黒澤明の傑作をカズオ・イシグロがリメイクした『生きる LIVING』は巧みな演出に唸る!
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海外の映画人にインタビューすると、今でも“影響を受けた監督”として名前が挙がるのが、アキラ・クロサワ。そう、黒澤明である。その作品は映画の教科書のように語り継がれ、『七人の侍』が『荒野の七人』に、『用心棒』が『ラストマン・スタンディング』に、とハリウッドでのリメイク作も誕生。そして今回、満を持して黒澤映画でも最大の感動作が再生された!
1952年の名作『生きる』は、胃ガンで余命わずかと宣告された市役所の課長が、最後の仕事として市民のために公園を作る物語。“人は世の中に何を残せるか?”という普遍的テーマは、70年以上経った今も色褪せない。この『生きる』、約20年前にもトム・ハンクス主演でリメイクの話が浮上したが、残念ながら中断。今回は『生きる』をずっと愛してきたカズオ・イシグロの情熱が実を結び、彼の脚本によって完成した。ノーベル賞作家による渾身の一作としても必見!
舞台は1953年のロンドン。市民課で働くウィリアムズは、部下の書類を確認するなど事務作業を淡々とこなす毎日。しかし突然、ガンで余命半年と告げられ、仕事も休んで最後の日々を自由に過ごそうとするが……と、物語はオリジナルにほぼ忠実。しかし日本からイギリスに移しても、まったく違和感なし。むしろ最初からイギリスで生まれたドラマと思えるほど、まっさらな感動作になった。
冒頭のタイトルシークエンスが1950年代の映画風。いきなりタイムトリップした感覚にさせる演出が、うまい! 登場人物の佇まいも端正なムードだし、スーツにボーラーハット、つねに傘という“英国紳士”な通勤ファッションなど、きめ細やかに時代を再現。どっぷりと世界に浸ってしまう。
アカデミー賞ではイシグロの脚色賞のほか、ビル・ナイが主演男優賞にノミネート。そのビル・ナイの演技は、余命わずかの悲哀を自暴自棄に見せるのではなく、ひたすら内省的。だからこそ、主人公の苦悩や、最後の決断などが深く伝わってくるという、高度なテクニックで魅了してくる。これこそ演技の見本。オリジナルの精神を完全に受け継ぎ、現代に強烈にアピールする、これは最上のリメイクではないか!?
『生きる LIVING』3月31日公開
原作/黒澤明 監督/オリヴァー・ハーマナス 脚本/カズオ・イシグロ 出演/ビル・ナイ、エイミー・ルー・ウッド、アレックス・シャープ 配給/東宝
2022年/イギリス/上映時間103分
©Number 9 Films Living Limited