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2024.12.21


【年末年始アーカイブまとめ】【映画】監督リュック・ベッソン 80〜90年代の寵児が作品に込めたもの

これまでSafari Onlineで配信された記事のうち、人気のあった記事をまとめて再配信しています。


『グラン・ブルー』(1988年)

当時のカルチャーを席巻したベッソン作品
80年代から90年代にかけて、リュック・ベッソンは一つのカルチャーの象徴だった。フランス映画といえばどこか高尚なイメージが先行することが多い中、突如映画界に殴り込みをかけるように放たれたベッソン作品は、鮮烈なビジュアルスタイルと躍動感を併せ持ち、既存の伝統や枠組みをものともしない新時代のパワーに満ち溢れていた。

一作目の長編『最後の戦い』(1983年)はセリフなしのモノクロームで構成された近未来SF。二作目『サブウェイ』(1984年)はパリの地下迷宮を舞台にした奇想天外なクライムアクション。さらに三作目『グラン・ブルー』(1988年)ではフリーダイビングをめぐる海洋ロマンを詩情豊かに描ききった。このとき29歳。ベッソンは20代にして一躍、映画界の最重要人物へと躍り出たのである。

今となっては信じられない話だが、『グラン・ブルー』は初お披露目を迎えたカンヌ映画祭で批評家の激しい不評に晒されたという。しかしいざ一般公開されると、どこまでも青く澄み渡った海が観客の心をギュッと鷲掴みにした。映画はフランスにとどまらず、世界中で大ヒットを記録。まさに社会現象と言えるほど時代にこよなく愛された一本となったのだ。

映画学校出身でもなく、現場での雑用仕事から必死に這い上がった彼が、驚くべき若さでこれらの傑作群を世に放つことできた理由は何なのか。究極的な理由を挙げるとすれば、近年書かれた自伝のタイトルでもある『恐るべき子供』だったから、という言葉に尽きるだろう。
 

  

 

【Profile】リュック・ベッソン/1959年3月18日生まれ、フランス出身。

居場所を探してもがき続けた成長期
著書の中では幼少期のベッソンが、周囲と一言も言葉を交わさず、ソクラテスという名の犬とだけ親密に心を通わせる内気な少年だった事実が明かされている。

リゾート会社のスタッフ仕事に応募した父の影響で、一家は夏場のビーチと冬場のスキー場を行き来するような暮らしを送っていた。そんな中で父母の関係性が決定的なまでに冷え切り、離婚後はそれぞれが再婚相手との間に子を授かったことから、リュック少年は徐々に家庭内での居場所をなくし、誰からも存在を認めてもらえていないような複雑な心境を抱えるようになる。

そんな中、10代で体得したスキューバダイビング、さらに海中のイルカとの運命的な出会いは、傷心の彼を光射すところへいざなう唯一の癒しであり希望だった。

しかし慢心から生じたダイビング中の事故などもあって、医師からは命の危険ゆえにこの道を諦めるように告げられる。この時のショックについて、自伝の中で「人生は打ち砕かれた。もう生きている意味もない」と記されているほどだ。

ただ、逆説的にいうと、この道が断たれたからこそ彼は他の道、すなわち“映画”へと引き寄せられていくことになったのだ。それも観る側ではなく、作る側として。

その意志を決定づけたのは、初めて見学した撮影現場の光景だった。彼の瞳には、人々に娯楽を提供するためスタッフ全員が一心不乱に働く姿がとても崇高なものに映ったようで、この時の心境を「依りどころにしたいと思える宗教を見つけた」「恋に落ちたような気分」(自伝より)とも語っている。
 

  

 

『ニキータ』(1990年)

鬱屈した感情をパワーに変え、作品へとぶつける
こうと決めたら突き進むのみ。戻る場所なんてもうない。彼はがむしゃらに働き、どんな雑用仕事も快く引き受けた。そうやって現場で多くのことを学び、人より二手も三手も先を読んで行動することで、スタッフからの厚い信頼を獲得。さらに睡眠時間を削って映画の構想を練り、たえず脚本を書き続けた。

映画を撮るには才能や感性が不可欠である。しかしベッソンの場合、それを上回るほどの、破格の執念と情熱と行動力がみなぎっていた。その姿はもはや全ての面において他人より10年早く生き急いでいるように見えるほどだ。

当時の爆発的なパワーは各作品からもひしひしと感じ取れる。最初期の2作は彼が成長期に溜め込んだ感情を吐き出すかのように、アウトサイダーたちが有り余るエネルギーを激しく燃焼させるものだった。
 

  

 

『レオン』(1994年)

そこでの経験を踏まえて臨んだ3作目『グラン・ブルー』は、ベッソンにとって人生を変えた二つの要素、海と映画の融合でもある。従来の怒りや鬱屈はフッと和らぎ、深く精神世界へと潜っていくかのような成熟ぶりが刻まれていた(ちなみにベッソンの第一子が誕生したのもちょうどこの頃にあたる)。

さらに30代に突入した『ニキータ』(1990年)、35歳でキャリアの頂点へと達した『レオン』(1994年)。主人公は相変わらずアウトサイダーでありながら、殺伐とした暮らしの中で、自らの愛するもの、望むべき生き方を見つける。とりわけ『レオン』の観葉植物が象徴する「根を張って生きる」ことは、他ならぬベッソン自身が長年にわたって切望し、追い求めてきたことそのものである。
 

