『AIR/エア』
製作年/2023年 製作・監督・出演/ベン・アフレック 脚本/アレックス・コンべリー 出演/マット・デイモン、ジェイソン・ベイトマン、クリス・タッカー
仕事で大きな壁にブチ当たったときに観たい!
エア・ジョーダンといえば、人気がありすぎて街中での“エア・ジョーダン狩り”なる犯罪行為まで生まれた伝説のバスケットシューズ。その裏では、当時はライバル企業の後塵を拝し、バスケ部門閉鎖の危機にさらされていた〈ナイキ〉の一発逆転の大博打が打たれていた! 彼らの秘策はただひとつ、ナイキだけは履きたくないと公言していたマイケル・ジョーダン選手と専属契約し、ジョーダンの名を冠したコラボシューズを生み出すこと。
ビジネスには欠かせないリスク管理の観点からいえば、狂気の沙汰としかいえない無理押しのオンパレードに驚かされるが、さらにスゴイのが個人ではなく会社組織として成し遂げたこと。先例のないアイデアを押し通すのは、組織が大きければ大きいほど難しい。どうやって常識を打ち破り、社内の稟議を通し、一点突破を成し遂げたのか。仕事で大きな壁にブチ当たったときこそお手本にしたい。
『テトリス』
製作年/2023年 監督/ジョン・S・ベアード 脚本/ノア・ピンク 出演/タロン・エガートン、ニキータ・エフレーモフ、トビー・ジョーンズ
テトリスのゲームのライセンス権をめぐる攻防!
1984年にソビエト連邦のコンピューター技術者によって生み出され、世界を席巻する大ヒットゲームとなったテトリス。しかし世界が鉄のカーテンで分断されていた冷戦時代に、ソ連のゲームのライセンス権を得る方法は現代では考えられないものだった。
日本を拠点にするゲームメーカーのヘンク・ロジャースはラスベガスのゲームショーでテトリスに出会い、日本で発売する権利を取ってニンテンドーに売り込もうとする。ところがテトリスの窓口はソビエト連邦当局で、西側のビジネスルールがまったく通用しない。しかもテトリスに目をつけたゲーム業界人が、詐欺まがいのやり口でお互いを出し抜こうとした結果、ライバルたちがそろってモスクワで鉢合わせすることに……。
ヘンク・ロジャースの実体験に基づく本作は、ライセンス権をめぐる風変わりな冒険物語だが、映画化に当たってKGBが絡んだスパイ映画の要素もプラス。どこまでが真実かはさておき、おなじみのゲームの面白すぎる裏話に誰もが仰天するに違いない。
『ジョイ』
原案・製作・監督・脚本/デヴィッド・O・ラッセル 出演/ジェニファー・ローレンス、ブラッドリー・クーパー、ロバート・デ・ニーロ、エドガー・ラミレス
超便利グッズを発明したシングルマザーを描く!
手を汚さずに水を絞れる掃除用モップを発明し、特許王として大成功したシングルマザー、ジョイ・マンガーノの実体験をベースにしたサクセスストーリー。毎日、仕事に家事に子育てに奔走しているジョイは、主婦の知恵を武器にした新商品を開発し、テレビショッピングの世界に殴り込んで大ブレイク。しかし悪質な業者との取引や、魑魅魍魎が跋扈する特許の世界のカラクリなどなど、ビジネスに関してはど素人のジョイに次々と試練が襲いかかる!
苦境を跳ね返すためにきっぷよく啖呵を切るジェニファー・ローレンスの熱演に喝采を送りたくなる本作。しかし主人公にとっての最大の悩みのタネが、自分勝手な家族たちというのが実にリアル。調子のいい父親、引きこもりで昼メロ中毒の母親、自分をライバル視する姉、別れたはずなのに地下室に住み着いている元夫……。さんざん足を引っ張られながらも縁を切れない家族ゆえの悩みに身につまされるひとも多いはず。笑うに笑えない日常と家族のドラマを描いたブラックコメディとしても秀逸だ。
『ジ・オファー/ゴッドファーザーに賭けた男』
製作年/2022年 製作総指揮・出演/マイルズ・テラー 出演/マシュー・グッド、ジョヴァンニ・リビシ、コリン・ハンクス
トラブルだらけの製作現場をドラマ化!
映画史上最高傑作のひとつに数えられ、マフィア映画の金字塔としても名高い『ゴッドファーザー』。しかし、その誕生の裏側は映画に負けず劣らずエキサイティングで、なおかつ綱渡りの連続だった! 『ジ・オファー ゴッドファーザーに賭けた男』は、『ゴッドファーザー』のプロデューサーを務めたアル・ラディの回想をもとに映画作りにまつわるドタバタを詰め込んだミニシリーズ。
カネに困って大衆向け小説に転向したギャンブル狂の原作者マリオ・プーゾ。低俗なマフィア映画なんて興味がないと再三オファーを突っぱねたコッポラ監督・無名で地味で背が低いという理由でクビになる直前だった主演スターのアル・パチーノ。さらにはマフィアの映画を作るなんてけしからんと激怒したモノホンのマフィアのボスまで現れる。よくもまあこんなにもトラブルだらけで行き当たりばったりだったのかと呆れるやら笑えるやら。しかしスリリングな現場のエネルギーこそが名作傑作を生み出す源泉なのかも知れない。思わず映画の奇跡を信じたくなる痛快作だ。
『パッドマン 5億人の女性を救った男』
製作年/2018年 監督・脚本/R・バールキ 出演/アクシャイ・クマール、ソーナム・カプール、ラーディカー・アープテー
生理用ナプキンの開発と偏見に挑んだ闘いの物語!
女性の生理が“穢れ”として忌み嫌われていたインドで、衛生的で安価な生理用ナプキンを提供するために人生を賭けた男がいた。妻が生理時に不衛生な布や新聞紙などをナプキン代わりに使っていると知ったアルナーチャラム・ムルガナンダム(劇中での名前はラクシュミカント)は、専門的な知識など一切なかったが、高価な輸入品に負けないナプキンをローコストで製造する方法を模索する。しかし生理自体がタブー視されているインドでは、ムルガナンダムの努力は嘲笑され、家族からも恥ずかしいと背を向けられてしまう。
ただ生理用ナプキンを開発するだけのお話ではない。因習と偏見にとらわれた社会そのものに立ち向かい、国を越えて世界に影響を与えるまでを、ドタバタとユーモア、そしてインド映画らしいたっぷりのエモーションで描いた熱い闘いの物語。ベースになった実話にも興味が湧いたら、アカデミー賞に輝いたネットフリックスの短編ドキュメンタリー『ピリオド -羽ばたく女性たち-』もオススメ。
photo by AFLO