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CULTURE カルチャー

2022.11.29

アノ映画のファッションに憧れて。Vol.10
『クレイマー、クレイマー』のトレンチコート

 

 


メジャーデビュー作の『卒業』(‘67年)では当時全盛時代だったアイビールックを着こなしていたダスティン・ホフマンが、10年後の『クレイマー、クレイマー』(‘79年)では、トレンチコート、股上深めのデニム、ラペルドジャケット、マカオカラーのシャツ、グッチのホースビットローファーで登場する。

演じるのはマンハッタンにある大手広告代理店で仕事に忙殺される営業マンという設定だから、もはやそこに大学を卒業したてのアイビーリーガーの面影は皆無だし、嗜みというものを熟知している大人の男がそこにいる。
 

 


その中で代表的なアイテムを2点紹介しよう。ホフマン扮する夫のテッドにまだ5歳の息子、ビリーを預けて、ある日突然家を出る妻のジョアンナ(メリル・ストリープ)は、片腕にバーバリーのトレンチコートをかけていて、同じコートはセントラルパークでの母子の再会シーンにも登場する。

一方、テッドも劇中で出世した自分にはバーバリーのトレンチがお似合いだ、みたいなことを言っているが、実際にホフマンが着ているのはバーバリーのライバル会社、アクアスキュータムのトレンチだったという説もある。もしそうなら、コートのチョイスに夫婦の敵対関係がさりげなく表現されていた、と取れなくもない。
 

 


夫婦はトレンチの着方も違う。ジョアンナがコートのボタンを全部留めて、是が非でも我が子を引き取って育てていこうという覚悟を感じさせるのに対して、テッドはコートのフロントをラフにはだけてビリーを学校に送り届ける。彼にも子供を1人で育てる覚悟があるのだが、身だしなみに関しては若干余白があるようにも見える。トレンチコートの着方に夫婦の考え方の違いが分かる興味深い演出だ。
 

 


もう1点は、前記のセントラルパークのシーンで、ビリーをジョアンナの手元に返しに来る時のテッドのスタイルだ。彼が羽織っているのはM-65フィールドジャケットだ。アルファ・インダストリーズ社が広く知られているMA-1に先駆けて米軍のためにデザインしたM-65は、40年以上もの間、米軍の現用モデルであり続け、普遍的なアウターとして世界の街角に浸透して来た。
 

 


秋のセントラルパークでは独特の緑色が落ち葉に映えて映画の見どころの1つになっているが、テッドはいかにも’70年代っぽい若干裾広がりのパンツにグッチのローファーとM-65を合わせるという、かなり高度なコーデにチャレンジしている。この場面を見てつくづく感じるのは、1960~70~80年代のハリウッドに於いて、ダスティン・ホフマンは服を介して人物と社会の状況を上手に見せ続けた人だったということ。贅肉のないそのコンパクトなカラダは彼が負ったそんな役目には打ってつけだったのだ。

『クレイマー、クレイマー』
製作年/1979年 原作/アベリー・コーマン 監督・脚本/ロバート・ベントン 出演/ダスティン・ホフマン、メリル・ストリープ、ジャスティン・ヘンリー、ジョージ・コー

文=清藤秀人 text:Hideto Kiyoto
photo by AFLO

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