
日本を代表する日本酒の酒蔵〈獺祭〉。今から約3年前、山口県・岩国市を飛び出し、アメリカ・ニューヨークで酒造りを始めたのをご存知だろうか。
主な原料はアメリカ産の山田錦とハドソン川の水と聞き、「どんな味がするのだろう」と筆者もずっと気になっていたのだが、ついにニューヨーク郊外にある〈DASSAI BLUE SAKE BREWERY〉へ。アメリカでしか飲むことができないフレッシュな“生酒”をはじめ、アメリカ産山田錦の旨みを引き出した〈獺祭〉は、まさに特別なものだった。
〈獺祭〉だけれども、ひと味違う。アメリカでしか味わえない生酒とは

ニューヨーク州を流れる、全長約500km(東京〜青森の直線距離と同等)のハドソン川
〈獺祭〉が初めての海外の生産拠点として選んだ場所はハドソンバレー。ニューヨーク州を流れるハドソン川周辺の地域で、都会的なマンハッタンとは正反対の自然豊かなエリアだ。ニューヨークからは〈アムトラック〉の特急列車に乗り、ハドソン川の美しい景色に癒やされながら約1時間〜1時間半で到着する。

歴史を感じるポキプシー駅の駅舎。看板は1918年頃のもの
〈DASSAI BLUE SAKE BREWERY〉の最寄り駅はダッチェス郡のポキプシー駅。駅舎はニューヨークのグランド・セントラル駅と同じ建築事務所が設計しており、太陽の光が差し込む、ノスタルジックなレンガ造りの空間がとても美しい。現地での移動はレンタカーが便利で、酒蔵までは約10分。Uberも使えるが、都心ではないので配車の数が少なめだ。

日本らしさが盛り込まれた〈DASSAI BLUE SAKE BREWERY〉の蔵
到着し、最初に圧倒されたのはその広さ。テニスコート約20面分の敷地に酒蔵と精米所が建てられており、アメリカの広大さを感じるつくりだ。山口の〈獺祭〉の酒蔵は12階建ての近代的な建物だが、こちらは庇状の屋根をはじめ、日本家屋の面影を感じるデザインとなっている。

日本酒や〈獺祭〉についてを学べるミュージアムも
施設内は予約なしでも一部エリアの見学やテイスティング、商品の購入が可能。セルフガイド音声ツアー($10)では、自分のペースで〈獺祭〉を学ぶことができる。

生産エリア内に入れるツアーで見学できる、醸造中のタンク。この日はにごり酒の仕込み中
しかし、せっかく足を運ぶのであれば、事前予約のツアーに参加するのがおすすめだ。生産エリア内に入れるツアー(寿司&日本酒テイスティング付き $80)や、窓越しに生産エリア内を見学するツアー(日本酒テイスティング付き $50)を選ぶことができる。

DASSAI USA 副社長 三浦史也
今回、生産エリア内を案内してくれたのはDASSAI USAの副社長を務める三浦史也。山口で醸造技術の高さを評価されて渡米し、2023年の立ち上げから酒蔵を支えている。現在、酒造りを行うのは日本人とアメリカ人の合計8人。その中には、〈獺祭〉がハドソンバレーで酒造りをする理由となった、世界的に有名な料理学校〈CIA(カリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカ)〉の卒業生も含まれる。〈CIA〉はミシュランスターシェフを数多く輩出してきた名門で、〈CIA〉が〈獺祭〉にアメリカ進出を打診し、実現したという。

洗米・浸漬の時間はその日の気候などによって変える
〈DASSAI BLUE SAKE BREWERY〉での酒の作り方は、山口で行っている〈獺祭〉の製造工程とほぼ同じ。しかし酒米・水・環境が異なるため、良い酒造りのためにさまざまな調整が必要になるという。酒米はアメリカのアーカンソー州産の山田錦を使用。生産者とコミュニケーションを重ね、品質は年々向上している。「日本の山田錦と比べ、少し甘みがありますね。アミノ酸が多いです」と三浦。水はハドソンバレーを流れるハドソン川の豊富な水を使っているものの、硬水のため濾過し、きれいな酒を目指しているそうだ。

