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CULTURE カルチャー

2023.08.14


『ミッション:インポッシブル』シリーズの面白さを改めて考察する。


『ミッション:インポッシブル』(1996年)

ヤバイよ、ヤバイよ! あの名作『トップガン マーヴェリック』(2022年/監督:ジョセフ・コシンスキー)に続いてぶっこんできた、2023年7月21日に日本公開(全米では12日)となったトム・クルーズ主演の最新作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』(監督:クリストファー・マッカリー)が、もうとんでもないゾーンに振り切れているよ!

そもそも予告編として以前流れていた撮影現場のメイキングから度肝を抜かれた。約1220mの高さという断崖絶壁(ロケーション場所はノルウェーのヘルセツコペン山)から、バイク(カスタムメイドのホンダCRF250)でスキーの滑走みたいにジャンプ! もちろんトム様ご本人が飛んでいるわけです!

狂気のスタントはこれだけでなく、本編ではほかにもどうかしているアクションを連発。トム・クルーズ(御年61歳)って、こんな全盛期のジャッキー・チェンを超えるほど神々しい命知らず野郎だったっけ? 遠い昔は爽やかイケメンの青春スターじゃなかったの? はてさて、いつから彼が世紀の“アクション神”になったのか――トムのライフワークと呼んで過言ではない30年近く継続してきた大人気シリーズの過去作をざっくり復習してみよう。

#1:『ミッション:インポッシブル』(1996年/監督:ブライアン・デ・パルマ)

『ミッション:インポッシブル』(1996年)

もともと『ミッション:インポッシブル』シリーズは、自分の会社(クルーズ/ワグナー・プロダクションズ)を作ったばかりのトム・クルーズが自ら企画のアイデアをパラマウント・ピクチャーズの上層部に持ち込み、はじめてプロデューサーを兼任した作品。「もはやあまり作られなくなった古典的なアクション映画を復活させたかった」とトムが語るように、往年のテレビドラマシリーズ『スパイ大作戦』(1966~1973年)を現代に受け継ぐ形で、記念すべき第1作を誕生させた。監督は『スカーフェイス』(1983年)や『アンタッチャブル』(1987年)などの名匠ブライアン・デ・パルマを起用。米国政府が手を下せない極秘任務を遂行するスパイ組織“IMF”のスーパーエージェント、トム・クルーズ扮するイーサン・ハントという当たり役が爆誕した。

当時は『新スパイ大作戦』(1988~1990年)の放送も記憶に新しい頃でもあり、オリジナルへの敬意と継承の意識が目立つ。『007』の“ジェームズ・ボンドのテーマ”と同じくらい有名な『スパイ大作戦』の心躍るテーマ曲(作曲:ラロ・シフリン)が鳴り響き、姿を見せない当局からの指令の決め台詞「このテープは5秒後に消滅する」もしっかり踏襲。

トム・クルーズのアクションではなんといっても“宙吊り”に尽きる。米バージニア州ラングレーにあるCIA本部に侵入したイーサンは、天井のダクトからワイヤーを使って降下し、床面ギリギリのところでストップする。実はこのシーン、女泥棒とその一味が活躍するサスペンス・コメディ映画『トプカピ』(1964年/監督:ジュールズ・ダッシン)が元ネタ。厳重な警戒を張り巡らせたイスタンブールの宮殿の中、天井からロープを使ってお宝(短剣)を盗もうとする場面を応用したのだ。

しかし結局は『ミッション:インポッシブル』が本家のお株を奪った形になり、以降のシリーズでもたびたび登場する看板メニューとなる。その凄まじい影響力を示すのは、世界的に大量発生した無数のパロディだ。日本のバラエティ番組でもよく見かけたし、トム・クルーズの元妻ニコール・キッドマン(2001年離婚)も『パディントン』(2014年/監督:ポール・キング)で“宙吊り”アクションを披露。ニコール扮する悪役ミリセントが天井からするすると降りてきて、熊のパディントンめがけて毒矢をぶっ放す。別れてもオマージュを引き受ける明石家さんま&大竹しのぶばりの絆に映画ファンはほっこりしたものだ。

比較的最近では2018年、清掃機器の最大手メーカーであるドイツ・ケルヒャー社のCMが印象深かった。お馴染みのテーマ曲に乗せて、クリーナーを抱えたメガネ姿の女性がイーサンのごとく“宙吊り”に挑戦。床につかないように窓拭きをこなすというインポッシブルな任務(掃除)をクリアする!
 

