『P.S.アイラヴユー』
製作年/2007年 原作/セシリア・アハーン 監督・脚本/リチャード・ラグラベネーズ 出演/ヒラリー・スワンク、ジェラルド・バトラー、リサ・クドロー、キャシー・ベイツ
手紙が傷ついたヒロインを勇気づける!
今や誰かに連絡したい時は、メールやSNSを使うのが主流。しかしそんな時代だからこそ、肉筆で書かれた“手紙”は特別感があるし、映画でも重要なアイテムとして使われ続けている。本作の主人公は、NYの不動産業界で働くホリーだが、最愛の夫ジェリーを脳腫瘍で亡くし、悲しみに暮れていた。そんな彼女が30歳の誕生日を迎えたとき、ケーキとテープレコーダーが届く。差出人は、なんとジェリー……。その後も“P.S.アイラヴユー”と綴られた、ジェリーからの手紙が届き続ける。やがてホリーが受け取ったのは、ジェリーの故郷、アイルランドへの旅のプレゼントだった。
天国から手紙が届くわけはない。ジェリーからの手紙やプレゼントの真相に関しては、さまざまな憶測が駆け巡るが、本作のメインテーマは手紙の真実というより、ホリーの再起のドラマ。最愛の人を失って呆然としていた彼女が、手紙によって元気を取り戻し、新たな人生への希望を見出すプロセスに、共感してしまう。手紙を通して回想されるジェリーとの過去も胸を締めつけるが、最後の手紙にまつわるエピソードには号泣する人も多いのではないか。ホリー役はヒラリー・スワンク、彼女の母にキャシー・ベイツと、オスカー俳優も実力を発揮。ジェリー役はジェラルド・バトラーで、アクション映画の主役ではない彼も新鮮だ。
『ジュリエットからの手紙』
製作年/2010年 監督/ゲイリー・ウィニック 脚本/ホセ・リベーラ、ティム・サリバン 出演/アマンダ・セイフライド、ヴァネッサ・レッドグレーヴ、フランコ・ネロ
50年前の手紙が織りなすラヴストーリー
手紙というものは“実物”として残るので、書いた当事者ではなく、無関係な第三者が思わぬドラマを創り出すことも……。『ジュリエットからの手紙』は、50年前の手紙を発見した主人公が、そこに書かれた思いに感動し、手紙の送り主を探し出す物語。タイトルのジュリエットとは、あのシェイクスピアの名作に由来する。イタリアのヴェローナには、“ジュリエットの家”という観光名所があり、そこは世界中から恋の悩みをしたためた手紙が送られてくることでも有名。“ジュリエットの秘書”と呼ばれるスタッフたちが、各国の悩みに返信するという、レアなスポットから物語が展開していく。
NYからヴェローナに婚前旅行でやって来たソフィが、“秘書”の仕事を手伝い、50年前の手紙に返事を書いたことから、奇跡の再会を起こそうと決意する。自分とは無関係な過去の切ない運命をたどりながら、ソフィが現在の自分の悩みと向き合うプロセスが感動的。『レ・ミゼラブル』などのアマンダ・セイフライドが、超チャーミングにソフィを演じている。50年前の恋を描くという、ちょっと非現実的な設定も、ヴァネッサ・レッドグレーヴ、フランコ・ネロという、実生活でも夫婦の2大名優が説得力を与えた。世界遺産であるヴェローナの街並みも美しく、こんな場所なら時を超える手紙の魔法も叶うと実感。
『イル・ポスティーノ』
製作年/1994年 原作/アントニオ・スカルメタ 監督・脚本/マイケル・ラドフォード 出演/フィリップ・ノワレ、マッシモ・トロイージ、マリア・グラツィア・クチノッタ
イタリアの小さな島を舞台にした感動の物語
手紙を届けることは、人と人の心をつなぐ仕事でもある。そんな郵便配達は、映画の主人公としてもうってつけだが、数ある名作の中でもこの『イル・ポスティーノ』は忘れがたい。世界的に有名なチリの詩人がイタリアに亡命。ナポリ沖の小さな島で生活を始める。その詩人に大量に手紙が届くことから、文字が読めるという理由で郵便配達となったのがマリオ。手紙を届けるうち、詩人と親友になったマリオは、自分でも詩を書くようになる。1950年代のイタリアを舞台に、手紙がきっかけで生まれる、あまりに純粋な感動の物語。
前半は手紙をきっかけにした、心温まる人間ドラマ。しかし後半は予想外の展開も訪れ、境遇を超えた絆、故郷への愛とともにエモーショナルな結末が訪れる。そして本作が強烈にアピールする点といえば、マリオを演じたマッシモ・トロイージが、撮影時から心臓病を抱えており、最後の撮影が終わって12時間後にこの世を去ったという事実。その後、彼はアカデミー賞主演男優賞にもノミネートされたが、こうした切ない裏話を知ってから観れば、冒頭から胸が締めつけられるのは間違いない。
『シラノ・ド・ベルジュラック』
製作年/1990年 原作/エドモン・ロスタン 監督/ジャン=ポール・ラプノー 出演/ジェラール・ドパルデュー、アンヌ・プロシェ、バンサン・ペレーズ
ラヴレターの代筆をするオトコの胸中に共感!
