『フォエバー・フレンズ』
製作年/1988年 原作/アイリス・レイナー・ダート 製作・出演/ベット・ミドラー 監督/ゲイリー・マーシャル 出演/バーバラ・ハーシー、グレイス・ジョンストン
理想と現実に戸惑う友情物語の傑作!
“友情モノ”も、映画では泣けるポテンシャルの高いジャンル。この『フォーエバー・フレンズ』は、日本語タイトルが示すとおり、友情物語として揺るぎのない作り。主人公2人は女性だが、性別に関係なく観る者の心をわしづかみする。
サンフランシスコのビーチで、たまたま出会った2人の少女、CCとヒラリー。遠く離れた場所に住む彼女たちは、それから長い間、文通を続ける。やがてCCはクラブ歌手、ヒラリーは弁護士となって再会。同居生活や、それぞれの結婚、ケンカに仲直り……と、濃密な友情ストーリーが続いた後、2人には切実な運命が待ち受ける。
“文通”というのが時代を感じさせるが、メールやSNSとは明らかに違う、相手への心配、伝わらないもどかしさを実感させる本作。追い求める夢、理想と現実に悩むドラマでは、主人公2人のキャラが対照的なので、親友との距離感なども含め、どこかで必ず共感ポイントを発見できるはずだ。出会いの場所であるビーチが、クライマックスでも重要な役割を果たす。『Beaches』という原題の意味にしみじみと感動し、CC役のベット・ミドラーが歌う主題歌の歌詞が胸に迫ってくる。
『ソフィーの選択』
製作年/1982年 製作・監督/アラン・J・パラク 出演/メリル・ストリープ、ケビン・クライン、ピーター・マクニコル
ソフィーの隠された過去に衝撃を受ける!
1947年、世界大戦の終結から2年後のニューヨーク。小説家を目指して上京した若者スティンゴは、ユダヤ人の生物学者ネイサンと、その恋人でポーランド出身のソフィーと知り合う。ナチスを憎むネイサンは普段は気が良いが、癇癪を起こすこともしばし。そんな彼に寄り添うソフィーには、ナチスの収容所に入れられていた過去が。スティンゴは彼女に心惹かれていくが、ソフィーはネイサンを深く愛しており、一方で決してして癒えない心の傷を抱えていた……。
ウィリアム・スタイロンのピューリッツァー賞に輝く小説を映画化。ネイサンの秘密に加え、ヒロイン、ソフィーの過去がサスペンスフルに解き明かされていく。“何が真実なのか私にもわからない。たくさんの嘘をついてきたから”という彼女の痛ましい“選択”は、観る者の心を動かさずにおかない。ハリウッドを代表する女優メリル・ストリープにとって、ソフィーを演じた本作は初のアカデミー主演女優賞受賞作となった。
『スモーク』
製作年/1995年 監督/ウェイン・ワン 脚本/ポール・オースター 出演/ハーベイ・カイテル、ウィリアム・ハート、ストッカード・チャニング
さまざまな人生の物語に心が震える!
舞台は1990年、NY、ブルックリンの下町。独身男オーギーが経営するタバコ屋には、さまざまな人がやってくる。作家のポールもそのひとり。数年前、強盗事件に巻き込まれた妊娠中の妻が亡くなって以来、彼は執筆を進められなくなっていた。そんなある日、黒人の家出少年と知り合ったポールは、その面倒を見ることになり、オーギーに頼み、彼の店で働かせることに。一方、オーギーは昔の恋人と再会したことで、過去と向き合う……。
現代アメリカを代表する作家のひとり、ポール・オースターの短編小説を、彼自身の脚色によって映画化した群像劇。愛する者を求め、失い、笑い、泣いて、なお続く、さまざまな人生の物語は、生活感あふれるダウンタウンの風景に溶け込み、リアルな肌触りをあたえる。悲喜劇が収束した果ての、ラストのクリスマス・ストーリーは、トム・ウェイツの名曲の効果も手伝い、感情を揺さぶらずにおかない。姉妹編『ブルー・イン・ザ・フェイス』とともに、必見!
『オーロラの彼方へ』
製作年/2000年 監督/グレゴリー・ホブリット 脚本/トビー・エメリッヒ 出演/デニス・クエイド、ジム・カビーゼル、ショーン・ドイル
これこそ隠れた感動作!
