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CULTURE カルチャー

2023.12.09

悲劇を繰り返さないために観ておきたい
ボスニア紛争を描いた映画5選



『ユリシーズの瞳』
製作年/1995年 監督/テオ・アンゲロプロス 出演/ハーヴェイ・カイテル、マヤ・モンゲンステルン

時と記憶を超えゆく壮大な旅路に、魂が震える
巨匠アンゲロプロス監督が描く、魂が震えるほどの詩情に満ちたオデッセイ。20世紀初頭、マナキス兄弟によってギリシアとバルカン半島で史上初めて撮影されたという記録映像には、3巻分の未現像のフィルムが残されていたという。高名な映画監督(ハーヴェイ・カイテル)は行方の分からなくなったフィルム=最初のまなざしを追い求めて、母国のギリシアから車や列車や船を乗り継ぎ、その果てに戦火のサラエヴォへと足を踏み入れていく……。

90年代半ばに勃発したボスニア紛争から着想を得た本作には「なぜ人類はサラエヴォから何も学ぼうとしないのか」という問いかけが刻まれている。かつてこの地で起こった暗殺事件をきっかけに大戦が起こり、そしてまた20世紀の最後にも巨大な悲劇を生んだこの地。翻って我々は、日々のニュースが戦争やその爪痕について触れないことがなかった“2023年”へのまなざしを、未来への教訓として繋げていけるだろうかーーー。年の瀬に、そう自身に深く問わずにいられなくなる作品である。
 

  

 


『ノー・マンズ・ランド』
製作年/2001年 監督/ダニス・タノヴィッチ 出演:ブランコ・ジュリッチ、レネ・ビトラヤツ

あらゆる暴力と戦争にNOを突きつける骨太作
あたりに深い霧が立ち込める中、慣れない道をボスニア軍兵士たちが進む。しかしいざ霧が晴れて周囲を見回すと、そこは敵のセルビア軍から丸見えの戦場ど真ん中。主人公チキはすかさず中間地帯の塹壕へと飛び込むが、そこへ偵察にやってきたセルビア兵士ニノと鉢合わせしてしまう。互いに銃を突きつけ合うも埒が開かず、二人はいがみ合いながら事態打開を目指すのだが……。

戦場の中間地点で敵兵どうしが“一対一”の人間として向き合う本作は、戦場の現実や人間の本質を深く浮き彫りにし、カンヌ映画祭脚本賞やアカデミー賞外国語映画賞の受賞をはじめ世界の称賛を獲得。タノヴィッチ監督は紛争の最中、軍に従軍して最前線で300時間に及ぶ記録映像をカメラに納めた経歴を持つ人でもある。戦場の実態を目の当たりにした彼が描く作品だからこそ、敵味方の立場や善悪二言論を超え、あらゆる暴力にNOを突きつける叫びがより切実に伝わってくる。そして何より、世界の無関心や事なかれ主義を凝縮したかのような皮肉な結末が、深く胸に突き刺さる。
 

  

 


『ハンティング・パーティ』
製作年/2007年、監督/リチャード・サイモン、出演/リチャード・ギア、テレンス・ハワード

ジャーナリストの中での”終わらない戦争”
リポーターのサイモン(リチャード・ギア)とカメラマンのダック(テレンス・ハワード)は、危険を顧みず世界の紛争地から戦況を報じる名コンビだ。しかしある日、ボスニア紛争で目にした惨劇にサイモンがブチ切れて放送事故を起こしてからというもの、彼の名声はすっかり地に落ちてしまっていた。そんな二人が、紛争終結後のサラエヴォで久々に再会。起死回生を賭けたサイモンは「悪名高い戦犯を捕まえて報奨金を獲得しよう」と持ちかけ……。

戦争という題材をブラックコメディ的感覚で描いた名作は数多くあるが、これもまた事実とフィクションを巧みに織り交ぜた構成にグッとくる一作だ。戦争に接したジャーナリストたちが打算的に行動しつつも、時に激しく感情を突き動かされる様がとてもリアル。とりわけリチャード・ギア演じる主人公の飄々と揺れ動く表情からは、彼の中で紛争が今なお一向に終結していないことが痛烈に伝わってくる。ちなみに“フォックス”として描かれた戦犯ラドヴァン・カラディッチは本作の公開から1年後に逮捕されている。
 

  

 


『アイダよ、何処へ?』
製作年/2020年 監督/ヤスミラ・ジュヴァニッチ 出演/ヤスナ・ジュリチッチ、イズディン・バイロヴィッチ

圧倒的な絶望的状況の中に呑み込まれる
ボスニア紛争さなかの1995年7月、国連が安全地域に定めていたはずのスレブレニツァにセルビア軍が攻め入り、助けを求める2万人以上のムスリム(ボシュニャク)人たちが国連基地に殺到する。しかし人員も軍備も足りない国連軍には何ら彼らを助ける術がない。そうしている間にセルビア軍は自ら手配したバスやトラックを連ねて基地を訪れ、強制的に住民たちを移送しはじめ……。

スレブレニツァで8000人以上が犠牲になったと言われる虐殺事件を描いた衝撃作。通訳者アイダの目を通して描かれる状況は、時が経つにつれ緊迫感と絶望感を増すばかり。筆者も本作に出会うまでこの事件について完全に無知だった自分を呪いたくなるほど、胸かきむしりたくなる無力さを痛感させられた。自分があの場所にいたらどう行動していたか。はたまた、国際社会がどう動いたならあの悲劇を防げたのか。本当に様々な思いが浮かんでは消えていく。ぜひ多くの方にご覧いただき、何かを感じてほしい一作だ。
 

  

 


『サラエボの花』
製作年/2006年 監督/ヤスミラ・ジュヴァニッチ 出演/ミリャナ・カラノヴィッチ、ルナ・ミヨヴィッチ

女性たちが戦争で負った癒えぬ傷跡を描く
ベルリン映画祭で金熊賞に輝いた本作は、2000年代中頃のサラエボの街を舞台にした物語だ。ボスニア紛争で人々が殺し合った地獄のような日々は去った。しかし依然として市民の生活は厳しく、とりわけ主人公のシングルマザー、エスマは一人娘サラの修学旅行の費用を捻出するため、ナイトクラブで身を粉にして働く日々。娘は父親がボスニア紛争で命を落とした殉教者(シャヒード)であると信じているのだが……。

娘の父親はいったい誰なのか。明かされる悲劇はあまりに悲痛だ。冒頭から母エスマのふとした表情や行動にその影響らしきものが窺え、ボスニア紛争においてセルビア人兵士たちが数万人の女性たちに行った組織的なおぞましい行為が、戦争が終わって10年以上経ってもなお、深刻な影響をもたらし続けている実地を突きつけられる。と同時に、本作はこの街の女性たちが互いに支え合い、懸命に今を生き抜こうとする姿をも丹念に描く。最後に真実を受け止める娘も、今ではきっと30代近く。いかなる人生を歩んでいるだろうかと、本作を見直すたび、思いを馳せずにいられなくなる。
 

  

 

 
文=牛津厚信 text:Atsunbu Ushizu
Photo by AFLO
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