手紙が重要キーアイテムとなる名作といえば、この作品を思い浮かべる人も多いはず。もともとはフランスの戯曲だが、これまで世界各国で映画化やドラマ化。なかでも有名なのが、地元フランスでジェラール・ドパルデューが主人公シラノを演じ、アカデミー賞主演男優賞賞にもノミネートされた本作だろう。詩作や文才が秀で、剣士としても優秀なシラノ・ド・ベルジュラックだが、大きな鼻がコンプレックスで、幼なじみの女性ロクサーヌへの恋心を伝えられない。そのロクサーヌが思い焦がれる男性が現れるも、彼には文才がなく、シラノはラヴレターを代筆することになる。その文面には、シラノからロクサーヌへの愛情が込められるが、真実を伝えることはできない……。
愛する人が喜ぶのであれば、自分の想いはどうでもいい。そんな慎ましいシラノの行動に、時代や国境を超えて感情移入させられる。シラノにとっての“鼻”に、多くの人が性格を含めて自身のコンプレックスを重ねてしまうのが名作の理由だ。物語だけ聞くとシリアスだが、本作の場合、基本のノリは軽やかで、終盤に怒涛の感動が待ち受ける。ドパルデューの鼻の大きさに違和感がないのもポイント。ハリウッドコメディの『愛しのロクサーヌ』や、ミュージカル版『シラノ』など、同じ原作から多様なバージョンが生まれているので、ぜひ観比べてほしい。
『イルマーレ』
製作年/2006年 監督/アレハンドロ・アグレスティ 脚本/デヴィッド・オーバーン 出演/キアヌ・リーヴス、サンドラ・ブロック、ショーレ・アグダシュルー
時空を超えた文通がロマンチック!
手紙には、人知を超えた不思議なパワーがあるのかもしれない。人間がタイムスリップしたら明らかにSFの世界だが、この作品のように手紙が時空を超えるドラマは、SFというよりロマンチックなムードが上回る。同名の韓国映画をハリウッドリメイクした本作。原題は『The Lake House(湖畔の家)』で、韓国版の海辺の家(イルマーレはイタリア語で“海”の意味)からアレンジされたが、基本ストーリーは同じだ。医師のケイトが湖畔の家から引っ越す際に、次の住人に向けて郵便ポストに手紙を入れる。ところがその手紙は2年前に移動。受け取ったのは、当時の住人で建築家のアレックスだった。
主人公2人が別々の時間に存在するのに、交換する手紙だけはなぜか行き来する。いくら手紙で心を通わせても、彼らは現実で会うことができない。そんなもどかしいシチュエーションにヤキモキさせつつ、後半、2人の運命がシンクロする瞬間、テンションが急上昇。サンドラ・ブロックとキアヌ・リーブスは『スピード』以来の共演で、アクション映画とは違う美しきケミストリーを見せ、ハリウッド2大スターの魅力を証明してくれる。ガラス張りの一軒家などプロダクションデザインも秀逸な一作だ。
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