公開当時は大ヒットせず、それほど話題に上らなくても、その後、根強い支持をキープする映画がある。“泣ける映画”としてのこのパターンが『オーロラの彼方へ』ではないか。NY上空にオーロラが現れるという珍しい現象が起こった日、ジョンは父が大切にしていた無線機を発見。そこから聞こえてきた声に応答したジョンは、声の主が父ではないかと思う。しかし消防士だった父は、30年前、ジョンが6歳だった時に殉職していた……。オーロラが引き起こした、時空のパラドックスなのか? 本作がユニークなのは、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のような王道のタイムトラベル作品とは違い、声だけが過去と現在をつなぐ点だ。
30年離れた時間がひとつになることで、父と息子が同年代の立場になるのが、最初の感動のツボ。そして誰もが予想するように、まだ“生きている”父の運命を、息子がどう変えようとするかが、次なるポイント。本作の場合、そこからさらに二転三転が起こるのだが、ストーリーもわかりやすく練られ、感情移入しやすい。愛する人の運命を変えられるなら、自分はどうするか? そんな思いでいっぱいになった瞬間、登場人物たちの迎える運命に涙してしまう。
『ミリオンダラー・ベイビー』
製作年/2004年 監督・出演/クリント・イーストウッド 出演/ヒラリー・スワンク、モーガン・フリーマン
名優たちの豊潤なるアンサンブルに涙がこみ上げる
アカデミー賞4冠(作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞)に輝く傑作ヒューマン・ドラマ。ボクシングでのし上がることを夢見るマギーは、自分を鍛えてほしいと老トレーナーのフランキーに懇願する。何度断ってもあきらめないその執念と情熱に彼はやがて折れ、二人は厳しいトレーニングを開始。すると、彼女は一試合ごとにメキメキと頭角をあらわにし、大注目の選手へと成長していくのだがーーー。
数々の名作で歴史に残る”対決”を生み出してきたイーストウッドだけに、本作のリング上におけるファイトシーンの醸成はさすがの凄みが漂う。が、我々が涙を堪えきれなくなるのは、舞台を病室へと変える後半からではないだろうか。リングを降りても命の闘いは続く。父娘にも似た絆を育む二人。静かに、それでいて実に力強く交錯する互いの感情。そっと見守るモーガン・フリーマンの姿。もはや言葉は要らない。まるで映画の神様が宿ったかのような豊潤な香りと味わいをじっくりと味わいたい。
『海を飛ぶ夢』
製作年/2004年 監督:アレハンドロ・アメナバール 出演:ハビエル・バルデム、ベレン・ルエダ
生きることの意味を問いかける重厚作
抜けるような青空と、優しく照りつける陽光に彩られた眩い一作。海の事故で脊椎を損傷したラモンはもう28年ものあいだベッドで寝たきりの生活を続けている。顔にはいつも笑みを絶やさず、目を閉じればそこには無限の想像力が広がる。かくも本作には生命讃歌と呼ぶべき活力が満ち満ちている一方、ラモンは長きにわたって自らの尊厳死を求め続けている人物でもある。このパラドックスが彼の人間性をより立体的に浮かび上がらせていく。
彼は言う。「決して障がいを理由に死ぬのではない。私はあくまで一人の人間として、自らの意志で人生に終止符を打つ権利を得たいのだ」と。賛否は大きく割れる。スペイン国内の世論も揺れる。彼をサポートする家族や知人たちの中でも意見は分かれる。常に開放的なラモンの生き様を名優ハビエル・バルデムが力強く演じ、「生命とは?」「人生とは?」という崇高なテーマを観る者に柔らかく問いかけた感動作。アカデミー賞では外国語映画賞に輝いた。
『縞模様のパジャマの少年』
製作年/2008年 原作/ジョン・ボイン 製作総指揮・監督・脚本/マーク・ハーマン 出演/エイサ・バターフィールド、ジャック・スキャンロン、ベラ・ファーミガ
戦争映画の枠を超えた友情ドラマに泣く!
観た瞬間は衝撃の方が上回り、涙も出ないが、しばらくしてその結末がじわじわと思い出され、不覚にも泣いてしまう。『縞模様のパジャマの少年』は、そんな作品だ。第二次世界大戦下のドイツで、8歳の少年、ブルーノの一家が静かな片田舎に引っ越す。孤独な彼は、ある日、有刺鉄線のフェンスの向こう側にいた同い年のシュムエルと仲良くなり、2人はフェンス越しに話す時間を楽しむようになった。シュムエルはいつも縞模様のパジャマ姿だったが、ブルーノはその理由を知らない……。
ユダヤ人の強制収容所をテーマにした作品なので、なんとなく展開を頭に描きながら観続ける人も多いだろうが、この作品の場合、エンディングがあまりにも切実。戦争の悲惨さを伝えるのがテーマだとしても、これは一瞬、わが目を疑うレベルだ。
それでも映画を振り返れば、自分を正当化するために、大切な友人の心を傷つけるなど、戦争映画という枠を超え、等身大の友情ドラマとして感動が蘇るので、流れる涙は温かい。95分という長さなのでテンポもいいし、主人公たちを演じた2人の奇跡的な名演技にも引きこまれる、珠玉の名作だ。
『私の中のあなた』
製作年/2009年 原作/ジョディ・ピコー 監督・脚本/ニック・カサベテス 出演/キャメロン・ディアス、アビゲイル・ブレスリン、アレック・ボールドウィン
ドナーとして生まれてきたアナの決断に心震える!
