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CULTURE カルチャー

2025.02.01 NEW

『劇団四季創立70周年を超えて 浅利慶太が目指した日本のブロードウェイ』著者特別寄稿!
ミュージカル『キャッツ』の秘密——初演千秋楽の観劇記

本書でも劇団にとってターニングポイントのひとつなった作品と記されるミュージカル『キャッツ』。1983年の初演千秋楽の観劇記を著者の梅津 齊さんが特別に寄稿。興奮のるつぼと化した当日の劇場の様子が鮮やかによみがえる!

ミュージカル『キャッツ』の秘密——初演千秋楽の観劇記


ミュージカル『キャッツ』のネコたちは千秋楽の2時間40分を歌い踊り切った。万雷の拍手の中、出演者が勢揃いすると出演者の座長格の猫が1年間474回公演に対する都民ほか多くの支援に対する謝辞を述べ、次は大阪での1年間になりますと型通りの挨拶が終わると、グリザベラ(老いた娼婦猫役)がスーッと上手袖に近づき、作曲者ロイド=ウェバー夫妻を案内してきた。短い拍手は止み、と同時に背後にはレザー光線で“ウイ・シャル・リターン・トゥ・東京”。作曲家の挨拶が始まった。

「素晴らしいパフォーマンスでした。私の作品が日本で上演され、3年前からの夢が叶った。いつの日かロンドンでこのキャストでやりたい。行政当局がテント小屋に理解がないなら、この劇場を丸ごと買い取って持って帰りたい」

観客は笑いながらひときわ大きな拍手を送った。キャスト全員も拍手の中、夫妻は手を挙げ背後のレザー光線を指し舞台を後にした。それを待ってネコたちは素早くそれぞれの巣に戻るように隠れる。音楽が始まる。フィナーレだ。ゴミ捨て場に集まり年に一度のカーニバルを楽しみ、その思い思いの出し物の中から選ばれた1匹のネコが天上界に昇ることを許される。それがまあ、スジといえばスジだろう。これ以上は言えない。言わない。観客は拍手をしながら次々に立ち上がり、結局全員のスタンディングオベーションとなり、叫びと足踏みのりズムが揃い、仮設の階段席が崩れるのではないかと心配になったが、そういう私自身もみんなと同じように全身でフィナーレを楽しみ、別れを惜しんだ。約20分ほどだった。ネコたちに特に疲労の色はなかったが、この歌と踊りの激しさから汗が光って見えた。フィナーレの中に“鉄道猫の歌”が出た時、私は笑いだしていた。

この少し前になるが、四季の営業統括部長と札幌で打ち合わせをしている時“キャッツテント”製作スポンサーとなって2億円を協賛した会社の担当常務がゴルフ場で“鉄道猫”のメロディーをプレイの前から終わりまで、口ずさんでいたという話をしていた。「君、大丈夫だろうね。キャッツさ」。「大丈夫です。この作品は何年も続きますよ。9、10月と11月の10日までのチケットも2~3日で売り切れましたよ」。「私を専務にしてくれ。頼むよ」と。私は笑わない訳にはいかなかった。「ジョークで本音、でしょう」と言ったものだった。

“鉄道猫”の歌はまるで列車が煙を吐いて、快適に走っているイメージを喚起させてくれるのだった。そうして気づいたのだが、背後の夜空にレザー光線で“次は大阪公演で会いましょう”という文字が描かれていた。1000人を超える満員の会場で足踏みし、泣き、叫び、手を振り拍手する。人々はこの劇場が仮設であることを瞬時も考えていないことに私は驚いていた。テント劇場は完璧な劇場だった。お手洗い、喫煙所、その他観劇に必要な設備は過不足なく整えられていた。アンドリュー・ロイド=ウェバーでなくても舞台人ならば欲しくなる素晴らしいテント小屋だった。

その後のロイド=ウェバーは自分の作曲をもとに株式会社を立ち上げ上場したと浅利さんは話していた。「すごいなあ。作曲とそれによる舞台の価値に投資させるというのは」と。イギリスでは、ビートルズに次ぐ作曲家として爵位(男爵)が与えられている。正式には。サー・アンドリュー・ロイド=ウェバーとなるのか。バロン・アンドリュー・ロイド=ウェバーとなるのか。ロイド=ウェバーにそう呼びかけたら、どういう反応をするのかと考えると面白い。彼はそんなことに無関心だと考えるのは日本人的発想なのかも知れない。そんなことはどうでもいい。彼の音楽は実に見事だ。

ロイド=ウェバーの今日の舞台の成果に対する賛辞は正当なものだと私は思った。夫妻はともに劇団四季の『キャッツ』に驚いたのである。その上テントの“キャッツ・シアター”に驚いたのである。俳優のダンスの技術はミュージカル『ウェストサイド物語』の実績がある。この時の舞踊監督ボブ・アーディティによる猛特訓を行い、劇団四季の俳優のみで日本のミュージカルを国際レベルに導く。これが演出家浅利慶太の方針だった。そしてそれが実現していったのである。私の観た劇団四季の『ウェストサイド物語』はすさまじかった。

