今やタイムレスなSFトリップムービーとして愛され続けている『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズだが、テーマをファッションで切り取ると断然1作目が推し。なぜなら、舞台になる1980年代と同50年代に流行ったスポーツウェアが、他2作の時代背景に習った服とは違って、それこそタイムレスなワードローブのスターターキットとして今にも通用するからだ。マイケル・J・フォックスが躍動する主人公、マーティのコスチュームからそこを解説して行こう。
まず、マーティのイメージを決定づけたのが、米〈クラスファイブ〉の商品だと言われているレンガ色のダウンベスト。アウトドア・ブランドにしては珍しく表地にブランド名が刻印されておらず、そのシンプルさが妙にオシャレ心をくすぐる。ダウンベストは’80年代のヒットアイテムだが、それを見た’50年代のダイナーの主人からは、『どうした坊や、船が難破でもしたのか。救命胴衣なんか着て』と揶揄われる。そんな風に映画では服もタイムスリップが引き起こす笑いに一役買っているのだ。
デロリアンのシーンでマーティはダウンベストの下に厚手のパッチワーク付きデニムジャケット、その下にチェックのシャツ、さらにその下にレンガ色のTシャツという超レイアードファッションで登場する。デニムジャケットはジーンズメーカー、〈ゲス〉のアッパーライン、マルチーノのもので、シャツはシアトルに拠点を置く〈シャー・サファリ〉の商品だ。この重ね着、若干くどいと思ったら、撮影場所の駐車場が寒すぎて衣装コーディネーターが急いで取り揃えたものだとか。さもありなん。
また、マーティは小柄ながら長く引き締まった下半身に〈ゲス〉のジーンズをハイウエスト、ノーベルトで穿いている。ジーンズをハイウエストで穿くのが’80年代っぽい。今、裾広がりのダメージジーンズを極端なハイウエストで穿くのが流行っているのは、もしかして流行の繰り返しなのだろうか。
他にも、〈ナイキ〉のブルーイン、〈コンバース〉のオールスター、’55年でマーティが穿いているのを見たロレイン(リー・トンプソン)が、思わずマーティの名前を〈カルバン・クライン〉だと勘違いする紫色のアンダーウェアにもスポットが当たる。’55年にデザイナーのシグネチャーが入った下着なんてなかったからだ。
こう並べると、確かに1作目のワードローブはタイムレスだし、何よりも、マイケル・Jが着崩れた服も着こなせる上品でセクシーなルックに恵まれていたことが大きいと思う。ちなみに、そのマイケル・J、昨年度のアカデミー賞でジーン・ハーショルト友愛賞に輝いている。彼自身が患うパーキンソン病に関する長年の支援が評価されたものだ。授賞式での彼は相変わらず若々しく、なで肩に羽織ったブラック・タキシードがよく似合ってました。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
製作年/1985年 製作総指揮/スティーヴン・スピルバーグ 監督・脚本/ロバート・ゼメキス 脚本/ボブ・ゲイル 出演/マイケル・J・フォックス、クリストファー・ロイド、リー・トンプソン、クリスピン・グローバー
photo by AFLO