“泣ける映画”というのは、設定を聞いた段階である程度、予想がつくもの。逆に、泣かそうという“あざとさ”を感じ、引いてしまう人がいるのも事実だ。しかし時として、予想した感動の、さらに一歩先へ突き進んで心を揺さぶってくる映画もある。『私の中のあなた』はそんな一本だ。
主人公は、11歳の少女アナ。彼女には白血病を患う姉のケイトがいるのだが、アナはその姉のドナーになるべく遺伝子操作で生まれてきた。幼い頃から白血球やリンパ球を提供するなど、過酷な治療に耐えてきたアナだったが、腎臓移植手術の際、ついに「自分のために生きたい」と両親を相手に訴訟を起こす。
親の都合によって“デザイナーベイビー”として誕生したアナ。それだけでセンセーショナルで、アナの立場になって胸が締めつけられるのは確実。ただ本作は、ケイトの病気、家族がバラバラになりかけるアナの訴訟の先に、さらにエモーショナルな展開も用意している。そこで不覚にも泣かされる人が多いのだ。
アナ役のアビゲイル・ブレスリンは天才子役ならではの複雑な心情を見事に体現。そしてアナに無理を強いてきた母親役、キャメロン・ディアスのクライマックスでの演技が心にしみて、(キャメロンには失礼だが)そこも意外な感動のツボになっている。
『チョコレートドーナツ』
製作年/2012年 製作・監督・脚本/トラビス・ファイン 出演/アラン・カミング、ギャレット・ディラハント、アイザック・レイバ
偏見に立ち向かう姿に感動!
1979年、カリフォルニアに住むショーパブのパフォーマー、ルディは隣室の住人であるドラッグ中毒のシングルマザーの息子で、ダウン症の少年マルコを引き取ることに。ゲイの恋人で検事局で働くポールとともに、家族のような愛情に結ばれていく彼ら。しかし、世間の同性愛への風当たりは強く、マルコと引き離されたルディとポールは法廷で争うことを決意。そんなふたりに、さらなる逆風が……。
ゲイの男性が育児放棄された子供を育てた実話にヒントを得て製作された、疑似家族の物語。同性愛者への世間の偏見をリアルに見据えつつ、この逆風に立ち向かうゲイカップルの奔走を描く。彼らと、その“息子”となるダウン症児の強い絆は、胸を引き裂かれるような展開と相まって強烈な後味を残す。ちなみに、主人公ルディを演じた『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』の演技派アラン・カミングは、本作の製作以前に実際に同性婚をしている。
『コーダ あいのうた』
製作年/2021年 監督・脚本/シアン・ヘダー 出演/エミリア・ジョーンズ、トロイ・コッツァー、マーリー・マトリン、ダニエル・デュラント
耳の聞こえない家族たちの絆に泣ける!
主人公は、高校生のルビー。ろうあの両親と兄と生活し、ただひとり耳が聞こえる彼女は家族の“通訳係”だ。一家の仕事は漁業。高校で合唱クラブに入ったルビーは、歌うことの喜びにめざめ、顧問の教師も彼女の才能に気づき……という物語。まわりとのコミュニケーションのために、家族はルビーを頼るしかない。一方でルビーは、高校生活や自分の夢のために時間を使いたい。しかし家族も見捨てられないので、その葛藤に悩まされる。そんなルビーの立場を家族も十分に理解しており、本音と相手への愛で揺れ動くそれぞれのドラマが、暗くならず、基本は軽やかに描かれるので、かえって胸に迫ってくるのだ。
最大の見どころは、家族がルビーの歌をどうやって受け止めるかというエピソード。聞きたいのに聞こえないやるせなさなど、いくつかのステップが用意されるのだが、思わぬ方向から感動を誘う演出があったりする。これらの要素は下手したら、あざとくなるリスクも抱えるが、ルビー役、エミリア・ジョーンズの爽やかすぎる名演技に惹きこまれ、素直に作品に入りこんでしまう感覚。家族を演じるのが、実際に耳の聞こえない俳優たち(母親は『愛は静けさの中に』でオスカー受賞のマーリー・マトリン)なので、リアリティも満点だ。
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