『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』(2023年)
人気カーアクション『ワイルド・スピード』のシリーズ最新作『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』が好評公開中。シリーズ誕生から22年、本作は10作目となるが、ここまで長きにわたって観客に愛され、なおかつコンスタントに製作されてきたシリーズは珍しい。世界興収が10億ドルを突破することもしばしで、日本では1作目こそ4億円の興収にとどまったが、今や40億円前後のスーパーヒットを飛ばす人気作に成長した。“ワイスピ”が観客を熱狂させ続ける理由は、何なのか? シリーズを振り返りながら、検証してみよう。
『ワイルド・スピード』(2001年)
そもそも“ワイスピ”1作目は、どんな物語だったのか? クルマを駆使して走行中のトラックを襲撃する強盗団の正体を探るため、潜入捜査に当たった警官ブライアン(ポール・ウォーカー)はストリートカーレースのカリスマ、ドミニク(ヴィン・ディーゼル)に接近する。ドミニクの正体は強盗団のリーダーだが、仲間を大事にする懐の広い男で、ブライアンとの間にも奇妙な友情が芽生えていく。シリーズのベースとなっているのはドミニクを中心とした、そんな“ファミリー”の物語だ。
『ワイルド・スピードX2』(2003年)
しかし、そんなベースが出来上がるには少々時間がかかった。1作目のヒットを受け、すぐにでも続編を作りたかったスタジオは、2年後の2003年に第2作『ワイルド・スピードX2』を送り出す。これはブライアンを主人公にした作品で、ドミニクは登場しない。前作を上回るヒットとなったものの、評判は芳しくなく、ラジー賞では最低続編賞にノミネートされてしまった。
『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』(2006年)
続く2006年の第3作『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』はタイトルどおり、東京を舞台にした物語。主人公をショーン(ルーカス・ブラック)という高校生に変え、ラストでドミニクを登場させることにより、シリーズの接点を保った。本作は日本でこそ前作以上の興収を記録したが、本国アメリカでは前作の半分の数字しか挙げられず、“ワイスピ”はここで終わったかに思われた……。
『ワイルド・スピード MAX』(2009年)
しかし、シリーズはここから劇的に盛り返していく。4作目『ワイルド・スピードMAX』で、前作に続いて監督を務めたジャスティン・リンは1作目のスピリットを再現し、ドミニクとブライアンを再会させる。1作目の主要キャラクターであるドミニクの恋人レティ(ミシェル・ロドリゲス)や妹ミア(ジョーダナ・ブリュースター)も再登場し、ファミリーの骨格が再建された。これが可能にしたのは、主演のディーゼルが本作以降、製作を兼任しはじめたことも大きいだろう。
『ワイルド・スピード MEGA MAX』(2011年)
さらにリンは、シリーズとしての一貫性に欠けた2、3作目もキャラクターを再登場させることで緊密に結びつけてゆく。たとえば3作目に登場させたハン(サン・カン)を4作目以降、ドミニク・ファミリーの一員として固定。5作目『ワイルド・スピード MEGA MAX』では2作目に登場したローマン(タイリース・ギブソン)、テズ(クリス・“リュダクリス”・ブリッジス)らもファミリーに加わった。
『ワイルド・スピード EURO MISSION』(2013年)
6作目の『ワイルド・スピード EURO MISSION』では4作目で死んだと思われたレティを復活させ、同作の悪役を再登場させるなど、シリーズはより密に結びつきを見せていく。同時に、ドミニク・ファミリーが不可能なミッションに挑んでいくという、物語のパターンが確立していった。シリーズ再建の立役者、リン監督は、ここで一旦、降板することになる。
『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015年)
第7作『ワイルド・スピード SKY MISSION』では、『死霊館』シリーズのジェームズ・ワン監督が、この路線を継ぐ。しかし、ここで悲劇が起きた。撮影終了間近だったブライアン役のポール・ウォーカーの、突然の事故死。この衝撃的なニュースは関係者やファンを大いに悲しませた。しかし、シリーズは止まらない。製作陣はブライアンが生き続けているという設定を選択し、同作をウォーカーに捧げた。涙なしには見られないラストとなった本作は15億ドルというシリーズ最高の世界興収を計上する。
『ワイルド・スピード ICE BREAK』(2017年)
このように“ワイスピ”はキャラクターを無駄使いせず、大切に描き続けることで、熱気を上昇させてきた。8作目の『ワイルド・スピード ICE BREAK』、9作目『ワイルド・スピード ジェットブレイク』、そして最新作『ワイルド・スピード ファイヤーブースト』でも、ファミリーの絆のアツさは健在だ。ほかにもシリーズの人気の要因は上げられるが、それは後編の記事で取り上げていく。
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