 

『ミッション:インポッシブル』(1996年)

ちなみに本編でイーサン・ハントの命綱となるワイヤーを握っていたのは、フランスの名優ジャン・レノが扮するクリーガーという仲間の男。ジャン・レノは主演作『レオン』(1994年/監督:リュック・ベッソン)の殺し屋役で大ブレイクしたばかりだったが、本作ではコメディリリーフ的な役回りを担った。シリーズ中、彼の出演はこの1作のみ。また、ヴィング・レイムス演じるIMFの天才ハッカーでありイーサンの頼れる親友、ルーサー・スティッケルはこの第1作からお目見え。彼はイーサン以外で唯一シリーズ全作に登場するキャラクターとなる。

『ミッション:インポッシブル』
製作年/1996年 原作/ブルース・ゲラー 製作・出演/トム・クルーズ 監督/ブライアン・デ・パルマ 原案・脚本/デヴィッド・コープ 脚本/ロバート・タウン 出演/ジョン・ヴォイト、エマニュエル・ベアール、ジャン・レノ
 

 
#2:『M:I-2』(2000年/監督:ジョン・ウー)

『M:I-2』(2000年)

本作の監督は香港ノワールが生んだ鬼才、『男たちの挽歌』(1986年)などのジョン・ウーを抜擢。ハリウッド進出を果たして『フェイス/オフ』(1997年)というヒット作を放ったイケイケの頃だけあり、香港時代からの監督のトレードマークである鳩が飛び、イーサン・ハントは両手に構えた二丁拳銃をド派手にぶっ放す。さらにやたら回転するアクションなど、全編にわたり“ウー美学”が炸裂。初期の本シリーズは監督の作家性を大切にする志向が強かったが、特にこの『M:I-2』は監督の個性が強く、今となっては“ジョン・ウー×トム・クルーズ”の唯一のコラボレーションとして超レアな作品といえる。
 

 

『M:I-2』(2000年)

もちろんトム・クルーズのほうも、自らリアルガチで危険なスタントをこなす人体実験のような超絶アクションの試みをさらに本格化させていく。まず本作の導入部、米ユタ州モアブのデッドホースポイント州立公園にて、バカンス中のイーサン・ハントが1人でロック・クライミングを愉しんでいる姿からして狂っている。約600mの高さの断崖絶壁の岩肌を素手で掴み、空中にぶら下がる。トムはセーフティネットなしの命綱のみでこのシーンに臨んだらしい。
 

 

『M:I-2』(2000年)

そのあと、セクシーな女泥棒ナイア・ホール(ダンディ・ニュートン)の乗るアウディTTロードスターと、イーサンの運転するポルシェ911カブリオレが鬼ごっこのようなカーチェイスを繰り広げ、後半はバイクに乗りまくる。イーサンと、元IMFエージェントだったテロリストの悪役ショーン(ダグレイ・スコット)がバイクの一騎打ちを繰り広げるクライマックスは迫力満点。このシーンはオーストラリアのベア島で撮影された。

第1作では運転というものを全くしなかったイーサンだが、本作ではクルマやバイクなどエンジン音が荒々しく鳴り響く。ここから『デッドレコニング PART ONE』まで繋がる、トムのバイクスタントの歴史がはじまっているといっても過言ではない。全体のお話としては、エキゾチックなスペイン・アンダルシアの都市セビリアで出会ったイーサンとナイアのラヴロマンスが中心で、『スパイ大作戦』というより『007』色が強い感じだ。ちなみにトムはピアース・ブロスナンが扮した第5代のジェームズ・ボンド(1995~2002年)がお気に入りらしい。

『M:I-2』
製作年/2000年 原作/ブルース・ゲラー 製作・出演/トム・クルーズ 監督/ジョン・ウー 脚本/ロバート・タウン 出演/ダグレイ・スコット、タンディ・ニュートン、リチャード・ロクスバーグ、アンソニー・ホプキンス

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このような記事が読めます。
●トム・クルーズは、なぜ撮影初日に超危険なバイクアクションへ挑んだのか? 最新作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』が何度も観たくなるハナシ。
●【前編】『ミッション:インポッシブル』シリーズの面白さを改めて考察する。個性あふれる作品が揃った前期/第1作~第3作。
●【後編】『ミッション:インポッシブル』シリーズの面白さを改めて考察する。トム・クルーズの理想が形成されていく後期/第4作~第6作。
●苦悩とチャレンジ シリーズの監督たちはいかにして昇華させてきたのか?
●時代の荒波を乗り越え、独自のヒーロー像を築いてきた二大スパイシリーズを比較!『M:I』と『007』の違いを考察する。
●ファッション視点で語るイーサン・ハントの魅力。
●情にモロくてミスしがちな敏腕スパイ、イーサン・ハントはどのように成長してきたのか?
●ブラッド・ピット、ジョニー・デップとの比較でわかるトム・クルーズの生き様とは?
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