実力派スターというのは、こちらの予想を裏切った顔を映画で見せることもある。だから彼らの作品は輝く。2年前、アカデミー賞主演男優賞を獲得したホアキン・フェニックスも、受賞作『ジョーカー』での狂気ともいえる役柄が衝撃を与えた。しかしこの新作は、同じ俳優とは思えない表情と演技で観る者を魅了する。
ホアキンが演じるジョニーは、ラジオジャーナリスト。アメリカ各地で子供たちにインタビューし、そのコメントで番組を構成するのが仕事だ。そんな彼が妹からの依頼で、彼女の息子、つまり甥っ子のジェシーの面倒をみることになる。自分には子供のいないジョニーが、9歳のジェシーを仕事先にも連れて行くのだが、途中で何度もぎくしゃくする2人には、徐々に離れがたい絆が育まれていく。年齢も、価値観も異なる2人の関係が変化するプロセスを描いたドラマとしては、まさに王道パターン。しかし安心して見入ってしまうのは、ジョニーの戸惑いや、めざめる父性など、繊細な感情が伝わってくるから。つまりホアキンの演技がハイレベルなのである。間違いなく、ハリウッドを代表する天才俳優だと実感!
デトロイトにはじまり、ロサンゼルス、ニューヨーク、ニューオリンズと全米各地を巡るロードムービーでもある本作は、全編モノクロというのも異色。カラーでは見慣れた光景が、モノクロだとここまで新鮮であり、ちょっぴり懐かしさも漂ってくるから不思議だ。古いアルバムをめくるような優しい気持ちになって、振り回される側のジョニー、相手を振り回す側のジェシー、それぞれの心情に共感してしまうのだ。そしてジョニーが各地で出会う子供たちは俳優ではなく、彼らの“日常の声”が映像に収められている。子供らしい本音から、社会に対する大人っぽい視点まで、その“声”もいちいち胸に突き刺さる。ヒューマンドラマとチャレンジグな演出が噛み合って、斬新な味わいに包まれることだろう。
『カモン カモン』
監督・脚本/マイク・ミルズ 出演/ホアキン・フェニックス、ウディ・ノーマン、ギャビー・ホフマン 配給/ハピネットファントム・スタジオ
2021年/アメリカ/上映時間108分
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