  

 


『トランスポーター』(2002年)

「10本撮ったら引退」宣言の撤回

ベッソンについて語る時、よく取り沙汰されるのがかつての「10本撮ったら引退」という言葉だ。しかし作品数はいつしか10本を悠に超え、引退発言は当たり前のように撤回された。

だが、かつてのベッソン作品を知る者として、2000年代に入ってからのベッソン作品は明らかに別物に見える。

今や地位や評価を手に入れ、あらゆる意味でのファミリーの長となり、「居場所を求める」という切なるテーマやそのための爆発的なエネルギーが彼の中で映画作りのモチベーションとして成立し得なくなっている様が伺えるのだ。
 

  

 

『96時間』(2008年)

逆に開花したのがプロデューサー業だ。世界的にシネコンが大量発生していく2000年代には、会社や映画産業全体を視野に入れ、『TAXi』(1997年)や『トランスポーター』(2002年)、さらには『96時間』(2008年)など、主人公の特殊能力がストーリーを際立たせる、観客がワクワクするようなコンテンツを次々とプロデュースし、後進のクリエイターたちに活躍の場を提供し続けた。

また、2000年代の中頃には『アーサーとミニモイ』3部作を手掛けているが、こういったファンタジーは往年のベッソンファンのためではなく、むしろ子供たち世代を楽しませる一心で生み出された作品と捉えていいだろう。
 

  

 

『ANNA/アナ』(2019年)

戦うヒロインを描き続けること
ただ、キャリアを通じて変わらないものもある。例えば、90年代初期に我々の熱狂させた『ニキータ』のアンヌ・パリロー的な“戦うヒロイン像”は、その後も何度となく形を変えて、はたまた違うモチーフを身に纏って、降臨し続けている。

それこそ『ジャンヌ・ダルク』(1999年)で"Follow Me!"と絶叫しながら突き進むミラ・ジョヴォビッチも鮮烈に脳裏に刻まれているし、かと思えば『The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛』(2011年)ではアウンサンスーチーの半生に材を取るというかつてない試みも印象的だった。

ベッソンによると、彼の手掛けた作品群(プロデュース含む)には男性が主人公のものも多く、別段“戦うヒロイン”にこだわっているつもりはないのだとか。しかしそうは言っても、女性が主人公となる機会は、最近でも相変わらず多い。

『Lucy』(2014年)では脳内の未使用領域をめぐって主人公が未知なる力を覚醒させる。そして『ANNA/アナ』(2019年)ではどこか『ニキータ』の世界に回帰するかのように、主人公が自らの培った暗殺能力を駆使して生き抜いていく。

これからもベッソン作品からは、時代を先取った多様なヒロインが生まれ、自らの運命を切り開く死闘を繰り広げてくれるはずだ。
 

  

 

『DOGMAN ドッグマン』(2023年)

4年ぶりの新作に刻まれた異様なまでのエネルギー
そんなベッソンの久しぶりのカムバック作は、3月8日に日本公開した『DOGMAN ドッグマン』(2023年)。ケイレブ・ランドリー・ジョーンズを主演に据えた、過去の作品と比べてもかなり異色の部類に入る快作にして怪作である。

主人公ダグラスは、幼い頃から親に虐待され、檻の中で無数の闘犬に囲まれて育った人物。そのため大人になったダグラスが唯一心を許せる存在は犬だけ。この男が衣食住を共にする無数の犬たちを引き連れて、一体どんな人生を織り成していくのかーーー。

回想形式で展開する本作は、初お披露目されたヴェネツィア国際映画祭で“ベッソン復活”との高評価で迎えられた。中には「ダークヒーロー映画のよう」との感想も見かけるが、筆者個人の印象としては、むしろ一人の人間の光と影をすべて抱きしめ、いかなる人生をも高らかに歌い上げようとする熱意と気高さを感じた。

言うなればベッソン作品の初期作にあった得体の知れないエネルギーを、実に久々に堪能できたような気がする。紛れもないフィクションではあるものの、おそらくケイレブ演じる主人公の人格には、ベッソンが生身のカラダで経験してきた寂しさ、孤独、怒り、居場所のなさ、それでもなお人生と格闘し続ける執念が、内包されているのだろう。

20代から30代にかけて一世を風靡したベッソンも、今や60代半ばになった。でも決して枯れてはいない。かといって巨匠風を吹かせてもいない。

いつもの彼の映画を人生に例えるなら、まさにここからが最高潮であり、真の見せ場となるところである。自身の監督作のために、いかなる珠玉のアイデアと脚本を準備しているのか。80年代からずっと作品を見続けてきた一人として、今後のベッソン作品にも注目していきたいものである。
※参考・引用文献:「恐るべき子ども/リュック・ベッソン『グラン・ブルー』までの物語」リュック・ベッソン著、大林薫監訳、辰巳出版、2022年

※初出/2024年3月16日配信

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文=牛津厚信 text:Atsunobu Ushizu
Photo by AFLO
© Photo: Shanna Besson - 2023 – LBP – EuropaCorp – TF1 Films Production – All Rights Reserved.
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