発酵中の日本酒。蒸米、水、麹、酵母を合わせて発酵させている
酒造りのプロである三浦も「今だに試行錯誤してます」と苦労しているのが、麹づくり。日本からの輸出が難しかったため、ハドソンバレーの蔵で一から作っている。立ち上げ当初は安定供給のために機械化を目指したが、思った通りのものが作れず、人の手をかけることにしたという。麹はカビの一種で発酵の際に熱が発生するため、温度が上がり過ぎた場合は適度に手作業で混ぜて温度を下げる必要があり、作業は夜通しかかる。これは経験のある日本人でも骨が折れる繊細な作業で、まだ酒造りを初めたばかりの現地の人に任せるのは難しいという。
日本の〈獺祭〉と、〈Dassai Blue〉のはっきりとした違いはアルコール度数。12%前後のワインを飲み慣れているアメリカ人に好んでもらえるよう、アルコール度数を少し低めに設定している。例えば日本の『獺祭 純米大吟醸 50』は15%、『Dassai Blue Type 50』は14%だ。

見学後は、お楽しみのテイスティング。購入もでき、『Dassai Blue Type 50』の生酒は720mL $25
現在は日本にも一部商品を輸出しているが、アメリカでしか購入できないのが“生酒”だ。火入れをしていない生酒はとてもフレッシュで、味わえるのはわざわざ訪れた人だけの特権。この日は『Dassai Blue Type 23』と『Dassai Blue Type 50』の生酒、そして『Dassai Blue Type 35』は火入れしたものを試飲できた。2割3分磨きの『Dassai Blue Type 23』は洋梨のようなフルーティーさが魅力で、現地で1番人気。5割り磨きの『Dassai Blue Type 50』はアメリカ産山田錦の甘みをふんだんに感じることができ、フルボディながら生酒ならではの爽やかさも堪能できた。
実際に飲んでみてすごさを感じたのは、やっぱり〈獺祭〉だということ。米も水も麹も違うのに、日本で飲んでいる〈獺祭〉の味を感じるのだ。でも、やっぱりちょっと違う。留学した友達が、少し大人びた雰囲気になったような、そんな違いを楽しむことができた。
【DASSAI BLUE SAKE BREWERY】
URL:https://dassai-blue.com/
大学内レストランで、未来のミシュランスターシェフの料理に舌鼓

アメリカの恵みを堪能できる、〈CIA〉内の〈アメリカン・バウンティ・レストラン〉
〈獺祭〉のアメリカ進出と関わりのある〈CIA〉で、未来のミシュランスターシェフの料理を味わうのもユニークな体験。大学内にあるフレンチ、イタリアン、アメリカン・バウンティの3つのレストランで、一般の人も学生が作る料理を味わうことができる。〈CIA〉はNetflix『発掘! ネクスト・スターシェフ』の舞台でもあり、番組を見てから訪れるのも面白い。

地元産の桃を使った『CRUDO($18)』。〈ニューヨークDr. コンスタンティン・フランク・ワイナリー〉の『ロゼ($12)』を合わせて
〈アメリカン・バウンティ・レストラン〉は、周辺の旬食材を中心とした料理が味わえるのが特徴。レシピは教授が考案し、指導者とともに学生が調理を行うため、申し分ない料理を楽しめる。サーブも学生たちが行っており、多少のオーダー間違いはあるかもしれないが、そこはご愛嬌。お酒はニューヨーク州で作られたワイン・ウォッカ・ジン、そして〈Dassai Blue〉も注文でき、地産地消のマリアージュを堪能できる。
【アメリカン・バウンティ・レストラン】
URL:https://www.americanbountyrestaurant.com/

〈フランクリン・D・ルーズベルト大統領図書館・博物館〉敷地内の並木通り
〈DASSAI BLUE SAKE BREWERY〉の位置するハドソンバレーは自然が豊かな郊外で、数日滞在したくなるほど心地よい。『アントマン』シリーズで主人公を演じた俳優のポール・ラッドなどスターも住んでおり、心を落ち着かせて上質な時間を過ごせるエリアだ。ちなみに、ポール・ラッド、ジェフリー・ディーン・モーガン、ヒラリー・バートンが共同経営するラインベックのキャンディショップ「サミュエルズ・スイート・ショップ」も見逃せない。

