主人公チャーリー・ケール(ナターシャ・リオン)
ライアン・ジョンソンと言えば『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017年)の監督として広く知られるところが、彼のミステリー愛の深さはその後手掛けた『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(2019年)と続編の『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』(2022年)などからうかがい知ることができる。思えば、出世作『BRICK ブリック』(2005年)も高校を舞台にしたミステリーだったし、エドガー・アラン・ポーを原作にした短編映画を撮ったこともあった。
そんなライアン・ジョンソンのミステリー愛が、ドラマシリーズでも炸裂している。それが、2023年から配信され、大好評を博している『ポーカー・フェイス』だ(日本での配信は2024年3月〜)。
物語のはじまりは、ナターシャ・リオン演じる主人公のチャーリーが殺人の謎をうっかり見破ってしまうところから。カジノの従業員として働くチャーリーには、他人の嘘を感じ取る能力があるという。それでも能力を用いて一攫千金を狙うなどせず(過去には狙ったこともあるらしい)、従業員として地味に働いていたチャーリーだが、カジノのオーナーによる殺人事件を暴いてしまったことでオーナー一家の手先から命を狙われることに。追手から逃れるため、愛車のプリムス・バラクーダで全米各地を転々とする日々を余儀なくされることになる。
しかしながら『ポーカー・フェイス』は前述の通りミステリードラマであり、逃避行のハラハラを楽しむサスペンスを主軸にはしていない。ある時はメタルバンドのツアースタッフに、ある時は介護施設の従業員にと、職も住まいも転々としていくチャーリーは、行く先々で事件(主に殺人事件)に遭遇。嘘を感じ取る能力を活かし、目の前にゴロゴロと転がる事件の真犯人を追い詰めていく。基本的には1話につき1事件のペースで、各話の冒頭で起きた事件をチャーリーがエンディングまでに解決しておしまい。しかも、面白いのはその構成で、視聴者は各話の開始早々に犯人を知らされる。要するに、『刑事コロンボ』などでお馴染みの“倒叙ミステリー”なのだが、凝っているのは「犯人が事件を起こす」→「チャーリーがどのようにしてその場に居合わせたかの経緯が明かされる」→「チャーリーが事件を解決しはじめる」の3部構成で成り立っていること。「犯人の皆さん、完璧な犯行だと思っているでしょ? でも、残念。チャーリーがそこに居合わせちゃったんです〜!」とせせら笑わんばかりの意地悪な構成が、チャーリーvs犯人の対決に一層の高揚感をもたらすことになる。
第1話に登場するスターリング・フロスト・Jr(エイドリアン・ブロディ)
しかも、せせら笑われることになる面々が異様に豪華で、チャーリーの逃避行のきっかけを作ったエイドリアン・ブロディを皮切りに、クロエ・セヴィニー、エレン・バーキン、ジョセフ・ゴードン=レヴィットなどなどが出演。そのほか、チャーリーとひょんな縁で結ばれる捜査官役で『ビッグバン・セオリー』のサイモン・ヘルバーグ、チャーリーを追って全米をかけずり回る殺し屋をベンジャミン・ブラットが演じているのもいい。
第4話に登場するルビー・ルイン(クロエ・セヴィニー)
もちろん、チャーリーvs犯人の対決が面白いのも、豪華出演者だけに目を奪われないのも中心にこの人がいるからで、チャーリー役ナターシャ・リオンのなんとも魅力的なこと。決して上品とは言えないが、悪を見過ごせない正義感があり、根はいい子で、「なんとかなるさ」精神が頼もしいチャーリーを愛さずにはいられない人は多いと思う。かつての『アメリカン・パイ』(1999年)シリーズから傑作ドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』(2013〜2019年)、近年の『ロシアン・ドール:謎のタイムループ』(2019〜2022年)までいい仕事をしてきたナターシャ・リオンだが、本作では製作総指揮、監督、脚本にも関わっており、作品に大貢献している。『ナイブズ・アウト』シリーズにも通ずるレトロな映像世界の中、自分自身が超ピンチであるにもかかわらず活躍してしまうお人よしぶりも、1銭にもならないことに時間を費やすトホホ感も、トレードマークのハスキーボイスと相まってキュートだ。
好評につきシーズン2の配信も予定されており、ゲスト出演者の顔ぶれも一部が明らかに。『ブレイキング・バッド』のジャンカルロ・エスポジートやケイティ・ホームズが出演するという。1話ずつゆるゆると見進めるもよし、全10話を一気に見るもよし。とりあえず、シーズン2がはじまるまでにはチェックしておくのがおすすめだ。
『ポーカー・フェイス』U-NEXTで配信中
製作年/2013年 原案・製作総指揮・監督/ライアン・ジョンソン 製作総指揮・出演/ナターシャ・リオン 出演/ベンジャミン・ブラット、サイモン・ヘルバーク、エイドリアン・ブロディ、クロエ・セヴィニー、エレン・バーキン、ジョセフ・ゴードン=レヴィット 話数/全10話
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