美術館内観
自然豊かな箱根・小涌谷に佇む『岡田美術館』は、2013年に誕生した美と癒しのオアシス。広大な敷地には、日本や東洋の美術品が並び、中国・韓国・日本の陶磁器から琳派の絵画、仏教美術まで、幅広いコレクションが訪れる人を魅了する。四季折々の庭園や足湯カフェも備え、アートと自然を贅沢に楽しめるスポットとして、大人の旅の目的地にふさわしい存在だ。
そんな『岡田美術館』で贅沢な体験ができるのが、1日1組限定の"閉館後貸切プラン"。通常は夕方に扉を閉じる館内を、特別にプライベート空間として利用できるというもの。誰もいない館内で、名画や陶磁器を心ゆくまで味わうひとときは、まるで時が止まったかのように感じるはず。
さらに、学芸員によるパーソナルガイドや、昭和初期の日本家屋を改装した風流な飲食施設・開化亭の奥座敷を貸切にすることもできる。アートと自然を五感で堪能するこの非日常体験は、記念日や大切な人との特別な時間を格別なものにしてくれるに違いない。まさに“大人だけに許された箱根の贅沢”。『岡田美術館』は、美を愛する人の心をさらに豊かにしてくれる場所だ。
美術館外観
そして現在、開催されている特別展が『愛と平和の江戸絵画』だ。戦乱を遠く過去に追いやり、約260年もの平和が続いた江戸時代。この“泰平の世”こそが、人々の暮らしを豊かにし、絵画や工芸の世界に数え切れないほどの傑作を生み出した。そんな時代の空気を切り取った興味深い企画となっている。
江戸時代(1603–1867)は、大きな戦乱が相対的に少なく、都市経済や町人文化が花開いた時代。本展はその時代背景を踏まえつつ、『平和が生んだ絵画表現』をテーマに、名所絵や風俗画、琳派から肉筆浮世絵まで幅広いジャンルを横断して見せる。風景や遊楽の画面からは、日常の安らぎと移ろう季節の美が読み取れる。
「修学院図屏風」(部分)江戸時代前期 17世紀 岡田美術館蔵
歌川広重「箱根温泉場ノ図・箱根湖上ノ不二」(部分) 江戸時代後期 19世紀中頃 岡田美術館蔵
一方で、伊藤若冲の『孔雀鳳凰図』に象徴される生命への眼差しは、泰平の時代だからこそ芽吹いた精神性の表れ。白孔雀の羽毛を繊細に描き込み、鳳凰とともに飾るその筆致からは、調和と慶びの空気が漂う。渡辺崋山の『虫魚帖』では昆虫や魚たちを緻密に、時に寓話的に描き、幕末という不穏な時代に向き合った画家の想いが読み取れるはず。
伊藤若冲「孔雀鳳凰図」(部分)江戸時代 宝暦5年(1755)頃 重要美術品 岡田美術館蔵
また注目したいのは“愛”の描き方。家族の気配を衣服の描写だけで暗示する『誰ヶ袖図屏風』や、華やかな衣装をまとった80名近い男女と子供を描いた『遊楽図巻』、遊女や役者への憧憬を投影した美人画まで。泰平の時代、人々は“愛する存在”をこうして絵に託したに違いない。
宮川長春「遊楽図巻」(部分)江戸時代中期 18世紀前半 岡田美術館蔵
このほか特集展示として、生誕150年を迎えた上村松園の作品も鑑賞することができる。気品にあふれる女性像は、江戸の精神を受け継ぎながら近代へとつながる“日本美の系譜”を感じさせる。
上村松園「夕涼」(部分)昭和時代 20世紀前半 岡田美術館蔵
また上村松園が活躍した京都にちなみ、宮廷関係の御用を務めた原在明による名品も公開。10m近い巻物に描かれたのは、京都・下賀茂神社付近にあった尾張徳川家九代宗睦の養女・維君(つなぎみ)の別荘と考えられている。
原在明「洛北真景図巻」(部分)江戸時代後期 19世紀前半 岡田美術館蔵
美術と自然が調和した贅沢な空間で、心を満たしてくれる『岡田美術館』。箱根を訪れる際には、是非足を運んでほしいスポットだ。
●『岡田美術館』
住所:神奈川県足柄下郡箱根町小涌谷493-1
TEL:0460-87-3931
開館時間:9時~17時(入館は16時30分まで)
入館料:一般・大学生2800円、小中高生1800円
URL:https://www.okada-museum.com/exhibition/
●『愛と平和の江戸絵画』
会期:2025年7月31日(木)~12月7日(日)
※会期中無休
※特別展の内容は予告なく変更する場合あり