その10年前1964年11~12月に日生劇場で上演された『ウエスト・サイド・ストーリー』は、プロデューサー浅利慶太の驚くべき企画だった。かつて一度もなく、この後にもないプロデュースだった。ブロードウエイのダンサーをその地でオーディションをしたものだ。その彼らを東京で2カ月にわたりジェローム・ロビンスの弟子、ボブ・アーディティが特訓をし、最後にジェローム・ロビンス本人が来日。つめのダメ出しのうえ上演した。それは日本の観客に衝撃を与えたものだった。

劇団四季のミュージカルはそこからブロードウェイに追いつけ追い越せを合い言葉に精進してきたものだ。ボブ・アーディティの特訓を受けた四季の俳優たちは最後にロビンスからの猛烈なダメ出しに耐え、それは俺たちにこわいものはないという大きな自信になった。劇団四季の『ウェストサイド物語』はこうして彼らの物語となった。私はその初演を日生劇場で観た時、感激で震えた。

彼らのその経験が1983年以降の『キャッツ』に生かされたのである。そしてそこには日本の振付師、劇団四季嘱託、山田 卓の力があったことも忘れられない。イギリスのキャストとの比較でロイド=ウェバーは日本の俳優たちに軍配を上げたのであろう。「いつの日かロンドンでこのキャストでやりたい」と言わせたのはそういうことだったのだと私は確信を持って断言できる。

この日からざっと36年めだ。1万回記念公演は2019年3月12日、東京・大井町のシアターで観た。現在は広島市で上演中である。2月23日が千秋楽で総公演回数は1万1615回となる。次は仙台公演と決まっている。『キャッツ』はまだまだ色褪せない。

●特別寄稿第一弾はこちら!
私の劇団四季はここから始まった

ミュージカル『キャッツ』の秘密――初演千秋楽の観劇記『劇団四季創立70周年を超えて 浅利慶太が目指した日本のブロードウェイ』

梅津 齊 著
発行:日之出出版 発売:マガジンハウス
2024年12月26日発売
価格:1980円(税込み)
【購入する/日之出出版ストア】

演劇とミュージカルを日本に定着させた
浅利慶太と劇団四季の道のりをたどる一冊!


約27年にわたり劇団四季に在籍し、退団後も浅利慶太氏と劇団四季を見つめ続けてきた著者。『浅利慶太―叛逆と正統―劇団四季をつくった男』上梓から4年経ち、若い四季ファンにも読んでほしいという思いから本書を執筆。長野県大町市にあるかつての山荘兼稽古場、また劇団創立70周年を迎えリニューアルオープンした「劇団四季 浅利慶太記念館」を訪ねるところから始まります。思い出は時を超え、劇団創立から日生劇場との関わり、転機となる数々の作品、本格的な全国公演が始まるまでの決して平坦ではなかった道のりを、生前の浅利慶太氏の、あまり知られていないエピソードを交えながら綴られています。巻頭カラー口絵では、本書に登場するいくつかの作品の舞台写真も紹介しています。

【目次】
一 半世紀を経て、信濃大町へ
1 思い出の「四季山荘」
2 記憶は“あずさ25号”に乗って
3 懐かしき山荘にて
4 長野・信濃大町で新たに知ったこと
二 新たな演劇への決意――劇団四季いよいよ始動
1 恩師の衣鉢(いはつ)を継いで
2 創作劇連続公演と新劇場の誕生
3 石原慎太郎さんのこと
三 浅利慶太の大計画
1 三島由紀夫氏のつまずき
2 思わぬ誤算
3 誹謗中傷と闘いながら
4 狙われた才能
四 全国公演を目指して
1 反省からの出発
2 本格的全国公演始まる
3 『ミュージカル李香蘭』―歴史の真実の一コマとして
4 幸運の『キャッツ』がやってきた
あとがき

【著者略歴】梅津 齊(うめつ ひとし)
1936年北海道稚内市生まれ。樺太泊居町にて終戦。北海道学芸大学卒。熊本大学大学院日本文学研究科修士課程修了。1962年、劇団四季入団、演出部。浅利慶太氏に師事。1970~1989年北海道四季責任者として劇団四季公演及び『越路吹雪リサイタル』北海道公演を担当。1985年、札幌市教委、札幌市教育文化財団の共同事業として、演劇研究所「教文演劇セミナー」(夜間二年制)を設立、指導。2005~2010年、熊本学園大学非常勤講師。1994〜2022年、熊本壺溪塾学園非常勤講師。著書は評論『断章 三島由紀夫』(碧天舎)、『ミュージカルキャッツは革命だった』(亜璃西社)、『浅利慶太―叛逆と正統―劇団四季をつくった男』(日之出出版)

 
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