『ワンダー 君は太陽』『ALONE/アローン』
遺伝子疾患で人とは違う顔で生まれて来たオギー。10歳となった彼が初めて学校へと通う物語『ワンダー 君は太陽』と、砂漠で任務中の兵士が誤って地雷を踏み一歩も動けなくなる『ALONE/アローン』をピックアップ!
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物語で選ぶ編
ムネアツなポイントは? “ベタな感動が苦手な人も涙に誘われる!”
『ワンダー 君は太陽』
映画で感動するポイントは人それぞれ。物語や登場人物にいかに共感するかが重要だが、ストレートでわかりやすく涙腺を刺激するパターンが好きな人もいれば、ベタな表現には引いてしまうけど、静かに胸にしみわたる繊細さは好きという人もいる。しかしごく稀に、あらゆる人を納得させる感動映画が誕生する。この『ワンダー 君は太陽』は、そんな1作だ。
主人公は、トリーチャー・コリンズ症候群という遺伝子疾患によって、人とは違う顔で生まれてきたオギー。10歳にしてすでに27回もの手術を経験した彼が、一般の小学校にはじめて登校するところから、この物語ははじまる。外見のせいで奇異な視線を浴び、いじめを受けながらも、友人を作り、学校生活に必死に慣れようとするオギー。この設定だけで、ストレートな感動は保証される。
しかしこの作品は、さらに一段上の予期せぬ感動を用意している。最初はオギーと仲良くするが、その裏にさまざまな葛藤を抱えたクラスメイト。オギーを育てるために自分の夢を犠牲にした母。両親がオギーのことばかり考えるので、つねに放っておかれる姉。そしてその姉の親友も複雑な状況に悩み……と、周囲の人物に視点を切り替えることで、彼らの心情が切なく胸に迫る作りが素晴らしい。しかも各人物のドラマが、パッチワークのように見事に絡んで行くものだから、難病モノというジャンルを軽々と超え、ベタな感動が苦手な人も、あちこちで不覚な涙に誘われるのだ。
主人公、オギーを演じるのは、『ルーム』の天才子役、ジェイコブ・トレンブレイなので言うまでもないが、いじめっ子も含めてほかの子役たちすべての演技が愛おしいほどリアル。そして両親役がこれまた絶妙で、オーウェン・ウィルソンのとぼけた持ち味が、深刻に悩みそうになるオギーと姉を無意識に癒していく。そしてジュリア・ロバーツの要所での演技が必見。はじめて友人と学校から帰ってくるオギーを校門で待つシーンは、喜びと不安、その両方をかみしめるような母の表情にグッとくる。
全体の構成、誠実な脚本、そして全キャストの名演技が美しくとけあって、映画全体の3/4くらいの場面で、涙腺が刺激される可能性がある本作。しかも涙の後の爽やかさも格別。2018年、最高の感動作として心からオススメしたい。
『ワンダー 君は太陽』
原作/R・J・パラシオ 監督・脚本/スティーヴン・チョボスキー 出演/ジュリア・ロバーツ、オーウェン・ウィルソン、ジェイコブ・トレンブレイ 配給/キノフィルムズ/木下グループ
2017年/アメリカ/上映時間113分
6月15日より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
©Motion Picture Artwork © 2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
文=斉藤博昭 text:Hiroaki Saito
セレブで選ぶ編
ムネアツなポイントは? “長身より演技のうまさに目がいくアーミー・ハマー!”
『ALONE/アローン』
レオナルド・ディカプリオ主演の『J・エドガー』や、ジョニー・デップ主演の『ローン・レンジャー』と大作に出演をしてきたアーミー・ハマー。約195㎝の長身は、ハリウッドの中でも目立つ存在で、劇中でも周囲とのサイズ感に差があり違和感を感じずにはいられなかった。しかし近作では、その長身だけでなく、確かな演技にも注目が集まるように。その実力は、ほぼ全編1人という、ワン・シチュエーション・スリラーである本作でも遺憾なく発揮されている。
ワン・シチュエーション・スリラーといえば、全編棺桶の中で展開する『[リミット]』や、渓谷の岩場に腕が挟まって取れなくなる『127時間』などがあった。巧みな設定がこのジャンルの面白さなのだが、そこは本作も負けてはいない。砂漠を移動中の米軍兵士が誤って地雷を踏み、そこから一歩も動けなくなってしまうのだ。さらに相棒は地雷で爆死。無線で救助を求めても到着まで52時間かかると非情の通告を受けてしまう。砂漠でたった1人、足を動かせず片膝をついたままの状態の彼に、灼熱の暑さ、喉の渇き、砂嵐、野生動物の襲撃と試練が次々と襲いかかる、というわけだ。
設定以外に要求されるのが、俳優の演技力。なにせ1人ぼっちなシーンが大半なので、観る者を飽きさせない技量が必要となってくる。今回は地雷を踏んでいるだけに、動きが制限される難しい役どころだが、アーミーは表情を頼りに驚きや絶望を表現。もともと控え目な演技が上手かったが、今回はその特長が生かされた形となった。
さて、物語の興味は救出までの52時間をどうサバイブするのか、にあるだろうが、魅力はそこだけではない。主人公は、極度の疲労から幻覚を見るようになり、過去のトラウマがフラッシュバックしてくる。この内面のドラマ部分が本作のテーマであり、核となっているのだ。父親との確執、恋人とのすれ違い。自分自身と向き合わざるを得ないシーンでの、アーミーの演技は見事。クライマックスでは、トラウマを乗り越え、自らの生死を賭けた行動に、心揺さぶられるに違いない。
実際、身長が高すぎることで、役柄にハマらず、長い間仕事を得るのに苦労したというアーミー。しかし、もはやそんな苦労も過去の話。『ジャコメッティ 最後の肖像』や『君の名前で僕を呼んで』でも、演技力は証明済み。後者ではゴールデングローブ賞にノミネートされている。おそらく本作でも、その評価を上げるだろう。ノミネートから一歩先に進む日も遠くはないはずだ。
『ALONE/アローン』
製作・出演/アーミー・ハマー 監督・脚本/フォビオ・レジナーロ、ファビオ・グアリョーネ 出演/アナベル・ウォーリス、ジェフ・ベル 配給/パルコ
2016年/アメリカ、スペイン、イタリア/上映時間106分
©2016 Mine Canarias Aie Roxbury Enemy SI Sun Film Srl Mine Film Llc
6月16日より、新宿シネマカリテほか全国ロードショー