〈フランクリン・D・ルーズベルト大統領図書館・博物館〉館内。豊富な資料や映像とともに、大統領の人生に触れられる
アメリカ人も別の州からわざわざやってくるほど、人気の施設が〈フランクリン・D・ルーズベルト大統領図書館・博物館〉(入場料:$15)。ルーズベルト大統領はハドソン・バレーの一つであるダッチェス郡ハイド・パークの生まれで、アメリカ史上唯一、4期連続で選出された。ニューディール政策を掲げて世界恐慌から国民を救った100日の軌跡、実際に使っていた書斎、第二次世界大戦中に残したメモなど、貴重な資料が展示されている。
【フランクリン・D・ルーズベルト大統領図書館・博物館】
URL:https://www.fdrlibrary.org/

まるで神殿のような邸宅〈スターツバーグ州立史跡〉
〈スターツバーグ州立史跡〉は19世紀末のギルデッド・エイジ(金メッキ時代)を象徴する大豪邸(邸宅ツアー 大人$10~)。実業家であるオグデン・ミルズの別荘で、ギリシャの神殿を思わせる外観からも、富と財力を感じられる。1938年にニューヨーク州に寄贈されたが、ユニークなポイントは当時の内装や調度品が残されていること。タイタニック号を彷彿とさせるレッドカーペットが敷かれた大階段に、大理石の床が美しいダイニングルームは、約100年前のアメリカに訪れたかのような気分にさせてくれる。
【スターツバーグ州立史跡】
URL:https://parks.ny.gov/visit/historic-sites/staatsburgh-state-historic-site
木の温もりあふれる、サステナブルなホテル〈ハートウッド〉

心温まる滞在を叶える〈ハートウッド〉の客室
宿泊は2025年にオープンした〈ハートウッド〉が一押し。自然に包まれたサステナブルなブティックホテルで、スタッフが温かくもてなしてくれる。館内には近接するヴァッサー大学卒業生のアート作品が数多く飾られているのも特徴。三角屋根の屋根裏となる3階の客室は天井がとても高く、過ごしやすい。初めて訪れる場所はどこでも緊張するものだが、ここなら肩を抜いてゆったりとくつろげる。

〈ハートウッド〉のレストラン〈ザ・ソルト・ライン・アット・ヴァッサー〉の朝食。ほかにもパンケーキやサンドウィッチが選べる
緑を眺めながら、〈ザ・ソルト・ライン・アット・ヴァッサー〉で味わう朝食も心地よい。グリュイエールチーズ入りのアーリントンオムレツや、外がカリッと焼かれたクリスピー・スマッシュポテトは、やみつきになる美味しさだった。
【ハートウッド】
URL:https://theheartwood.com/

優雅なブティックホテル兼スパリゾート〈ミルボー・イン・アンド・スパ・ラインベック〉
ラグジュアリーな滞在なら、〈ミルボー・イン・アンド・スパ・ラインベック〉も要チェック。権威ある〈フォーブス・トラベルガイド〉で4つ星に輝くラグジュアリーホテルだ。フランスのシャトーにいるようなエレガントな空間で、スパトリートメントに癒やされながらホテルステイを堪能するのも良いだろう。
【ミルボー・イン・アンド・スパ・ラインベック】
URL:https://www.rhinebeck.mirbeau.com/
〈DASSAI BLUE〉の生酒を味わい、自然に癒やされるハドソンバレーの旅。マンハッタンのエネルギッシュな雰囲気とはまた違う、ニューヨークの魅力を知ることができた。訪れた人だけが味わえる“生酒”を飲みに、ニューヨークへーーそんな粋な旅をしてみてはいかがだろうか。
取材協力:Visit The USA(https://www.visittheusa.com/ja/)、Destination Dutchess(https://destinationdutchess.com/)







































































