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CULTURE カルチャー

2022.10.08

『フォレスト・ガンプ/一期一会』は映画界に残したものとは?
ツメアト映画~エポックメイキングとなった名作たち~Vol.12

 

 


フォレスト・ガンプは、ずっと走っている。実際、この映画は主演のトム・ハンクスが”走る”だけの物語だと定義しても過言ではない。本物のイノセントマンであるガンプは、アメフトのルールが理解できなくても、苛酷な戦場に駆り出されても、時代のヒーローに祭り上げられても、一切関係なく、ただマイペースに走りたいから”走る”。まるで地上に舞い降りた天使のように、ひたすら無心そして無欲で……。
 

 
というわけで、前回のツメアト映画として取り上げた『バック・トゥ・ザ・フューチャー』三部作(1985年~1990年)に続き、今回はロバート・ゼメキス監督のもうひとつの決定的なマスターピース――1994年のアメリカ映画『フォレスト・ガンプ/一期一会』である。アカデミー賞作品賞まで受賞した立派な名作。

原作は、ウィンストン・グレーム(1943年生~2020年没)が1985年に発表した小説だが、もはや人気や知名度は映画のほうが圧倒的に上だろう。脚本を務めたのは、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2008年/監督:デヴィッド・フィンチャー)や『DUNE/デューン 砂の惑星』(2021年/監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ)など現在に至るまで多数の話題作を手掛ける名手エリック・ロス。

ちなみに原作者グレームは映画化のタイミングで、ガンプの哲学と名言を整理した書籍『ガンピズム――フォレスト・ガンプの生きる知恵』を発表。日本版(ソニー・マガジンズ、1995年刊)の翻訳者のひとりは、あのデーブ・スペクターである。
 

 


お話をざっくり整理すると、米南部アラバマ州の小さな田舎町に生まれたとびきりピュアで善良な白人の男の子、その名もフォレスト・ガンプが、何も考えずに”走る”ことを覚えてから、なんと1950年代から80年代まで、約30年にも及ぶアメリカ現代史のど真ん中を駆け抜けていくというもの。

エルヴィス・プレスリーが登場し、公民権運動、ベトナム戦争、ヒッピー・ムーヴメントなどが起こりつつ、アポロ11号の月面着陸、ピンポン外交、ウォーターゲート事件、元俳優ロナルド・レーガンの大統領就任まで……。思えば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の第一作が描いた1985年(現在)と1955年(過去)の間に、ほぼ丸ごとすっぽりはめ込める歴史軸のブロックだ。
 

  

 


その中でいまの目から見て特に驚かされるのは、スティーヴ・ジョブズとスティーヴ・ウォズニアックが立ち上げたばかりのアップル社のエピソード(1976年起業)。ガンプは戦友の元上官、ダン・テイラー小隊長(ゲイリー・シニーズ)が最初期の同社に投資してくれたため、一生お金に困らなくなった。しかしガンプ自身は、この世界を席巻する一大帝国となるテクノロジー企業を、「どこぞのフルーツ会社」としか思っていないのだった!
 

 


おそらく『フォレスト・ガンプ/一期一会』が我々を”ちょっといい気分”にさせてくれるのは、激動のアメリカ史を優しく概観する癒やしの視座と同時に、一種の成功物語でもあるからだろう。ガンプはひたすら無欲&無心で、ただ”その場”を一生懸命に生きているだけなのだが、結果的にケネディやジョンソン、ニクソンといった歴代の米大統領と会見の場を与えられ(ガンプは政治的信条を持たないので、当然にも党派を超えてしまう)、テレビのトークショーでジョン・レノンと共演したりなど数多くのセレブとも交流。自分でなんとなく起こしたエビ漁業の会社も大成功を収める。
 

 


もともと少年期のガンプは虚弱児の落ちこぼれだった。ところがフタを開けてみると、人生大フィーバーの連続! まさしくガンプのお母さん(サリー・フィールド)が教えてくれたように、「人生はチョコレートの箱。開けてみるまでは中味がわからない」のだ。

た・だ・し! あくまでもガンプ本人は”ひたすら無欲&無心”(何度も繰り返すけど!)なのがポイント。例えば幼なじみで初恋の相手、ジェニー(ロビン・ライト)との切ない別れのあと、ガンプは突然やみくもに〈ナイキ〉のスニーカーを履いて(モデルは“コルテッツ”。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』での〈ナイキ〉のネタは前稿を参照されたし)アメリカ中を走り出す。

するとマスコミが食いついてきて、「なぜ走るんですか?」と併走しながらインタビューを試みるのだが(ちなみにこれは1970年代、アメリカ人の健康志向から起きたジョギング・ブームを背景としている)、ガンプは「理由はないよ。走りたいから走っているだけ」と答えるのみ。ぶっちゃけ失恋でヤケになったことが原動力であり、次第にガンプはその理由さえも忘れていくのだが、世間が勝手に“意識高い系の意味”をつけて神格化していき、またしてもガンプは時代のアイコンへと祭り上げられてしまうのだった。
 

 


ゆえに、煩悩まみれの欲深い我々が「あいつうらやましいなあ」とか思っても、ガンプは今日も風に吹かれて、“走る”のをやめた時は静かにベンチに座るだけ。あえて意識高い系っぽく解釈すると、流動性に身を任せるガンプの人生は“手放す”ことの連続とも規定できるだろう。そこに漂う諸行無常の感覚――あらゆるものはただ通り過ぎ、常に変わってゆくという仏教的な考え方が、『フォレスト・ガンプ/一期一会』という映画の重要な生命線になっている。まあ、ガンプにそんなこと言っても「え?」とか返されるだろうけど。

また映画的なツメアトで言うと、“フィクション+ドキュメンタリー”の“ホラ話”的映像技術が挙げられる。架空の人物であるフォレスト・ガンプが、時代の表層を駆け抜けていく中で、本物のアーカイヴ映像とドッキング。歴史的な現場に彼が居合わせた”ニセの記録映像“が現出するのだ。この手法の前例としては『カメレオンマン』(1983年/監督:ウディ・アレン)が挙げられるが、『フォレスト・ガンプ/一期一会』の場合は当時飛躍的に進化していたVFXやCGのおかげで格段に洗練されたものになり、映像表現的にもランドマークと位置づけられている。
 

 
例えば1999年に話題を呼んだ、永瀬正敏がベルリンの壁崩壊や王貞治選手の756号ホームラン、ロシアのゴルバチョフ書記長のペレストロイカの発表など、20世紀を象徴する出来事に立ち会う”日清カップヌードル“のCMを覚えている人は多いだろう。この『フォレスト・ガンプ/一期一会』式のデジタル合成は数多くのパロディや後続を生み、いまではおなじみのテクニックとして定着している。

もちろん技法的に定番化したと言っても、映画の感動に変わりはない。まさしく『フォレスト・ガンプ/一期一会』は、限りなく澄明なタッチで描かれた20世紀の時代絵巻だ。もしフォレスト・ガンプが、この激しく混迷する21世紀に生きていたら、どんな風に走り抜けていくのだろうか。文化、宗教、経済格差、世代や人種……世界中に巻き起こっているあらゆる争いを飛び越えて。

『フォレスト・ガンプ 一期一会』
製作年/1994年 原作/ウィンストン・グルーム 監督/ロバート・ゼメキス 脚本/エリック・ロス 出演/トム・ハンクス、サリー・フィールド、ロビン・ライト、ゲイリー・シニーズ 
 
 

 

 
文=森直人 text:Naoto Mori
photo by AFLO
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