表現しており、本作でも屈指の見どころだと断言したい。
浅野忠信『マイティ・ソー』
製作年/2011年 原作/スタン・リー 監督/ケネス・ブラナー 脚本/アシュリー・エドワード・ミラー、ザック・ステンツ、ドン・ペイン 出演/クリス・ヘムズワース、ナタリー・ポートマン、トム・ヒドルストン、アンソニー・ホプキンス
“ウォーリアーズ・スリー”のひとりホーガン役で活躍!
キャリアの初期からウォン・カーウァイの短編に主演するなど国際的に活躍してきた浅野忠信。なんとロシア、カザフスタン、モンゴル、ドイツが合作した2008年の映画『モンゴル』では、モンゴル帝国の祖であるチンギス・ハーン役に抜擢され、全編モンゴル語で主演を努めてみせた。
ハリウッドでのデビュー作となったのは、2011年のマーベル映画『マイティ・ソー』。主人公である雷神ソーの親友トリオ“ウォーリアーズ・スリー”のひとりホーガン役で登場し、ソーと一緒に戦ったり、故郷のヴァナヘイムに里帰りしたりしていたが、シリーズ三作目の『マイティ・ソー バトルロイヤル』で死の女神ヘラに串刺しにされて絶命してしまたった。
しかしマーベル・シネマティック・ユニバースでは、死んだキャラが復活したり、パラレルワールドで元気に登場したりするケースが多いので、またホーガンが登場しないとは限らない。また『マイティ・ソー』以降の浅野忠信は『バトルシップ』『沈黙 -サイレンス-』『ミッドウェイ』『モータルコンバット』などで着実にハリウッドでも存在感を発揮しており、主演作『Ravens(原題)』と『モータルコンバット』続編が待機中だ。
photo by AFLO