リー(ティモシー・シャラメ)
今年の前半を代表するファッション・ムービーはこれ、『君の名前で僕を呼んで』以来、監督のルカ・グァダニーノが彼にとってのアイコンであるティモシー・シャラメと再タッグを組んだ『ボーンズ・アンド・オール』だろう。『君~』ではロンバルディアの夏の景色にマッチしたラコステのポロやリーバイスのカットオフデニムを上手く着崩していたティモシーだが、偶然にも、同じ1980年代のアメリカ中西部が舞台の最新作では、当時流行ったグランジの進化系を着て画面に現れる。
写真左/マレン(テイラー・ラッセル)
18歳の誕生日に父親に捨てられたマレン(テイラー・ラッセル)は、長い間行方不明だった母親を探す旅の途中で、どうやら同じ仲間と思しき青年、リー(シャラメ)と出会い、互いに心を通わせるようになる。2人はどちらも食人族の末裔だったのだ。
リーのグランジは重ね着やネルシャツにダメージジーンズといったお決まりのパターンから一歩出て、リブタンクの上に花柄のシャツを合わせ、ボトムはバギーでローライズタイプだったりする。そこが、業界のファッション通から”ソフト・グランジ”と呼ばれている理由だ。リーが着るブラウスやベルト、破れたパッチワークのデニムは、どれもヴィンテージショップから気紛れに持ってきたような物のようにも見えるし(実際に衣装デザイナーのジュリア・ピエルサンティが古着屋から調達)、リーが食した獲物のワードローブから物色してきた遺品のようにも見える。
その証拠に、どの服もだいたいオーバーサイズなのだ。しかし、ティモシーがこれ以上痩せられないと思えるほど痩せ細った体をマネキンに見立てて、どんな服も自分らしく着こなしているところが凄い。本作のティモシーを見ると、改めて若手俳優たちが総じてマッチョを目指した時代の終焉を痛感するのだ。
いまどきのファッション・セレブには珍しく、お抱えのコーディネーターを付けていないティモーが、ここ数年、公の場ではベルギーのアントワープ出身の新進デザイナー、ハイダー・アッカーマンの攻めまくったデザインの服をチョイスしているのはご存知のはず。ティモシーとアッカーマンは互いにソウルメイトと呼び合う仲だ。
ヴェネチア国際映画祭に参加したティモシー・シャラメ
『ボーンズ・アンド・オール』がお披露目された昨年9月のヴェネチア国際映画祭のレカペに、アッカーマンのカスタムメイドである赤いホルターネックのジャンプスーツで現れたティモシーの美しい背中にカメラが集中したことを思い出す。最新作は、攻めるファッションアイコン、ティモシー・シャラメが、何でも着こなせる優秀なモデルでもあることを実感させる作品でもある。
『ボーンズ・アンド・オール』公開中
製作・出演/ティモシー・シャラメ 製作・監督/ルカ・グァダニーノ 出演/テイラー・ラッセル、マイケル・スタールバーグ、アンドレ・ホランド 配給/ワーナー・ブラザース映画
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